174;お父さんと一緒.04(須磨静山)
結局、アイナリィのお父さんことレナードの面倒はオレが見ることになった。
何でだよ、って盛大に突っ込ませてもらったけど、オレの相棒からの打診じゃ頷くしかねぇ――心情的にも、理屈でも。
オレたち
特に最低レベルのアイナリィはまだ50を超えたばかり――対する最高レベルのオレは68と、結構な差がついてしまった。
加えて、アイナリィはアリデッドやオレのように、ユーリカに鍛えて貰った
どのようなギミックやデザインが魔術に好ましい影響を与えるか、という概念がよく解らないんだとか――そう言われてみれば、オレだってそんなの考えたこと無い。
そもそも
つまりオレたちのパーティでは、アイナリィやセヴンに見合う術具系の
ただセヴンに関して言えば、彼女のアルマは
だからセヴンは武器タイプの
アイナリィはでもそうじゃない。彼女には武器タイプであれ防具タイプであれ、とにかく彼女の放つ魔術を底上げするような
ただでさえバグの恩恵でバカみたいな威力や強度の魔術を行使できる彼女だ。でもバグはいつかは修正されてしまう。
そうなったとしても、アイナリィがその魔術で以てパーティの主戦力として立ち回るなら。或いは障壁系スキルでパーティの
「スーマンはん、準備出来たでぇ」
「おっ、じゃあ確認させて貰うぜ」
ギルド【砂海の人魚亭】の入口近くのテーブルに広がった旅装を一つ一つ確認し、そしてレナードは教わった通りの準備が出来ていた。
「OK、問題無しだ」
「おおきに」
因みに、年上であるにも関わらずオレやアリデッドがレナードのことを呼び捨てにしていたり、ですます調や敬語を使わないのは“オレ達の方がここでは先輩だから”だ。
そもそもヴァスリのようなVRMMORPGに限らず、メタバース上に成り立つSNSやゲームでは、そこに現実とは異なる社会が形成される。
特にRPGならばそこに“ロールプレイ”という要素も入って来る。
どれだけ現実で年上だろうが偉かろうが、この世界においては新人。この世界にはこの世界の社会性があるってこと。
「よし、じゃあ行こうか」
「行きましょ行きましょ」
ただそれは前提の話で、オレ自身は別にタメ口利かれようが全然構わないし、アリデッドだって“そういうロールプレイだから”で済ませちまう人柄だ。
だからこのド新人が下手こいたって別に構わないし、偉そうな口上吐き散らかしても全然。
そういうコミュニケーション不全もひっくるめて楽しむのがヴァスリだし、合う合わないはあるだろうけど、オレは出来ればそういうのにも全部付き合っていきたいと思う。
だってオレにはもうここにしか世界が無いのだから――未練が無いって言ったら嘘になるけど、あるんだって叫んでもどうにも出来ないのがオレの置かれた状況だし。
そもそも、現実では死んだオレがどういうわけかこうしてこの世界では自由に人生を謳歌出来てる。
システムに守られているおかげで死ぬってことも無い――ただギルドの自室に舞い戻るだけ。
守らなきゃいけない人も見付けることが出来たし、そいつのためにも色々と頑張っていかなきゃなー、って感じだ。
だから現実への未練なんてものは、この世界でもっと生きていく中できっと消えて行くんだろう――――そう、思ってた。
「スーマンはん! こないな時はどうするんでっか!?」
「ごちゃごちゃ考えずに突っ込むんだよ!」
対峙する三体のゴブリンを相手に、レナードがそれならと意気込んでタックルをぶちかます。
そしてよろけた所に振り下ろした〈ショートソード〉がざぐりと食い込み、それでゴブリンの一体が断末魔の叫びを上げた。
「ほら、左から来てるぞ!」
レナードは後方から掛けるオレの声に、素早く〈バックラー〉を翳して横撃して来たゴブリンの短剣の一撃を受け止めた。だがほぼ同時に突っ込んできた一体の棍棒が深々と右上腕に
「ぐぅっ!」
「おっさん! 目ぇ回してないで前見ろ! 前!」
「――こなくそぉ!」
残る一体が決死の突撃を見せる。
だがそこでレナードは《
そして漲った力で以て肉薄した二体のゴブリンを跳ね除けると、眼前に飛び出して来たゴブリンの突撃を〈バックラー〉で受け止める。
「っしゃあああああ!」
通常よりも速度を増した剣戟がゴブリンたちの貧相な肌を切り裂き、そのまま残る二体を屠り去った。
「っしょいねん、ほんまぁ――」
「っおし、初バトルは上々だな」
正直、《
使うことによって得られる経験は、使わないでは得られない――当たり前のことだけど、いざ使わなきゃいけないって時に、使ったことが無い力ってのは手に余る。
「んじゃ仕上げだな」
初めての
「うっわ、まんま屠殺やん」
「そのうち慣れるって。ほら、手順教えるからちゃんと見てろよ?」
「ぐっろぉ……」
「最初は誰だってそうだよ」
何せ他のゲームと違って、ヴァスリは死体がその場に残り続ける。
その死体を放置していればそれに群がる腐肉を漁る動物だってやって来るし、疫病を撒き散らす魔虫がわんさか溢れたりもする。
それらの現象は新たな
死体処理もちゃんとやらなきゃ
――がさり。
「ん?」
「どうしはったんですか、スーマンはん」
森の茂みを掻き分けてこちらへと近付く足音と気配――立ち上がって振り返れば、そこにはレナードと同じく初心者と思わしき冒険者の姿があった。
彼女はオレ達のいる獣道へと飛び出して来ると、オレ達を見てすぐに声を上げる。
「助けて下さい、お願いしますっ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます