111;辺境を覆う暗雲.06(姫七夕)
『そうか……大変なものにまた巻き込まれたもんだな』
レクシィちゃんが眠った後で、ぼくは定期連絡のためにアリデッドさんとアイナリィちゃんとスクリーンチャットでお互いの状況を共有します。
「いえ。でも、クエストを無事
アリデッドさんの隣にはぎゅぅと抱き着くアイナリィちゃんの姿。昨晩と変わらず、女の子全開のご様子です。
『ああ。ユーリカとやらと合流して、アイナリィの
「そうなんですか! ちなみにお二人は今何レベルですか?」
『俺が52、アイナリィがちょうど40だ。セヴンは?』
「ぼくはまだ48です。スーマンさんは昨晩56に上がったって言ってましたよ」
因みにユーリカさんもまだ41だそうです。アイナリィちゃんからジュライ離脱のことを聞いたユーリカさんは、
アリデッドさんとアイナリィちゃんはもう少しレベリングに奔走するとのことですが、ぼくは今晩は早々と
べろんべろんに酔っぱらったエンツィオさんを私室に置き去り抜け出してきたスーマンさんはほぼ
「オレ? 自分じゃ飲んだこと無いから判らないけど……マスターが弱いだけじゃないの?」
しかし訊くと相当の量を飲んだと思われます。四合瓶何本開けたんですか……
「ぼくはもう寝ますけど……スーマンさんは?」
「本当はレベリングに砂漠方面行きたいけど、あの子もいるし大人しくここでまだ飲んでるよ」
まだ飲むんですか……
「二日酔いは駄目ですよ?」
「解ってる解ってる。一応、夜に襲撃が無いとも限らないしな」
「ああ、そうですね……」
そしてカウンターの方から適当にお酒の入った瓶を取り出してテーブルに置いたスーマンさんは、樽で出来た椅子にどっかりと座り、直接瓶を
おやすみなさいを共に交わし、ぼくは自室へと入ります。お風呂なら先程、レクシィちゃんと一緒に済ませています。
そろそろ本格的にお仕事を再開しないととは思っているのですが……うー、やっぱりヴァスリの中が楽しくて楽しくて……ぼくはそのまま、ログアウトした
結局、夜中の襲撃はありませんでした。そして次の日の朝を迎えても、お迎えは来ませんでした。
早くて早朝、と言われていたため早めにログアウトし、
「あれ? セヴンちゃんおはよう、今日は早起きだね!」
「ジーナちゃんこそ」
「いや、うちの親父がさぁ、誰かさんとしこたま飲んだおかげでまだ潰れてんだよねぇ……」
じとりとした目付きでスーマンさんを見遣るジーナちゃんですが、当の本人は全く動じていません。っていうか、まだ飲んでいるんですか!?
「いや、もう二時間くらい前に飲み尽くしてさぁ。今入ってるのは水だよ、水」
「飲み尽くしたって……」
「あー、違う。最初に持ってきた四本のこと。追加で持ち出しては無いし、ちゃんと金は払うよ」
「持ってきたって……」
ジーナちゃんがカウンターの中へと入ります。そして上がる、仰天の声。
「うっわ! よりにもよって高いお酒ばっかり! 一本いくらすると思ってるの!? 百万ステリアは下らないんだからね!」
「え、マジ……?」
ちーん――流石に芳醇だったレイドクエストの報酬も、一本ならともかく四本ともなれば赤字です。スーマンさん、ギルド加入二日目にして何とすごい額の借金をこさえてしまいました。流石は“
ですが、折角朝早くから起きていることですし――借金返済のためにも、ここはギルド運営の業務を手伝うことにしましょう!
「ほらぁ! ちゃきちゃき働くぅ!」
「いでぇっ!」
かなりご立腹なジーナちゃんがスーマンさんのお尻を蹴り上げました。何でしょうか、スーマンさんってひどい扱いを受ける星の下にでも生まれついているんでしょうか? しかし、それを見て似合うな、と思うぼくもぼくですけど……。
「うう……頭痛い……」
そんな中、エンツィオさんがロビーに降りて来ました。かなり気持ち悪そうで、一目で二日酔いだと判ります。
「お父さーん、衛視局から通信!」
「おう、今行く……」
厨房の方で蛇口を捻る音が聞こえました。グラスに水を入れたのでしょう――と思ったらバシャバシャと音。出てきたエンツィオさんの顔は濡れていて、そしてちょっとだけすっきりとしています。
顔を洗うならそれに適している場所があるでしょうに……まぁでも、お仕事モードじゃない時のこのずぼらさもひとつの愛すべき個性です。
「お待たせしました、【砂海の人魚亭】ギルドマスターのエンツィオです……はい、はい……えっ? ……はい、」
カウンターに取り付けられた〈通信魔術装置〉は音声のみですが相互通行で遣り取りが出来ます。
現在は失われてしまった機械文明の遺産を解体し、それを魔術を媒介にして運用できないかと頭を捻りに捻った結果生まれた、帝国発の魔動文明の産物です。機械文明より後の魔術文明紀には似たようなマジックアイテムが沢山ありますが――例えば〔遺跡の奥に眠る夢〕でぼくが依頼人のキースさんと連絡を取り合った〈
「……分かりました。大至急準備を済ませます。よろしくお願いします――――ふぅ……」
「衛視局の方は何と仰ってたんですか?」
何やら複雑な面持ちです。でもエンツィオさんの言葉からは、護送のために必要な護衛の依頼を他のギルドに取られたってことは無さそうなんですが……
「結論から言うと、迎えは来ない。辺境伯領までの護送を、一手に引き受けて欲しいとのことだ」
「え、お迎え来ないんですか!?」
「昨晩の襲撃の件もあるし、それに昨晩、砂漠で大型の魔獣の目撃情報が入ったと今朝方衛視局の方に通報があったらしい。その状況では迎えを寄越そうにも難しいらしく……そこで、保護したうちのギルドに白羽の矢が立ったと」
ぼくはスーマンさんと顔を見合わせました。いくら何でも、護衛が二人だけというのは流石にどう思われるんでしょうか?
「しかも先方は出来るだけ早く帰して欲しいと言って来ているらしく、遅くても明日中には届けて欲しいんだそうだ」
「明日中……でも砂漠は迂回して荒野から湿地帯へとぐるりと回るんですよね?」
「ああ。それでも僕が受けなきゃこの仕事は他のギルドに流れちまう……」
「大丈夫です、受けましょう!」
「え、セヴン大丈夫か?」
「当ては……二人ほどしかありませんが……」
「アリデッドとアイナリィか……」
「ユーリカさんは
ふと思い付き、ぼくはいつの間にかぼくも受注したことになっているスーマンさんが巻き込まれた〔辺境を覆う暗雲〕のクエスト情報をチェックしました。そして、ぼくの二つの目は思いっきり見開かれたのです。
「――パーティ人数制限、六人限定!?」
「え、マジ? フルメンバーじゃん――あ、本当だ」
スーマンさん! 巻き込まれたから仕方ないとは言え、受注した際にクエスト情報は確りと見ておいてください! とは言えず――ぐぬぬと頭を捻るくらいしか出来ません。
「――あ」
そこでスーマンさんが閃きました。そして誰かに素早くメッセージを送っています。
直ぐにぴこんと着信音が鳴り響き、開かれたメッセージウィンドゥを見詰めたままスーマンさんが右拳を高く掲げました。
「……ニコたち、来てくれるって」
「ええっ、本当ですか? ニコさん、――――ニコさん!?」
何と――相談した相手はまさかの【
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