168;次なるレイド、その前に.02(姫七夕)
「お待たせしましたぁっ!」
ギルド【砂海の人魚亭】の一階、レストランの一角に、ぼくたち
「おうセヴン、お疲れ」
「お疲れ様です」
パーティの最高レベル68のスーマンさん。ギルド内での扱いも、雑用見習いから雑用につい最近ランクアップしました。
隣には受付嬢見習いのレクシィちゃん。見習いと言っても、結構一人で色んなことを出来るんです。ジーナちゃんの教え方がいいのもありますがレクシィちゃんの吸収率もいいってことです! ――つまり、スーマンさんは……いえ、考えないようにしましょう。ほら、一応、見習いは取れましたし! ……
「おっ、セヴン! 久しぶり!」
パーティ唯一の生産職、《
「待ちくたびれたぜ」
溜息を吐くのは実務的にリーダーのアリデッドさん。その隣に――アイナリィちゃんはいません。
「……相変わらず全員じゃないが、いない人間のことをあれこれ詮索しても始まらない」
「なぁ、アリデッド。アイナリィからの連絡は本当に無いのか?」
スーマンさんが鼻を
「何度も言わせるな、本当に俺の所にも音沙汰無しだ」
「事が事だけにデリケートなんだよ。下手につつくと余計に
「そんなもんかぁ?」
「スーマンには解らないかもね」
「はぁ?」
ユーリカさんが呆れの溜息を吐きます。それを見たスーマンさんもまた溜息を吐きました。
でも、ぼくはアリデッドさんの言う通りだと思います。
もしもそれがぼくだったなら――想像するだけで身体の芯が凍ったような身震いに襲われます。
未遂だったから良かったものの、有無を言わさない暴力に晒されるというのは本当に堪えるものなのです。それが直接的なものであれ、間接的なものであれ。
なのでぼくたちはただただ待つだけです。
決して急かすことはせず、でも帰って来た時はちゃんと笑顔でお迎えできるように。
「とにかく――俺達には何も出来ない。アイナリィが自分で再起するまではな」
「ふぅーん……まぁ分かったよ」
ちなみに、レクシィちゃんにはアイナリィちゃんがギルド脱会の際にどういう目に遭ったかはまだ話していません。
言ってしまえば、レクシィちゃんの身に起きたことはアイナリィちゃんと比べれば“完遂”だからです。
今でこそ柔らかく微笑んだり、楽しかったり面白かったりする時には大きく口を開けて笑うことが日常になったものの。
あの出来事は、まだじくじくと濡れた傷として心に残っているのだと思うからです。
だからレクシィちゃんは困ったような顔をしています。
すぐに仲良く打ち解け合った仲間が、何も言わずに消えてしまって。そしてその理由を、ぼくたちは彼女には教えられないからです。
「……そんな顔すんなよ」
「え?」
そして――大抵こういう時、彼女の
「直ぐに戻って来るさ。大体、あいつが落ち込んで塞ぎ込む様なタマかぁ?」
一言多いのも、いつも通りなんですけど。
「レクシィ、悪いが今はまだお前には言えない。その日を待ってくれとしか言えないことを、とても残念に思う」
アリデッドさんの言葉に、でもレクシィちゃんはふるふると首を横に振りました。
「信じてるから、大丈夫」
「そう言ってくれると助かるよ。――――さ、じゃあ“次のレイド”の話をするか」
と、ここでアリデッドさんが舵を切りました。
そうです、わたしたちが今日集まったのは他でもない――先日、ヴァスリ運営が定期的に行っているオンライン生放送で発表された“第二弾レイドクエスト”。すでに十日後に迫っているそれに向けた、パーティ
「ちなみにセヴン、アンバサダーとして参加に何か制限があるのか?」
そうなんです。見事アンバサダーに就任したわたしは、第一弾レイドの時に
なのでバトル自体には勿論参加出来ますししますが、パーティの一員として動く、というのはちょっと難しそうなのです。
「そうか」
「はい、ごめんなさい……」
「気にすんなよ、セヴン。同じ戦場にはいるんだし、それに今回も
「それが……」
「それが?」
ユーリカさんもずい、と身を乗り出してぼくの言葉を待ちます。
そう――――前回の
しかし、今回は。
「成程――完全なパーティ対抗戦になるのか」
そうです。
基本的にはパーティ単位で動き、パーティ毎に戦績も発表されるのです。
「ってことはさぁ、パーティ人数が多い方が有利ってこと?」
「基本的にはそうなる筈です。あ、でも、始めたばかりの方や極端に参加人数が少ないパーティには“ジョイント”っていう特別措置もあるみたいです」
「“Joint”――一時的に組むってことか」
「そうです」
それでもやはり、大元のパーティで動く方が絶対に有利です。組み合ったばかりの方とは巧く連携が取れませんし。
「でもやっぱ、アイナリィが抜けてるのは痛いよなぁ……」
「まぁ、実質的にうちのパーティの
ユーリカさんの嘆息に相槌を打つスーマンさん。ぼくもその気持ちは分かります。
ヴァスリの数あるアルマの中で、
狭い所では乗れませんが、騎乗時のタフネスさと手数の多さ、そして
言わずもがな
遠く離れた場所からでもパーティを守れるこの二つのスキルのために、今では
一応、他のアルマでも
例えばジュライや、レクシィちゃんの故郷で対決した
またぼくも《リトルワード》と組み合わせた《
でも流石に、アイナリィちゃんの代わりとなると無理です。バグの恩恵を受けに受けたあの魔力で張られる障壁は、誰もその代わりにはなれないでしょう。
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