171;お父さんと一緒.02(姫七夕)

◆]レナード

  人間、男性 レベル1

   俊敏 6

   強靭 6

   理知 5

   感応 7

   情動 7


   生命力 56

   魔 力 35


  アニマ:修羅ソウラのアニマ

   属性:月

   ◇アクティブスキル

   《原型解放レネゲイドフォーム修羅ソウラ


  アルマ:騎士ナイト第一段階プリマ

   ◇アクティブスキル

   《カバーリング》

   ◇パッシブスキル

   《タフネス》


  装備

   〈ショートソード〉

   〈カイトシールド〉

   〈騎士ナイトの鎧〉[◆



「……こりゃ見事にド新人Newbieだな」


 アイナリィちゃんのお父さんが見せてくれた能力値ステータスに視線を投じながら、アリデッドさんは爬虫類特有の鋭い目を細めました。


「で、何でまたそんな奴がうちのギルド、しかもうちのパーティに?」


 そしてその視線はお父さんの後ろに佇む、覆いフード付きの術衣ローブに身を包む細身の男性に注がれます。


「それは今しがたお話ししてもらってたじゃないですかー。僕ちゃん、これでもそこそこ忙しい身なんで、もうホントこの辺でアディオスぶっこきたいんですよねー」

「物理的にアディオスぶっ込んでやろうか?」


 ぎろり、と冷たい目に怒気が宿ると、自分のことを「僕ちゃん」と呼ぶ幻術士イリュージョニストはげんなりした顔で手をぷらぷらと振ります。


 ルメリオさん――その術衣ローブの背に刻まれた交差する戦鎚の意匠は、ミカさん達と同じ【正義の鉄鎚マレウス】に属している証です。

 ぼくもダーラカ王国のクエストで辺境の地に赴いた際にミカさん達【正義の鉄鎚マレウス】の方々とは共闘させてもらいましたが――詳細に言えばぼくは戦ってはいないんですけどね――でもこの方はあの場にはいませんでした。

 ぼくよりも【正義の鉄鎚マレウス】と交流のあるアリデッドさんやスーマンさんも、ぼく同様にこの方に関する知見を持ってはいません。

 そして何より、何処か胡散臭い、大袈裟な演技めいた一挙手一投足が、この方を易く信用してはならないと警鐘を鳴らさせるのです。


「じゃあ繰り返すけどさ――はい、このキャラの中身プレイヤーはれっきとしたアイナリィちゃんのお父さん。そんで、諸事情のせいでお父さんと一緒にプレイしなくてはならない制約が発生しました。仲介者としては僕ちゃん。でも僕ちゃん忙しいし、アイナリィちゃんはそっちのパーティメンバーでここのギルドメンバーだ。つーまーりー、お父さんはそっちに預けるのが最適解っ。どぅーゆーあんだすてーん?」

「No, never.」

「はーっ? どの辺が一体理解不能なのさーっ!」


 まるで道化のように振る舞うルメリオさんに、アリデッドさんは眉間に皺を寄せた怒気迫る表情をぐいと突きつけます。


 ――ですが。


「アイナリィさん?」


 恐る恐る、という形容詞に相応しく、開かれた入口からひょいと顔を覗かせる彼女の姿に気付いたレクシィちゃんが漏らした声に、ぼくたちの誰もが彼女の不安そうな表情に注目しました。


「ぅ、……」


 唯一あまり表情を崩さなかったアリデッドさんは詰め寄る相手を変え、ルメリオさんの横をすり抜けてアイナリィちゃんに歩み寄ります。

 観念したように姿の全てを晒したアイナリィちゃんは、ですが目を逸らして罰の悪そうな顔で待ちます。


「よう」

「ん……その、」

「まさか謝る気じゃ無いだろうな」

「え? いや、……ものごっそその気やねんけど」

「何か悪いことでもしたのか?」

「……三日も連絡取らんと、」

「それだけの事情があったんだろ」

「……せやけど、仲間のことほっぽり出して」

「自分と家族のことは放り出して無えじゃねぇか」

「え?」


 アリデッドさんが振り向いたそこには、何やら神妙な面持ちで二人を見詰めるレナードさんの佇む姿があります。


「全然理解出来ていないが、大まかな事情はそこのルメリオから聞いた。何、家族でも楽しめるのがこのゲームだ、だから何の心配も無い。全く、うちの兄貴は本当に素晴らしいもんを作ってくれたぜ」

「結局身内贔屓オチかよ」


 すかさずスーマンさんが揶揄します。


「で? アイナリィ、お前はこれからどうするんだ?」

「えっと……実は、その……」

「言い難い事情なら言わなくてもいい。俺だって未だオタクらに隠してることなんて幾つもあるさ。だから、先ずはお前がどうしたいのか。そして、その上で俺たちとどうしたいか。それだけでいい」

「あー、ちょいと待ってぇな」


 ここで割り込みますか、お父さん!


「何やアンタ、さっきからその物言いは。もしかしてアンタ、うちの愛娘のコレか!?」


 ぐい、と親指を突き立てて見せるお父さん。でもお父さん、そのジェスチャー古いです。


「Uh…それ、何だ?」


 そしてアリデッドさんは全く理解していません。あんなに日本語達者なのに、日本特有の指を使った表現は年代物ということもあって勉強不足のようです!


「かぁーっ、鈍い奴やな! アンタがあか

「おとん! ゲーム内では本名禁止やで! あと変なダル絡みせんといてぇやぁ、うちの交友関係ぶち壊す気ちゃうかぁ!」


 おお――これは、アイナリィちゃん、実の父親にも全く強気の姿勢を崩しません。でも彼女のこの気質は、お母さんを見ていないので判りませんが何処となくお父さん譲りなのかな、って思います。


「不純異性交遊関係やったらそらぶち壊したるわ!」

「不純ちゃうわ! めっちゃ純愛や言うねん! ……あ」


 え、え、え、これは――???


「え、アイナリィって本気マジだったの?」


 目を丸く見開いて驚愕を顕にするユーリカさんの隣で、スーマンさんがのんびりと疑問を口にしました。


「ま、まままま本気マジちゃうわ! ボケ! カス!」


 うわぁ……アイナリィちゃんの整った美人顔が見事に真っ赤です。しかしこの発言はどうなんでしょうか?

 ちらりとアリデッドさんを見遣れば――こちらはこちらで全く動じていない、それどころか僅かに“面倒臭い”とか考えていそうな涼し顔です。蜥蜴の顔は人間のそれと全く違いますからぼくの洞察は的外れかもしれませんが。


「そうなんか? あか、あ、ちゃうかった。何やったっけ、あそうや、アイナリィ! つまりこいつは遊び――不純異性交遊やないかぁ!」


 そして買い物から戻って来たジーナちゃんに「新入りのくせに煩い!」とこっ酷く怒られたお父さんことレナードさんは――同時に歓迎も受けていましたからジーナちゃんの商魂には頭が下がります――一先ずジーナちゃんを交えてレクシィちゃんとスーマンさんが引き取り、このギルドについてや冒険者としての基礎知識などを学びに席を離れました。

 逆にアイナリィちゃんは遂にギルドの敷居を跨いで内側へと入り、そしてテーブルの空いた席に座って訥々と話し始めます。


 なお、この騒ぎを持ち込んだ張本人とも言って過言では無いルメリオさんは、いつの間にかいなくなっていました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る