170;お父さんと一緒.01(小狐塚朱雁)

『朱雁、これどないすんねん』

「システムメッセージ出てへん? ほら、出て来た奴ら倒すねん」

『うっわきっしょお! でもわい何も武器持っとらへんで?』

「武器欲しかったら後ろの山漁ったらええねん。って言うかマゴついてたら襲って来はるよ?」

『え、ほんま? うっわほんまやん! もっと早よ言うてぇ!』

「おとんが説明も聞かんと進めはるからやろ!」

『うっわ、これどないすればええの? あ痛ぁっ! ぎょーさん痛いやんか!』

「棒立ちしとったらせやろ! ああもう、おとん喧嘩したこと無いんか!?」

『あ、殴ってもええのんか?』

「当たり前やろ。敵やねんぞ、そいつら」

『最初から言うといてぇなぁ』

「だからっ――あぁ、もう!」


 おとん in ヴァスリ。


 いやもうこんなんうちからしたらやん。どないすればええのかよう分からんわぁ……

 でもうちのを許可する条件の一つなんやって、久留米さんが言うてはった――いやせやけどそれ追加された条件やんか。いっちゃん最初の項目に入っとらんかったんをうちはちゃぁんと覚えてんねんで!

 そもそもおとんも最初は久留米さんに頼み込んだらしいやないの。それがどうなったらうちに回って来るねん。

 久留米さん絶対面倒臭くなったんやろ、腹立つぅー!


『朱雁ぃ、全員倒したでぇ!』


 チュートリアル戦をどうにか生き延びたおとんは、ひゃっほうと言わんばかりに泥の上をばちゃりばちゃりと跳ねてはる。子供やん。


『見とったかぁ、最後の右ストレート! お父やんなぁ、学生の頃ボクシング部入っとったねん。体験入部やけどなぁっ!』


 自慢出来ひんやつやんか!


『しっかし、ゲームの中で運動するんも面白いなぁ。こないにぎょーさん動いても全っ然腰痛くならへんし!』

「そら良かったなぁ」



◆]トレジャーボックスを開き、報酬を獲得してください。

  ただし報酬は三つのうち、いずれか一つしか獲得できません。

  ここでのあなたの選択が、

  この後のキャラクターメイキングの結果に大きな影響を与えます[◆



『朱雁ぃ、箱出て来はったでぇ。これ何なん?』

「今システムメッセージで言うてはったやろ。トレジャーボックス言うたら宝箱やん」

『お宝か! 三つってえらい太っ腹やんな』

「せやけど全部は貰われへんで? どれか一つしか選ばれへんねん」


 おお、と――感嘆と困惑の綯い交ぜになったような声を漏らして、おとんは三つのとレジャーボックスを全部開けていった。

 チュートリアル戦闘を終えて現れるトレジャーの中身は決まって“重装”と“軽装”そして“魔装”言う三種類の防具や。このどれを選ぶかによって、この後設定出来るキャラクターのアルマが変わるんねん。


『えぇ、どれ選んだらええねん』

「おとんがヴァスリの中で何したいかに依るで」

『どういうことやねん』

「やからぁ――」


 単純に、盾役タンクやりたいんやったら“重装”一択や。魔術職やりたいんやったら“魔装”。そのどちらでも無いんやったら“軽装”選んだったらええねん――――そう教えよったら、おとんはじっくり考えた後で、『盾役タンクって何やねん』とか『魔術職って何やねん』って訊いて来はった。


「あんなぁ……ゲームやんのやったら基礎知識くらい叩き込んでぃよ」


 そう言いつつもうちはそれぞれの簡単な説明と、そこから派生してアルマの種類や役割ロールの分類についても軽く教えた。

 おとんは『ふんふん』と頷きながら、『せやったら盾役タンク言うんやってみようかな』なんて漏らしては“重装”の初期装備〈騎士ナイトの鎧(重装)〉を選びはった。


 次いで響くシステムメッセージに従って光源へと駆け寄ったおとんに、次のメッセージが流れ込む。



◆]目標地点へ到達しました[◆

◆]チュートリアルを続行しますか?[◆



『朱雁、これやり直した方がええんか?』

「どっちでもええよ、好きにしはったらええねん」

『うーん……』

「せやけど今のバトルの結果やったらおとんのアニマは《戦火フローガ》になんねんで。盾役タンクやるんやったら全然OKやけど、《錬剣レピド》とか《修羅ソウラ》も盾役タンクに適してはるわ」

『それどないしたらなれんねん』

「《錬剣レピド》やったら敵の攻撃避けつつ山からアイテムぎょーさん拾ったらええ。のんびりしはってたらやられるから気を付けんといかんけどもやな、一時的に防御力めっちゃ上がるスキル覚えられるねん」

『めっちゃええやん。そもそも《戦火フローガ》っちゅうのはどないやねん』

「《戦火フローガ》は一定時間全てのスキルに火属性の自動追撃が付くのと、あと火属性の自動反撃も出来るようになんねん。おとんが攻撃したりダメージ受けたら相手に勝手にミサイル飛んでく感じや」

『おお、ええなぁ! そんなら《修羅ソウラ》はどんなんや?』

「《修羅ソウラ》はめっちゃ地味やけど、めちゃんこ強くなりよんねん。魔術ダメージにもめちゃんこ強くなる」

『何や地味やなぁ……』

「せやけど一番取るの難しいんが《修羅ソウラ》やねん。三分以内に敵全滅させたらなあかんから」

『うっわエグっ』


 ほんまは盾役タンクに適してはるんは《竜鱗セイヴラ》のアニマもあんねんけど、お兄様とおとんが同じアニマになるんはちょっと嫌やったから黙っとった。


『そしたらやり直してみるかぁ』

「好きなようにやったらええよ。アルマはやり直し出来るけど、アニマは一度取ったら変えられへんし」

『分かったわ。ほいじゃ、やり直すわー』



◆]チュートリアルをやり直します[◆



 空間が暗転し、再び明転すると黒塗りのおとんは辿り着いた光源からあの屍の積み上がった山の麓に戻されていた。


『よっしゃぁ、どうせならいっちゃん難しい《修羅ソウラ》狙ってみるかぁ!』


 意気込んだおとんは足元に広がる泥から立ち昇る影に果敢に向かっていく。

 チュートリアル戦闘とは言え、基本的に《修羅ソウラ》の取得条件はeスポーツやっとるとか喧嘩番長とかのエリート向けのものやと聞いたことがある。

 おとんは元気やし運動もまぁまぁ出来る方や言うてもその方面は殆ど素人同然。せやから三体の影自体は倒せるねんけど、三分という時間制限は遥か遠い目標や。


「うち、もう眠いねんけど……」

『頼む! あと一回、あと一回だけやらしてぇや!』


 その『一回だけ』を十回は繰り返したんとちゃうか? ――ええ加減眠さの限界突破を起こしそうになったうちはヴァスリとアプリ連携させたGREETグリートを切ってHUMPTY=DUMPTYハンプティ・ダンプティから抜け出ると、ミシェルお姉さまに宛がわれた部屋の布団に潜り込んだ。


 はぁ……よりにもよっておとんのキャラクターメイキングが終わるまでログインしたら駄目やって、久留米さんどういうつもりやねん。

 おかげで今日もログイン出来てへん……まぁそもそも、ヴァスリにログインしてたらさっきみたいに他人のキャラクターメイキング見ながらあれこれ口出し出来へんねんけども。


「お兄様にはよ会いたいわ……」


 暗殺者アサシンギルド抜けて登録ギルドの変更だけは出来たけど、それからまだ一回もログインしとらへんねや。うちとしては早く【砂海の人魚亭】で目覚めてやな、ギルマスのエンツィオさんやジーナちゃん、レクシィちゃんに挨拶したり、ついでに雑用のスーマンいじったり、れっきとした【七月七日(仮)】パーティの一員に晴れてなりたいねん。

 焦る気持ちが胸を焦がす熱に寝返りを打ちながら見た夢は――――でもどうしてやろか。まだ幼稚園くらいのうちが、おとんとおかんとそら楽しそうにご飯を食べてる光景やった。


 家族の輪の中心にうちがいて。

 それだけが世界の全てやった頃の――――とんと低い目線で見る狭い世界は、きらきらと輝いて仕方が無かった。

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