146;王剣と隷剣-ノーザンクロス.02(シーン・クロード)
「剣に愛無き者に王の剣は導けん。自覚があろうと無かろうと……しかし愛無き使い手はいずれ剣と決別することになる。そうして使い手を失った剣は“魔剣”となり、魂の欠落を埋めるために血肉と命を求めるようになる――ここにあるのはその成れの果て。貴様らの剣はさて――」
瞬きのうちに風景は一変していた。
足元には瓦礫で出来た点在する足場だけ――あとは空。
雲が流れ、風が吹き。そして、その星を鏤めた宵闇の空を、白く輝く羽で覆われた巨大な鳥が飛んでいる。
きっとあれが、俺の〈ノーザンクロス〉に宿る魂。
夜空だって言うのに星明りが眩しいくらいに照らしてくれるおかげで視界は良好だ。
相手が〈ノーザンクロス〉そのものだってのに、俺の手にはちゃんと〈ノーザンクロス〉が握られている。
正直、この武器に対する練度はまだまだだ――だがそれも含めて、きちんと俺が所有者なんだってことを分からせてやらなきゃな。
それに――空中戦を譲る気は無い。
「行くぞっ! 〈ノーザンクロス〉!」
長い首を曲げてこちらを振り向いた
「《ラテラルスラスト》!」
跳び上がった傍から真横に大きく移動し、スキルの効果が切れる前に《スティングファング》による突撃を繰り出した。
「ケェァァァァァッ!」
激突の瞬間には《スピアヴォールト》を重ね、突き刺した穂先を支点に真上に大きく跳び上がる。
しかし相手も飛行タイプの敵。流石に真上からの強襲を喰らうまでその場で待ち受けているなんて馬鹿な真似はしない。
俺が有する推進系スキルは今のところ《スピアヴォールト》《ラテラルスラスト》《ヴァーティカルスラスト》《ダブルジャンプ》《スティングファング》《スクリューレイド》そしてレベル56で得た《フォールスパイク》の七つ――このうち、《ラテラルスラスト》は水平方向のみ、《ヴァーティカルスラスト》《フォールスパイク》の二つは垂直方向のみと推進方向がある程度限定されている。
逆に言えばそれ以外のスキルはある程度進む方向を
《ダブルジャンプ》で
相手は飛行だがこちらはスキルによる推進でしかない、自由度の差は雲泥だ。
それでもそういう差を撥ね退けてこそ、だ。幸い、移動速度はスキル推進の方が遙かに速い。
「追いかけっこは終わりだよ!」
《ラテラルスラスト》で追い抜いた矢先に、抉るような角度で
カウンター気味に嘴による打撃をもらうも、血飛沫と共に吹き飛ばされた先は新たな足場。その場で槍を振り被って唯一の遠隔攻撃とも言える《クロスグレイヴ》を放ち、追撃に《スティングファング》を見舞う。
槍の突撃は躱されたものの、羽搏きと共に上昇する巨体を追って《ヴァーティカルスラスト》と《ダブルジャンプ》を併用し、垂直落下で突撃する《フォールスパイク》に《ペネトレイト》を組み合わせた
しかし
ちょうどいい高さの足場に降り立った俺は急上昇からの急降下攻撃を仕掛けて来た相棒に《エレメンタルスピア》からの《スピアヴォールト》で再び制空権を奪いにかかる。
嘴の攻撃は大雑把で鉤爪は射程が短い。脅威と言えるのは羽根の矢くらいだが、接近している間はそれもやってこない。
本当ならば近接しての肉弾戦、白兵戦が有効な戦法なんだろうが、足場が限られているし俺自身もまた空中戦を望んでいる。
推進系スキルは豊富にある。スキルの待機時間は感覚で掴んでいるし、繋ぎ方も勿論。
「さ、そろそろ終わろうか――」
翼の付け根を深く刺したジャンプ攻撃から新たな足場へと飛び移った俺は、ほんの一瞬だけ瞼を閉じる。
「――《
足元から立ち昇る水飛沫、緑の鱗がほんのり碧く染まる。
穂先を真っ直ぐ前に構える。遅れてずしりと重みが推移する。
「ケェァァァアアアアア!!」
「《クロスグレイヴ》!!」
出来上がった碧い十字の軌跡は前方へと水属性の砲撃を放ち、どうにか間に合わせて《エレメンタルスピア》で水属性の一撃を突き出した。
この戦いで二度目の
「Ahhhhhhhhhhhhhhhh!!」
突き刺した穂先に込めた《スピアヴォールト》で大きく跳び上がった俺は、瀕死の状態で夜空を落ちていく
空中で体勢を整えながら改めて槍を構え――穂先は真下を向いているから既に重心も先端に宿っている。
そして轟くような咆哮と共に繰り出した、《スティングファング》と《スクリューレイド》そして《フォールスパイク》の同時使用――これまで推進系スキルをそうしたことは無かったが、進行方向や与えるダメージの属性に矛盾が生じなければどうやら効果は重複するらしい。
つまり自分でも驚愕する程の剛速で突き進み、制御し切れないながらもどうにか突き出した穂先は易々と白い巨躯にそれこそ貫くんじゃないかって深さまで突き刺さった。
「――これからもよろしくな、相棒」
断末魔の叫びは無く、静かに光に分解されて消えていく
最期にひとつだけ頷いたような身動ぎがあって――そしてその巨躯が全て分解されたと同時に、落ちていく俺を取り巻く星空もまた
「――貴様は、心配要らないようだ」
「……そうかよ、そりゃあ朗報だ」
あまりの眩しさに閉じた瞼を開けば、俺は霊廟にいて、中心にはシラツキが立っていた。
改めて手に握る槍を掲げてみると――〈ノーザンクロス〉が少しだけ、何となく重くなったような気がした。
「実際には重くなったわけでは無い。貴様と剣とが深く繋がったためにそう錯覚しているのだ」
「へぇ……慣れるまで感覚狂うな」
「隷剣化を果たした剣は成長する毎に使い手との繋がりを深める。その重みは、それまでに使い手が気付かなかった剣の重みだ」
「ふぅん……成程ね」
さて――――ユーリカはどうなんだろうな。振り向いて見てみれば、俺の隣で深く目を瞑ったまま凄い形相をしていやがった。……苦戦しているのかも知れないな。まぁ、あまり心配はしていないが。
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