186;菜の花の殺人鬼.09(シーン・クロード/小狐塚朱雁)
「ミシェルお姉様って何でそないにコンビニ詳しいん?」
「利用頻度の違いだろうな。戦場にはこの手のサービスは期待出来ない」
完全にミカだ。確か、プレイヤーネームは綾城ミシェル。あの牛飼七月と同じ牛飼流――彼女は銃剣術だが――を受け継ぐ武人にして、現役の傭兵。
その腕を買われてヴァスリの製作チームからゲーム内の“死んでる勢”の討伐を依頼された、クラン【
正直、俺たち【
とすると、隣にいるちんまいのもクランメンバーか?
そう、横目でちらりと凝視して彼女と共に買い物に来た彼女よりも遥かに幼い少女の容姿を目に焼き付ける。
緩くウェーブがかった黒髪は胸を隠す程に長く、やや長めの前髪が大きく丸い眼鏡を掛けた目元に影を落としている。
狐目と言えばそうとも取れる双眸はやや吊り上がり気味の奥二重。東洋人らしいエキゾチックな魅力がありつつも、つんと尖った小振りな鼻や薄めの唇がその幼さで彼女の魅力を包み隠している気もする。
全体的にシャープだな、顔付きも、体付きも。
年齢はどうなんだろうな? もしもこの子がミカの仲間なら、当然18歳以上ということになるが……正直、中学生でもおかしくはない。
大体、日本人って見た目と歳のギャップあり過ぎるんだよなぁ。特に女性。プラス3から5くらいは上に見てちょうど良いって何だよ。
俺の顔はまだ【
だが向こうにはあのルメリオこと久留米理央もいる。彼の
ならばミシェルがこのコンビニに来たのは俺を追って? それこそ何のために?
――――自意識過剰、で済ませていい問題じゃない気もするが、接触が無い以上何も出来ないな。
今後は迂闊な外出は控えるか? それこそ自意識過剰か?
「あ、これ買ってええん?」
「……稲荷寿司?」
「うちお稲荷さんごっそ好きやねん。あー、五目しか無いかぁ。
「そう言えば、実家は豆腐屋だったか?」
「せやねんで。結構代々続いてる歴史も由緒もある昔ながらの小さい豆腐屋です。地元の稲荷宮にも毎回お稲荷さん納めとるん」
「ほう……」
「今度うち帰ったら送りますよ。うちのおとんとおかんの合作お稲荷さん、こないなコンビニのとは比べ物にならへんもん」
「ああ、是非そうしてくれ」
そんな会話を小耳に挟みつつコンビニを出た俺は、非常に戸惑っていた。
っていうか。
横のちんまいの――うちのパーティの魔術師なんじゃなかろうかと。
アイナリィなんじゃね? と、俺の脳内ですこぶる冷静な俺がそう判断を下している。
……そう言えば家出をして、今現在は綾城ミシェルの家に厄介になってるって言ってたっけか。
……
…………
………………
……………………
◆
「お姉様、何買うん?」
「サラダチキンとサラダ適当に、後は新作のカップ麺が出てたらそれも。ああ、それと」
ミシェルお姉様と一緒に出向いたコンビニ。
別に大した買い物やあらへんけど、そもそもミシェルお姉様は傭兵の仕事の関係上、どっかに定住するいう考えがあらへん。
せやからお姉様宅はものごっそ生活感に欠けてはって、日用品やら何やらは割と都度都度買い足すいう方式や。
ミシェルお姉様、こないに美人さんやのに……料理とかあんませぇへんねん。勿体無ぁ。
何やお姉様の手料理とか振る舞って貰えるんかな言うてウキウキしとったけどほんのりガッカリやわ。
やけど考え方を変えれば、うちの手料理を振る舞える言うことやからな。
お姉様は今は海外飛び回ることもあらしまへんし、ほいで昨日から早速京女風の逆もてなしで胃袋鷲掴み計画実行中や。
計算違いやったのは、ミシェルお姉様が大のコンビニ好きやったことやな。手料理よりもコンビニ弁当やらカップ麺やらの方が舌に合う、てどないなっとんねん。
そら戦場にはコンビニあらへんよ? せやけどもやな、手料理よりもビニ弁好きておかしいやん。カロリーの権化やぞ? それでこないな美人さんいうのはおかしいやん。もっとでっぷりしとる筈やん。
ミシェルお姉様、勿体無ぁ。
折角こないに美人さんやのに、結婚しとらんどころか彼氏の一人二人いない言うんにも納得やわ。いや彼氏二人おったらそれも逆に驚くけどな?
「あ、これ買ってええん?」
お弁当のコーナーの物色に移ったお姉様の隣で、うちはおにぎりの列に並ぶ透明ビニールに包まれたそれを摘まみ上げる。
「……稲荷寿司?」
「うちお稲荷さんごっそ好きやねん。あー、五目しか無いかぁ。
「そう言えば、実家は豆腐屋だったか?」
「せやねんで。結構代々続いてる歴史も由緒もある昔ながらの小さい豆腐屋です。地元の稲荷宮にも毎回お稲荷さん納めとるん」
「ほう……」
稲荷様言うたらお揚げやん。うちもそら小さい頃からお揚げ食べて来たけども、やけどおとんが作るお揚げにおかんの作る五目寿司突っ込んだお稲荷さんはそらもう絶品以外の何物でもあらしまへん。
「今度うち帰ったら送りますよ。うちのおとんとおかんの合作お稲荷さん、こないなコンビニのとは比べ物にならへんもん」
「ああ、是非そうしてくれ」
よっしゃあ! これで胃袋鷲掴み計画も更に一歩前進や。
へへへ――がっちりキャッチ出来たらお姉様もうちにメロメロ、うちのお願い聞いてくれはるようになる。
そしたらアリデッドお兄様とも仲良くしてもらって、もしもお兄様のお兄様が“死んでる勢”やってもスーマンみたいに見逃してくれるって展開ありえるねんな!
ジュライがセヴンちゃん斬ったあの日に初めて
クラン【
でもミシェルお姉様も理央お兄さんも、全然そないな雰囲気持ってへんけどえらい親身なんや。
幹部は全員で六人いるって聞いててん、まだその三人としか絡めてへんし幹部以外のクランメンバーとは挨拶した人の方が遥かに少ないねんけど、でもクランの雰囲気はギラギラとはしとっても殺伐とはしてへんかった。
表向きはトッププレイヤーが率いる【
そいでその面々を、明文律がうまく繋いで纏めてはるんやろうな。ミシェルお姉様らしい感じや。
ルールとマナーに則って正々堂々勝負しようや、いう感じ――せやから“死んでる勢”相手やろうとも無駄に襲ったり戦ったりせぇへん。いや、煽りよる奴はおるけどもやな。
「ん?」
ふと、ミシェルお姉様が振り向いたレジの向こうにある出入口を見はった。
自動ドアがぷしゃー開いて、やたらめったらガタイのいい外国人が出て行くとこやった。
レジカウンターと出入口は同じ面に隣接してはる。せやから出て行くその外国人の横顔をうちらは見ることが出来て。
「あいつ――――」
ほんのり眉根を寄せたミシェルお姉様が、そないなことを呟きはった。
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