198;菜の花の殺人鬼.21(須磨静山)
「ナノカっ!」
すっぱりと斬り付けられたオレがたじろいだ隙にジュライが大声を上げる。
怒号でも悲鳴でも無い、ただ困惑が形を成したみたいな情けない声――ああ、分かる。ジュライの奴、妹さんのことすっげー好きなんだろうな。だからこんな事を目の前でされて、どうすればいいのか判らなくてただそんな声を上げちゃってんだろうな。
「あーっと、確かに今のはオレが悪いな。兄妹水入らずを邪魔する感じでいきなり入り込んだらそらブチ切れられてもおかしくねーわ。悪い悪い」
辛うじて浅い傷で済んだ。もう一歩踏み込もうとしてたら結構ヤバかったんじゃないか?
しかし、この様子だとオレよりレベル高い気がするな――
「でもさ、オレも妹じゃないけど姉貴が二人いるからさ。血を分けた兄弟姉妹が争い合うのはちょっと見たくないんだよ。だからさ、」
「邪魔しないでって言ってるよね?」
またも剣閃が翻る――今度は鋭く首筋を薙ぐその一閃を、尻餅を着く覚悟で大きく仰け反った体勢で躱したオレは、そこからぎょっとして思い切り横っ飛んだ。
振り抜かれた刀身が、その先で細かい破片に分断され、
「うお――っつ!!」
視界の端で ◆]ジャスト回避[◆ という表示が煌めく――おかげで地面を転がりながら即座に体勢を立て直したオレは、背負っていた双剣を両手に構えて次の剣閃を防ぐことに集中する。
「ナノカっ!」
連刃剣――或いは蛇腹剣。オレの連結剣と同じく〈
ただしその扱いが難しいのと、射出機構や巻き取り機構が組み込まれ、またそれを保護するために強固な素材で固められているせいで無茶苦茶重い、と聞いたことがある。
それを、怒り任せにも関わらずここまで見事に、それこそ新体操かってくらいに美しく捌けているんだから――この子、一体何レベルなの? 笑いが込み上げて来るってもんだ。
しかしその笑いは、次に彼女が繰り出したスキルを見たことで更に深まる。
「《クリティカルエッジ》!!」
伸びた
「なぁっ! ちょっ! 待っ! 待てって!!」
全長10メートルくらいはあるかって言うのに、荒々しくも優雅にそれをぶん回すナノカは完全にそれを使いこなしている。
その証拠に、立会いが無くなったと見て散った
《デッドリーアサルト》
ナノカの頭上に現れた表示に目を見開いたオレは、伸び切った
確かに体勢とか気にせず行使とともにその形になるスキルだけれど、まさか武器までそのルールに従うとか思わないじゃん?
「だらぁっ!」
だが解っていれば対処法はある――オレもまた《デッドリーアサルト》を使うのだ。
武器を構えた状態で突進するこのスキルは所謂“突撃系スキル”に分類される。武器攻撃と移動を一緒に行うタイプのスキルってことだ。
“推進系スキル”と呼ばれる、移動のみを行うタイプのスキル――アリデッドがよく使うヤツ――同様に強制的に移動を余儀なくされるため、慣れた
「っ!?」
お、どうやらナノカもオレが同じ
となると、
「――《ダークソウル》」
ぶわり、と足元からまるで《原型解放》のような紫褐色の煙の帯が立ち昇る。暗く輝くその帯は――オレとは逆の、《
「……そっちか」
このアルマはオレの《
ぶっちゃけ《
それと対照的に、前にガンガン出てダメージを食らいながらそれを
そして《ダークソウル》ってのが、《
確か――――“
つまりダメージを与えない、攻撃しなければ全く問題が無い筈なんだけど――――普通は。
「ナノカっ!?」
そう――こんな風に、自傷行為ですらパワーアップに繋がっちゃうのが嫌なところよ。
再三翻った刃が暗紫色の帯を纏いながら拡散と収縮を繰り返す中で、その軌跡はナノカ自身をも傷付ける対象とする。
血の花を咲かせながらオレなんかよりも遥かに狂った剣閃を繰り出す姿はそれでも美しい。バレエとか習ってたんかな、って動きだ。
自分を傷付けることすら厭わない攻撃なもんだから、普通は台風の目っていうのは安全地帯の筈なんだけどそこすら刃の嵐は舞っている。
そして攻めあぐねていれば、狙いすましたように死角から襲い来る切っ先。
紙一重で避ければその後ろの刃節が
うーわー、これ、詰んでない? ――――って所で、その切っ先を横から突き落とす一閃。
「……ナツキ」
「……っ、」
おいおい、そんな苦悶の表情で繰り出す技じゃ無いだろ。妹さんもさることながら、やっぱり軍刀術の正統後継者だっただけあって、その突きは息を一瞬忘れるほど見事なものだった。
「ナツキは、ナノの味方だと思ってた」
「……味方だよ」
「じゃあ何で? 何でそんなことするの?」
「味方だから! ……見て、られないから……だろっ」
伸び切った
その顔も、腕も、胸も、腹も、背中も腰も膝も足首さえも――――自分で翻した刃でずたずたになって、黒いドレスですら赤いと判る。
そりゃあ、そうだよな。見てられないよな。良かったよ、ジュライがそうで。それでも何も出来ないジュライだったら、オレ――――
「見てられないから? 目も当てられないから? だから――ナノを、また斬るの?」
自嘲気味に呟いた彼女に、絶望的に目を見開いたジュライはまるで彫刻のように固まり切って。
「ああああああああああ!!!」
激昂したナノカが振り上げ、そして振り下ろした連刃剣の軌跡が――――
狼狽するだけのジュライは、その一撃を――――
「《
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