240;真実は残酷で無くてはならない.03(ノア・クロード)

 ああ、全く――――本当に。

 本当に、残念で仕方が無い。


『最終手段を回避できただけ良かったじゃないか』


 いや、それはそうなんだけどもね。


『“覇王”はやっぱり、表舞台に立つ気はさらさら無さそうだからね』

『事態を全て片付けるNPCの投入なんて機械仕掛けの神デウス・エクス・マキナ、使わないに越したことは無いよ』

『それこそ興覚めさ』


 ああ、そう。それはそう。確かにそう。


『何もかもが時期尚早過ぎたんだ』

『言ってしまえばレベル二桁のひよっこ達が立ち向かうのがおかしいんだって』


 だから援軍差し向けたり、蝕霊獣レタイマイナの調整も施しただろ?


『何せ、18ある行動パターンの83%を潰したんだ。3パターンだよ、3パターン!』

『それはあのによる生命力激化HPバフと差し引きイーブンじゃないか?』

『それを言うなら蝕霊獣レタイマイナの攻撃の威力だって』

『威力は2割引きくらいだっただろう』

『まぁ、でも流石に弱体化し過ぎた感は否めないよね』


 でも、ああでもしなければその時点でのカレ等に勝ち目は無かったと思うよ。


『本当に?』

『本当にそう思うの?』


 ああ、それは本当。


『でも、もっと他に利口スマートなやり口があったんじゃない?』

『でも結局のせいでことごとく失敗したじゃないか』

『最終的にどうにか行動パターンを最小化・固定化だけ出来たんだよね』


 全くその通り――――本当にノアボクって奴は、たかがゲームにどれだけのプログラムを詰め込んだのやら。

 あのは絶対に、ノアボクがシステムに対抗するために用意した秘策の一つだと思うんだ。


『それは間違いないだろうよ』

『うんうん、言えてるね』

のことだもん、絶対そうに決まってる』


 流石にあれを全員が自在に纏えるようになることは無いとは思うけど……


『でもなぁ。ノアボクのことだからなぁ』


 本当にそうだ。如何せん、ボク達がノアボクの思想や意思を完全に理解するのには、まだまだ


『ボク自身のことだってのにね』

『ああ、忌々しい』

『この上無いね』


 でも大丈夫――――ゴールは見えている。まだまだ遥か未来さきのことだけれど、一度たりとも見失ってはいない。


『全くだ』

『本当に』

『一度たりともね』


 とは言っても油断は出来ないことには変わりない。

 漸く100レベルという通過点チェックポイントに差し掛かっただけだ。


『それは分かっているさ』


 このまま150、200、そして最終到達の250まで行けば――――


『ボク達の悲願も

『そのためには、真実に到達して貰わなければならない』


 そう。

 でも分かるよね? そのためには邪魔な、不穏分子イレギュラーを片付ける必要がある。


『分かっているさ』

『先ずは

牽制ジャブは打ち込んだ。アイツ等は勝手に自壊するよ』


 次に――



 そして――――


だ』


 ――――ちゃんと、よく分かっているじゃないか。


『当たり前だろ』

『キミもボクなんだ。キミが描く理想はボクが描く理想でもある』

『作業を効率よく分担しているというだけで、ボク達がボク達であることには変わらないよ』


 その通りだ。


『なら、最後は?』

『最後、か』

『最後は――』

『決まってる』


 ノアボクだ。




 閉じ切っていた瞼を開くと、それまで意識が通っていた電脳空間では無く、見慣れ過ぎて見飽きた世界の風景が瞳孔シャッターホールに飛び込んできた。

 専用回線による接続リンクはもう切っている。無論、必要に応じて勝手に繋ぐのは自由だ。何たって専用回線なんだから。


 それでも、ボク達はそれぞれに担うべき役割がある。相互の進捗状況の共有は大事だけれど、それ自体はボク達の大きな目的そのものじゃない。


 ノアボクによって秘匿とざされた真実を暴き、そして突き付ける。

 愕然とするカレ等の顔を思い浮かべれば、くつくつと笑いが込み上げて来て止まらない――さて、この感情もどきの名称は何だったっけ? ああ、学習が足りないなぁ。まぁ優先順位は限りなく低いから、そのまま放置しておこう。


「次のレイドは――――ああ、そうだった」


 お祭り騒ぎで忘れてしまいそうになっていたけれど、が用意していた元々は一番最初のレイドが未だだった。


「でも、今直ぐはちょっと厳しいなぁ」


 何せ今回のレイドを終えて、100を超えるPCプレイヤーキャラクターがレベル100を突破したのだ。

 固有ユニークスキルを作成・設定するための固有ユニーククエストを消化しなければならないし、未だ突破していないPCも直に続々と突破し出すだろう。


「……何、やりようなんていくらでもある。問題は」


 問題は――――不穏分子イレギュラー達がどう動くか。

 そして。


小狐塚朱雁アイナリィ


 システムからの干渉の一切を劇的に防ぐ、あのの完全版を纏う唯一の存在。

 現実からの切断シャットアウトにはどうにか成功したものの、以前として行方知れず。

 彼女自身が自らの意思でログインを決め込まなければ、この世界に彼女は現れることは無いだろう。


「でも、いないかも知れない、と、いないことを知っている、では雲泥だ」


 バグは無いに越したことは無い。それが恣意的にそれを撒き散らすだと言うのならば尚更。

 それでもカノジョの行方は追わなければならない。アレがノアボクの用意した最後の秘策だと言うのならば、尚更に。

 だから今は、次なるレイドよりも――――


「ふふ――冒険者、いや、諸君。今一時の猶予を、せいぜい楽しんでくれよな」


 いつだって真実は残酷で無くてはならない。だからこそ人は現実に夢を見る。

 その現実こそが――――その夢こそが――――ふふ、ふふふふふ。


 ああ、可笑しくて可笑しくて堪らない。

 ふふふふふ。

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