197;菜の花の殺人鬼.20(小狐塚朱雁)
「じゃあ、
「りょーかいぃ!」
背嚢から取り出した〈
ぱぁ、と明るく輝いていく
選ぶんは、〔フレンドの現在地〕。切り替わった画面に並ぶ中からスーマンの名前を強く見詰めると、ウィンドウがぐわぁーって伸びて周囲の背景全部を覆い隠し。
ジリジリとノイズ混じりに白く明らんでいく世界は、気が付けば見慣れない雰囲気の街中に移り変わる。瞬時にここが【デルセンの街】言うことをウィンドウから把握し、大通りのど真ん中に出来てる人垣の外側からスーマンがジュライそっちのけで妹さんと談笑してるんを確認した。
「いたっ」
その輪から抜け出そうと、フード付きの外套に身を包んだ
使うんは――あの夜以来。おかしくなったジュライを助け出すために、スーマンが初めてうちらに合流したあの夜以来や。
「
発動と同時に、うちの姿は周囲の風景に同化する――しこたま
こそこそしよる
「ひぃっ!?」
「しぃっ! ――静かにしぃや」
「……、」
高レベルの魔術になると相手に触っても相手はうちの姿・存在に気付かへんこともある。せやけど“見て欲しい”とか“気付いて欲しい”言う気持ちで以て触った相手やったら流石に分かってもらえる。
ショウゴは唇を細かに震わせながら青褪めた表情でうちを見とる。
あの輪の中に投げられたんは菜の花の花束や――つまり、この場に“菜の花の殺人鬼”が現れた言うこと。やからこいつは逃げ出そうとしたんや。なら、うちが先ずやることは――
「安心せぇ。うちはナツオから
「ナツオからっ!?」
「しぃ――しこたま
「……?」
「隠密の魔術使うてんねん。今、うちとアンタの姿はうちら以外には見えてへん。触ってもそれに気付かん筈やで」
漸く分かったショウゴは神妙な面持ちでこくこくと頷きよる。ほんま、物分かりの良いこって……。
「あの輪の中のあの子が“菜の花の殺人鬼”やろ? なら、このまま隠れておったら安全や。アンタはうちの護衛対象ちゃうけど、うちのエースがあない頑張っとんねん。ちょっくらそのまま大人しくしとってや」
ぶんぶんぶんと壊れた玩具みたいに必死に首を縦に振る振るショウゴ。せやけどコイツも、あのナツオと同じ、殺された他の四人と同じ、
うちも負けじとぶんぶん頭を横に振って、今しがた湧いた感情を振り払う。
今はあかん。あかんねん。
うちらパーティは、【
それを決めたんはアリデッドお兄様で、そしてセヴンちゃん――――条件付きでユーリカ姐さんも頷きはった。
燻り続けてるんはうちだけや。でも、やっぱり――――
「……物知りなんだね」
「ナツオから聞いたんだよ」
すっかり話は進み、一度は散らばった
せやけど、ほんまに“菜の花の殺人鬼”なんやな――漏れ出とる殺気がえげつないわ。あんな暗い瞳で睨み付けられたら、うちやったら泣き出しとるかも知らんわ。
あかんあかん。そんなことより、うちはうちでやらなあかんことせんと――
「ぶっちゃけるとさ。オレの所属しているパーティがナツオの護衛
「……そんなの」
「そりゃ信用してもらおうとか思って無ぇよ。君にしてみりゃムシが良すぎる話だろうし……でも、悪い話じゃ無いだろ?」
何考えとるか判らんけどスーマンが上手く場を回しとる。このまま後は、うちらが揃うだけ――お兄様、なるべく早く来て欲しい。お願いや、お願い……っ。
「――ナノカ」
停まりかけた時間を割くように、そう声を出したんはジュライやった。
あないに満ちてた殺気が嘘みたいに消え果てて、ナノカちゃんが不安そうな表情で振り向く。
「ナノカは、……ショウゴさんを、追っ」
「さん?」
まぁるく開いた目の奥の闇がぐどりと濁るんが見て取れる。殺気とは違う、もっと歪んだよく解らん、解りたく無い感情が押し寄せとる。
寒気がする――あかん、見てられへん。このままここでじっとしてられへん。お兄様、早く、早く、早く――――
「……追って来たの?」
「そうだよ。でもそしたらジュライがいて」
「僕も同じなんだ」
「何が?」
「僕も……スーマンさんと同じように、ショウゴさんの
痛い程に張り詰めた空気は真冬の極寒みたいやのに、何でこないに汗がぶわって噴き出て来るんやろう。
早く、早く――――
「ごめん。ちょっと、風が煩くて上手く聞き取れなかった」
「……僕は、……ショウゴさんの護衛
「……何で?」
痛い。我慢出来ひん。早く、早く――――
「スーマンが受けるのはまだ分かるよ。偶然にしちゃ出来すぎかなって気はするけど、でも人生もそんなもんだもんね。でもさ、でもさでもさ、ナ――ジュライが受けるのはおかしくない? だってナツ、ジュライさ、相手がどういう人か、」
「知ってる。ちゃんと知って、その上で引き受けた」
「何で?」
「……そうしなきゃいけないって」
「……何で? 何でそっちの肩持つようなことするの? ナツキもそっち側なの?」
「あー、ちょっとストップ」
ぐい、とスーマンが割り込む――せやけどそうしようとした瞬間、スーマンの胸に赤い線が迸った。
「――っ!?」
「邪魔しないでよ。ナノ、今、ナツキと話してるんだから」
遅れて、殺気が舞い戻った。
いつの間に取り出したんかは判らへんけど、さっきまで確かにだらりと垂らしていたままだった筈の右手には、歪な形した大きな剣が握られてて。
その切っ先が、赤く濡れとる。
たたらを踏んだスーマンとナノカちゃんとの間の地面には、飛び散った赤が作る小さな軌跡が。
「ナノカっ!」
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