167;次なるレイド、その前に.01(久留米理央)
「失礼しまぁーす」
がらり、と
綾城さんの
「首尾は?」
入室するや否や本題に入るところもこの人らしい。何と言うか、余裕という隙間や遊びを持たせない生き方。こっちまで息が詰まりそうになる。
でもこの人に言わせてみれば、僕ちゃんの生き方は間延びしているのだとか。いいじゃん間延び、窮屈よりのんびりだらりんと暮らす方がいいよ。
「上々ですよ。ちゃぁんと、朱雁ちゃんの東京滞在に関して親御さんの
当初条件の一つとして提示しようと思っていた一週間という期限は無くなった。両親としても、僕ちゃんの説明で漸く事の重大さに気が付いたようで、こんな状態では直ぐに帰って来たとしてもどんな顔で出迎えていいか分からない、というのが本心だった。
どうやらあの朱雁ちゃんという子は筋金入りの箱入り娘だったようで、両親としては本人があんな風に家を出るという行動を取ることまでは全く想定しておらず、そしてそのことが酷くショックだったのだとか。
可愛い可愛い一人娘の喪失は、彼女の両親の両親としての矜持にまで罅を入れたのだ。
「で、その流れで今は顔を合わせるタイミングじゃないでしょ、ってことになり、」
「成程――殆ど詐欺じゃないか」
「警察相手に何言ってるんですか。れっきとした交渉でしたよ」
「だから詐欺なんだろ」
うーん、話術と言って欲しいんだけどなぁ……。
「しかし小狐塚親子の仲はそれで大丈夫なのか?」
「今後も上手く動きますよって。流石に連絡途絶にするわけでも無いですし、流石に何の音沙汰も無ければ親御さんも警察を疑いますし」
「じゃあ任せていいんだな?」
「ですね。あー、しっかしこれで僕ちゃんのお仕事がめっきり増えちゃったのが一番の問題なんですけどー?」
現在判明している“死んでる勢”のプレイヤーの過去の調査にロアこと鷺田愛濾の周辺調査、それだけでも結構お腹一杯なのに朱雁ちゃんの家族との橋渡し役とか……もっと適材いるでしょ、って感じです。うへぇ。
●)S.Aniya がノックしています(●
電子音が鳴り響き、中空に展開されたメッセージを確認した綾城さんは即座にこくりと頷いた。
するとガラリと引き戸を開け、僕ちゃん同様スーツ姿の阿仁屋さんが現れる。
「失礼します」
びしっと15度の立礼を決め、ROOM中央の囲炉裏の傍まで進み、すとんと落とした腰を座布団に落ち着ける阿仁屋さん。しゃんと伸ばした背筋はやっぱり美しく、居るだけで何故か様になる。
「少し早いな」
中空に表示させた時計で時刻を確認した綾城さんが呟く。そして阿仁屋が何かを言おうと口を開いた瞬間、その表示はまた入室を確認するメッセージへと変化した。
●)R0_Land がノックとしています(●
●)RK=3= がノックとしています(●
●)Gabby:D がノックしています(●
そのそれぞれに許可を出し、するとROOMに人の気配が三つ増えた。
「よぉ!」
「ローランド。相変わらず元気だな」
ローランド・アインホルン。28歳、男性、ドイツ出身。
大の日本好きで知られる彼は、留学生として来日した際に“槍術”と出会い、十年をかけて範士という立場まで登り詰めた実力者。
彼がヴァスリ内で操るキャラクター・ロレントも、槍を
「こんにちはぁー」
「ルア。悪いな、忙しいところ呼び出してしまって」
クン・ルア。18歳、女性、大韓民国出身。
幼少期から歌を唄い、昨年シンガーソングライター“RUA”としてデビュー。アジアではそこそこ名の知れた
ヴァスリでは《
「ミシェルちゅゎ~ん、会いたかったわぁん♪」
「ガビー、今朝も会っただろ」
言わずもがなの筋肉髭達磨こと、ガブリエル・ダーク。32歳と意外と若い
綾城さんが直接スカウトした元地下闘技者で、その前にはプロレスラーをしていた。その体格からは考えられないけれど空中戦では右に出る者のいない程の実力者で、性格というか性的嗜好は難しか無いけれど戦闘力という考え方ではクラン内随一。
ただ、レベルは僕ちゃんに次いで低い67。ちなみに僕ちゃんは65だ。
「……定刻だな。では始めよう」
時計のデジタルに戻った表示を見て綾城さんが告げる。
囲炉裏を囲んでずらりと並ぶ
「アコちゃんは? お休みかしら?」
「向こうの打合せと被った」
「あー、そう言えばそんなこと言ってたね」
「……向こうの?」
「アニヤは知らないのか?」
「いや、僕ちゃんちゃんと言いましたけどー!?」
阿仁屋さんは大して興味無いことはすぐ忘れちゃうんだもんなぁー。この中で一番年上なんですけどー?
「議題は――運営より通達のあった次のレイドだ」
「次のレイド……」
「ってことはぁー」
「九曜封印のどれかが解かれるのねぇん?」
こくりと頷く綾城さん――その面持ちはいつにも増して神妙だ。
現在既に解かれてしまったのは歳星封印。前回のレイドで僕ちゃんたちの敵として立ちはだかった
残る封印は八つ――
「どの封印が解かれるのか、どんなレイドボスが現れるか、はおろか、どこで封印が解かれ戦場となるのかもまだ不明だ」
「分かってるのは開催時期だけ、か」
「でももう十日切ってますよぉー?」
「……」
「アコちゃんなら聞いてるかしらぁん?」
「何れにせよ」
ピリ、と空気がひりつく。電子で編まれた世界にいるというのに。
「今度ばかりは我々
「おうよ! 俺様は大丈夫だぜぇ!」
「はい! 私も大丈夫ですよぉー!」
「え、ルアちゃん大丈夫なの?」
「レイドクエストは世界中が注目するとびっきりのライブステージですからぁー」
ああ、《
「僕ちゃんと阿仁屋さんも、今はこっちが本業ですから」
「ああ、問題ない。厩舎も」
うん、馬のことは聞いてないんですけどー。
「アタシも、そろそろ第三段階の〔修練〕が終わるわよぉん♪」
「それは頼もしいな」
「もう、張り切っちゃうんだからぁん♪」
うん、気持ち悪い。
ぷわん
「ん?」
僕ちゃんの視界の左上の隅に、新着メッセージを報せる通知がポップアップした。
アプリ連携していると、こうしてROOMに居ながらメッセージの遣り取りを並行出来るのが本当に便利だなと思う。
「久留米、どうした?」
「あーいや、朱雁ちゃんのお父さんからメッセージ飛んできました……って、はあああああっっっ!?」
僕ちゃんの発した声に全員が眉根を顰め僕ちゃんを見詰めてくる。
それも当然――僕ちゃんはこんな風に大声を上げるようなタイプの人間じゃないのだ。
でも、朱雁ちゃんのお父さんから寄越されたメッセージは、本当に度肝を抜くものだった。
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