124;辺境を覆う暗雲.18(綾城ミシェル)

◆]NICO:Will you help us?[◆



 制圧を終え、事後処理をルメリオ達に任せイスティラス侯爵邸から引き上げようとした時に受信したニコからのメッセージ――まさか私たちに助力を求めるなんて、相当切羽詰まっていると見える。

 確か彼らはクエストに巻き込まれたフレンドを助けるべくしてパーティ参加し辺境伯領へと向かった。奇しくも、目的は違うが同じ騒動を巡るクエストの攻略の最中。


 私は新たな煙草を咥え火を点けながらメッセージを返す。同時に、現時点で動ける者がどれだけいるか、仲間達に緊急招集のメッセージを飛ばした。

 直ぐに返事を寄越したのは二人――ダルクはログアウトしたか、まぁいい。



◆]ミカ:二分で向かう[◆

◆]NICO:Thanks![◆



 準備を整えながらニコから送られてきた事のあらましを目で追うが、成程――【漆黒の猟犬】がいるのは願ったりだ。

 そして招集に応じた二人と共に、〈転移の護符テレポート・アミュレット〉を消費してニコたちと合流する。倒壊して燃えている家屋跡を中心座標に展開された戦場、立ちはだかるアイザックと対峙するのは――見知らぬ顔だ。そして戦場を囲うように配置した五人も。

 そしてアイザックの外、五人の内側に膝を着いて女の子を抱き締め守るのは……ジュライの想い人か。なかなか面白いことになっているじゃないか――しかしあの夜遭遇した蜥蜴男と刺青少女、そして死人の姿が見えないが……


「――【漆黒の猟犬】が【七刀ナナツガタナ】の傘下だと言うのはガセか。だが

「どうして……?」


 確か、セヴンとか言ったか――アイザックと彼女との間に降り立った私たちの中、私だけを見上げてそんな拙い疑問を呟いた。


「どうして? ――それが私たち【正義の鉄槌マレウス】の活動意義だからさ」

「【正義の鉄槌マレウス】……」


 私たちのパーティ名でありクラン名でもあるその名を聞いて、アイザックと対峙しているフードを被った仮面男が反芻した。


「聞いていまス――我々を根絶やシにしようと動ク存在」

「ああ、判りやすく君たち【七刀ナナツガタナ】のだ」


 抜いた変形銃剣〈ブレイズブレイド〉は剣形態ブレイドモード――パーティとしてクエストに参加しているならまだしも、今回はただ横槍を入れただけの立場。連携の訓練などしていないクラン外パーティとの共闘では同士討ちフレンドリィファイアも発生し得る。故に銃撃では無く斬撃中心の戦い方になる――私は銃剣術の使い手ではあるが、流石にリアナほど優れた精密射撃エイミングスキルを持っているわけでは無い。

 だが逆に、斬撃のならば――はっ、スキル頼みの所詮は素人なんかに負けん!


 ガギィッ――フード男の切り下ろしを横薙ぎの一閃で弾いた私は即座に形態モードを銃へと切り替えた。


「この程度だろ? ――《フルショット》!」


 合計六発の銃弾が爆ぜ、フード男の流れた胴体に風穴を――空ける直前で輪郭が揺らぎ、ふわりと消えた。

 これは――


「《残像回避》!」


 この上擦った声はセヴンか? しかしそれを確かめている暇など無い――手に持つ宝飾の施された曲刀から《宝剣士ラピスセイバー》と予想していたが、どうやら違うようだな。


「《ファストマジック》――《火天の荊フレイミィソーン》」


 足元から立ち昇るいくつもの赤い線――それぞれが熱を帯び、絡んだ獲物の動きを阻害しながら火属性のダメージを与える


「成程――正解は《シノビ》か」


 その赤熱線を跳び退いて躱しながら私の吐いた回答に、フード男はにやりと口角を持ち上げた。

 見遣れば外縁でも交戦は始まっていた。ニコとリアナは縦横無尽に動き回りながらも常にセヴンと彼女が守る少女を庇える位置を離れずそのため苦戦している――それはそうだ、ターシャならばいざ知らずあの二人は遊撃要員……駆け巡り敵を翻弄してこそ。

 しかしアイテムを創るしか能が無いと思っていたが意外にもアイザックが善戦している。

 彼のアルマ《錬金術士アルケミスト》は現在このゲームで数少ないだ。前提となる第一次プリマアルマである《占術士マンサー》は魔術ダメージを与えられるスキルを持つ遠隔戦闘のアルマだが、同じ遠隔戦闘を得意とする《銃士ガンナー》や《弓士アーチャー》と比べれば遙かに見劣りする。《錬金術士アルケミスト》自体は有用なアルマだから選択する者は多いものの、巷では“苦行”や“修業期間”などと言われる始末だ。


 だがアイザックはどうだ? 自ら製作したマジックアイテムをこれでもかと消費しながら主兵装のカード投擲は見事だ。

 時には爆弾を投げ、時には障壁や罠を展開しながら、投げつけるカード捌きで【幽世の兵団ガイスターコープス】の一人を完封している――相手もおそらくは《占術士マンサー》上がりなのだろう、だがその少年の投擲する〈円月輪チャクラム〉は爆風や障壁に弾かれて届かず、逆に徐々にカードが彼の生命力ヒットポイントを削って行く。

 トップランカーは伊達じゃない、ということか――しかし私の精鋭たちも負けてはいない。


 急にも関わらず招集に応じてくれたクランメンバーの二人、アニスとロレント。

 アニスはレベルはまだ50に至ったばかりと劣るものの、騎兵ライダー系の二次職セグンダアルマ《獣騎兵ビーストライダー》であり騎乗マウントする軍馬ウォーホースは機動力や攻撃性能に秀でており人馬一体とも言える連携攻撃がなかなか光っている。

 対して巡礼者ピルグリム二次職セグンダの《宣教師ミショナリィ》であるロレントは巧みに〈十字槍クロススピア〉を捌き、時間差で発動する星霊魔術スピリットマギアの差し込みも手慣れている。


 アニスは馬術の、ロレントは槍術の――それぞれ現実の達人リアルマイスターだ。


 対峙する《魔戦士ウォーザード》と《聖騎士パラディン》は機動に重きを置かないアルマであるため、真っ向からぶつかり合う戦況だ。

 対してニコとリアナが相手取っているのは《魔槍遣いスティンガー》と《僧兵モンク》――こちらは逆に全員が動き回って相手を攪乱しながら戦うスタイル。本来であればプロeスポーツアスリートの中でも最上位に位置するニコとリアナに敵う筈も無いが、庇いながらの戦いが動きの精細さを奪っている。

 パーティ全体のレベルは未だ【夜明けの戦士ヴォイニ・ラスベート】が群を抜いているが……おそらくそこまで差が無いのだろう。


 故に、その戦闘もそこを勝ち抜けて加勢に入った陣営の勝ちだろう。ならば一抜けは私の役目だ――なかなかこのフード男もそうさせてはくれないのだが。


「はァ――っ!」

「遅いっ!」


 剣戟は流石に譲らない。だが《残像回避》というスキルが厄介だ――目の前から一瞬で消え失せ、死角から攻撃を繰り出して来る。しかも再使用までの準備時間クールタイムが短いのか乱発してくる始末だ。

 また、周囲の状況もよく見えている――最初を除き、それ以降は銃撃を挟ませてくれない位置取りだ。流石に可能な限り実弾に似せて調整した〈ブレイズブレイド〉の銃形態ブレイズモードが繰り出す弾丸は危険極まりない。同士討ちフレンドリィファイアは御法度だ。


「《初太刀・円閃》」


 鋭く踏み込んでの突きを戦型スキルによって弾かれる――いや、ここだ。弾いたのならば《残像回避》は使えないということなんだろう?


「ふっ!」

「グっ!?」


 剣を弾かれた勢いを利用しての跳び蹴りがフード男の横っ面を捉えた。だが返す刃は再び《残像回避》により空を切る。

 あと一手、その一手が足りない――焦りは無いがこうも剣戟を避けられると流石に苛々として来る。


 そんな時だった、が現れたのは。


「――おいおい、オレ抜きで楽しんでんじゃ無ぇよ」

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