208;菜の花の殺人鬼.29(シーン・クロード/姫七夕)
爆発が降って湧いた――――そんな表現が全く適した一撃だった。
青白い光が空から零れ落ち、地面に着弾したと同時に激しく爆ぜる。
辛うじて直撃は免れたものの、それでも低レベルの
だがその一撃は、俺達に群がる敵影すらも屠り去る――――次々と死に戻り連中の光の粒子とともに粉塵が舞い上がる中、そいつは颯爽と現れた。
「――――ぴょん♪」
「ロア……っ」
俺はそのスキルを見たことがあった。確かスキル名は《エーテルストライク》だったか。或いはその上級スキルの《スプレディンググリッター》か――どちらも、初めてのレイド戦でロアが
前者は光とともに魔力を帯びた一射が四分割され、後者は十二分割される。威力は前者に、攻撃範囲は後者に軍配の上がる二つのスキルは、
しかもこいつみたく《マスカレイド》を修得している場合、
だがそもそも、こういった乱戦では味方を巻き込む
「お前、仲間想いの奴だとばかり思ってたが」
「仲間? どこに仲間がいるんだぽよ? 少なくともあーしは、裏切りをしかけて来るような連中を仲間だとは認めていないすふぁ」
「裏切り?」
こくりと頷く小さな顔。相変わらず、鼻から下を半面で隠しているために表情が乏しい。
だが俺の目には怒りとも狂気とも似つかない、表現しようのない歪みが彼女の双眸に見て取れた。
例えるなら――――あの夜の、ジュライのような。
「こいつらは、お前の仲間じゃないってことか?」
訝しむ睨みをぶつけてみても、その歪みは白藍色の虹彩の奥でとろんと揺れるばかりだ。
「仲間だったぽよ。でも今しがた、その関係は失われたっぽろんちょ」
ああ、鬱陶しいなぁ語尾がっっっ!!
「だから巻き込んでしまってごめんぽよ。よければ一緒に、お掃除に精を出すのはどうかぴょん」
なるほど――こいつの敵は俺達じゃなく、俺達を襲った元【
薄ら寒いにも程のある提案だが、乗るしかないか。
「――分かった。貸し、だからな?」
「無利息無担保無返済が嬉しいぽよ」
「前二つはいいが最後のは駄目だ。いつか必ず返せよ」
「しょうがないすふぁ。さぁて――やるっぽろんちょ♪」
告げながら、踵を返しながら。
ぐるりと大きく旋回させた
そうしてロアは、剣戟の鳴り止まない戦場の中心を遠く見据えながら、空いた左手を額に翳し――――
「《マスカレイド》」
◆
「《隷剣解放》!!」
劈く声にぼくは振り返りました。
離れた所でジュライと対峙した、顔の上半分を烏のような黒い半面で覆った男の人が抜き放った小振りな刀を高く掲げました。
ジュライと同じ、
「ジュライ!」
思わず叫びが零れます。
ですが駆け寄ろうと足を踏み出した所で、ぼくは瞬時に危険を察知してそのまま前方に飛び込むように倒れ込みました。
頭上ですぱりと音が響き、僅かに斬られた髪の束がはらはらと落ちて行きます。
「チッ、スばシッこいヤツだ」
「っ――」
余裕ぶっているのか、追撃はありません。ですが
「漸クやる気になッタか?」
立ち上がったと同時に向き合ったぼくの覚悟を見て悟ったか、ぼくの相手はにやりと口角を上げました。
そしてぼくを睨み付けて蛮刀を構えにじり寄る彼は、和装のような前合わせの衣服に身を包み、その両肩には烏のものと思われる黒い羽の飾りをふんだんにあしらっています。
何と言うか――忍者なのか暗殺者なのか山賊なのかよく解らない風体です。
ですが構える蛮刀を見るに、そのアルマは
蛮刀というカテゴリの武器は、その二つのアルマでしか装備出来ないのですから。
相手のアルマが判れば、その相手がどのようなスキルを繰り出して来るかもある程度は予想が出来ます。
特にぼくの相手は、どちらかと言えば
「シゃぁッ!」
大きく踏み込みながら蛮刀を振り上げた相手の頭上に、《飛翔閃》というスキル名が
「ふッッッ!!」
そして振り下ろされた刃の軌跡が、そのまま推進力を得て急速な前進を見せます。ですが予想できた攻撃ならばぼく程度の
それと同時に、左手に握ったペンの先を相手に向けながら、ぼくは《リトルワード》とともに《
「ッッッ!?」
詠唱を省略したために効果時間は激減しますが、ですが相手の
そして矢継ぎ早に自分自身に対して行動速度を大きく上昇させる《
「むぅッ?」
ぼくの足元から空色の気流が立ち昇り、まるでロングブーツのように両脚を包み込みます。
麒麟の武で修得できるDランクスキルとは言え、本来は足を停めざるを得ない詠唱中にも自在に移動することが出来るようになる――実際には移動しても詠唱が中断扱いにはされない――
ぼくのリアルチートはこのスキルを組み込んで漸く10年前の栄光に立ち並びます!
「何ダッ、ソれはッ!?」
並行してFランクスキルの《
相性によってはまだ敗け確にもなりますが、今のぼくのこの相手ならば、翻弄しながら倒し切ることが出来る筈です!!
「行きますよっ!」
「ぬぅッッッ!?」
ぐるぐる、じぐざぐと跋扈しながら《ブックガード》で本を空中に固定し、両手に構えたペンでぐにゃりぐにゃりと軌跡を描きながら。
「クソッ! 《飛翔閃》ッ!!」
破れかぶれで放たれた攻撃なんか当たりっこありません。それぐらい、ぼくの機動力は向上しているのです!
そして――――
「――うおおおおおおッッッ!!??」
詠唱が完成する直前に《リトルワード》を組み合わせた《
右手――刻んだ魔術円から緩い弧を描く光弾を放つ
左手――刻んだ魔術円から直進する光線を射出する
詠唱――説いた魔術構文から解き放たれた光が収束し、空から降る一条の光で凶悪な爆発を湧き起こす《
その三つの魔術による攻撃が、同時に着弾し――――周囲の黒尽くめさえも巻き込んで激しい白閃が辺りを真昼のような明度で包みました。
そのどれもが日属性の魔術攻撃です。つまり、爆発に巻き込まれただけの敵はそれだけの
「がああああああああああ――――」
周囲に波濤した白い光が消えると、相手が死に戻った仄かな光の粒がただそこに舞い上がっては消えて行きました。
「ジュライっっっ!!」
振り向いた先の想い人の胸を、黒い刃が突き抜けていました。
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