248;月と影.02(牛飼七月)
僕が“死に戻り”の真っ最中にレイドクエストがあったことはシステムからの通知で知っています。
あの忌々しい
最悪だった――――気分は。
ナノカはその望みを叶えて貰えただろうか――――どちらにせよ気に入らない、気に食わない。
一縷の希望を排して生かしたのならば言語道断、だがしかしその希望を与えたとしてもそれが僕じゃないのは
あの首は、僕が斬るべきものだ。
だけど僥倖もまたあったのです。
レイドクエストがクリアされたことで、参加していない僕にも経験値が降り注いだのです。おかげで、アルマを失くしてスキルの一切を使用不能にされた僕も、レベルだけは100をちょうど迎えたのです。
でもこれは、同じくレイドクエストに参加していないレイヴンさんも同様です。レベル78の僕がちょうど100に上がったのですから――すでに80オーバーだったレイヴンさんも、110に届いたか届かなかったか、くらいのレベルになっていることでしょう。
このヴァーサスリアルというゲームは、
そもそも、PvPは出来る設計なのですが、推奨はされていないのです。
それを覆すのが“トリック”、或いは“リアルチート”と呼ばれる現実での経験値です。僕の場合は牛飼流軍刀術がそうですし、レイヴンさんも似たような何かを持ってはいるのでしょう。
ですが結局、牛飼流軍刀術がじゃあこの世界で強力な一撃を担うかと言われればそうではありません。この世界ではスキルや魔術による攻撃の方が強く、つまりスキルに慣れていればいる程、スキルの扱い方を身に着けていればいる程、単純に強くなれるのです。
そして僕には“死に戻り”を待つ間、ただただ長い時間だけがありました。
強制的に、何処の誰とも知らないぽっと出の人物に“死に戻り”を余儀なくされましたが、その怒りを邁進に創り変えても未だ終わらない、ただただ闇の時間だけがありました。
アルマを失った僕はかつて
色んな“たられば”を想起し、より明確な
“死に戻り”から復帰されないまま、僕はレベル100へと到達しました。
しかしアルマの無い僕は、
『悪いね――ボクの計らいでこんな窮屈な思いをさせてしまって。その代償と言うか、補填として、ボクに可能な範囲で質問に答えよう』
対話、質疑と応答――――僕に“死に戻り”を強制したアイツと同じ姿形を持つソレと、僕は時間の許す限り話し合いました。
ソレの齎す答えは、言葉というよりは
故に僕は、《
故に僕は、《
故に僕は、
「ナノカは――――?」
『……
ああ――――黒く渦巻く感情が沸き立ち、膨れ上がる気持ち悪さで吐きそうだ。
それでも僕は、僕が嗤っていることに気付いたのです。
僕の斬るべき首は、未だそこにある。
『そうだね――補填が
そう言ってシステムが差し出した手から零れた光は、僕の胸元に蛍のように飛び込んで来ては明確な
「これは?」
『キミの望みを、叶えるための代物だ。ボクもね? カレよりは、キミに期待しているんだ。悪いと思っているんだよ、ボクのせいでキミにこんな仕打ちを強いたことは』
それを握り締めると同時に、僕達を取り巻く暗闇の世界が白んでいきました。
『さぁ――――そろそろ目覚めの時間だよ。アルマを取り戻して、キミの望みを叶えると善い』
明らんでいく風景に白く融け込みながら、システムは響きだけを残して消えて行きます。
そして長かった“死に戻り”から復帰した僕は――――こうして、レイヴンさんと刃を交えるのです。
もしかしたらレイヴンさんも、僕みたく“死に戻り”からの復帰を待つ間にシステムとの邂逅を果たしたのかも知れません。あれがどういう思惑で動いているか謎ですが、『そうでは無い』という言葉を疑う余地は存分にあります。
ですが、レイヴンさんがその邂逅を果たしていたとしても、それがこの交戦の結果に好影響を与えるかと言われるとそちらの方を疑うべきでしょう。
最早、《
そして。
「――《
足元から黒く湧き立つ幾つもの呪詛の帯は、衣服の上から皮膚に浸透しその明度を闇と同化できる程に落とします。
額に二つの痛みが走り、鬼の双角が生えたことを確信します。
身体中の筋繊維がまるで二倍に、いえそれ以上に増えたかのような錯覚を得、どろりと視界は赤く溶けて行きます。
狂狼のように眉間から鼻先にかけて走る皺を深めたレイヴンさん。恐らく、きっと、多分、僕と同じように《
ですがそれが即座に消えたのは、胴体と首とが別たれたからです。
本来であれば行使を強く念じた時点で効果は発揮され、レイヴンさんも僕と同じように足元から黒い呪詛の帯を幾つも湧き立たせては纏い、闇そのもののような黒い肌と短くも尖鋭な双角を額から生やして膂力を倍増し、また強力な知覚力・反応速度と魔術防御力を手に入れていた筈です。
でも首が刎ね飛ばされたなら意味はありません。どれだけ
効果が発揮する直前だったからでしょうか、表示されたのは間の抜けた《かっこ》だけで――“かっこつかない”なら逆に《かっこ》は付かない筈なんですけど。
って言うか、馬鹿ですか。そもそも敵対すると決めた時点でどうして全力で相対しないんでしょうか。最初から《
ああ、何て顔でしょうか――――全く自分がそうされたことに気が付いていない、未だ戦闘の最中にいる表情です。その表情のまま、無様に転がっています。
漸く身体がそうされたことに気付いて背中から床に倒れました。頭は、まだ気が付いていません。気が付いていないまま、息絶えたのです。
「馬鹿にするなよ」
ああ、腹が立つ。
ああ、苛々する。
ああ、馬鹿馬鹿しい――――
それでも人の
ズタズタのグチャグチャにしても、全然足りない、もっと斬りたい、斬って斬って斬りまくりたい!
「――――ぁ、はぁ、はぁ……ああ。はぁ、はは、はぁ。は、っはは。ははは」
掻き混ぜられた血肉の溜まりの中から、
六角形に切り取られた水晶体を割ると、恍惚で溢れた僕の内側に、その光は突き刺さって溶けました。
「――――
呟きながら、傍らに浮かぶ
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