112;辺境を覆う暗雲.07(姫七夕)
◆]ニコ:
やぁスーマン君。元気そうで何よりだ。
僕たちは今従事しているクエストが終わり次第そちらに駆けつけるよ。
そうだなぁ……きっと今日の夕方までには四人揃って到着できる筈だ。
共闘できるのを楽しみにしているよ。[◆
「――な?」
「うわ……本当にこれ、ニコさんからのメッセージなんですか? と言いますか、いつの間にフレンドになってたんですか?」
どうやら強制ログアウトのあの夜、アリデッドさんとスーマンさんのピンチをニコさんたちが救って合流した際に連絡を取り合う為にそうしたようです。
でも……スーマンさんと言えばジュライと同じ“死んでる勢”。フレンド登録をしようと思ったら、システムからの妨害に遭うんじゃ……
「あー、それはアリデッドの“管理者権限”がどうにかしてくれたよ」
それを聞いてぼくは思わず手をぽんと叩きました。忘れていましたが、アリデッドさんはお兄さんから管理者権限の一部を譲渡されているんでした。
「取り敢えずこれで人数の問題は
「そうですね、正直まだ、本当にニコさんたちと一緒にクエスト出来るのか半信半疑なんですけど……」
「えっと……さっきから話に上がってるニコっていう冒険者は知り合いなのかい?」
問われ、ぼくはニコさんたち【
しかし【
「よし――そうと決まれば準備だな」
「はいっ。ぼくは昨晩の運送ギルドに行って、お馬さんと馬車をレンタルして来ます!」
「セヴンちゃん! 御者さんも忘れずにね! ――さて、僕は積み荷の用意をするか。スーマン君、手伝ってくれるかな?」
「当然。馬車馬よりもきびきび働きまっせ?」
「スーマン。解ってると思うけど、あんた成功報酬十割カットだからね?」
「え? スーマン君、何したの?」
「ああ……いや、その……実は――――」
ギルドを跳び出して大通りへと向かうぼくの背中に、エンツィオさんの怒号が聞こえたような気がしました。
◆
「お、そろそろ到着するって」
スーマンさんはメッセージ画面を閉じ、ロビーから入口を潜って表通りへと顔を出しました。
ぼくもその背に続き、西から差す炎のような陽射しの眩しい空の下、相変わらず人通りの乏しい道の石畳に現れた魔術円に目を輝かせました。
ぶわん、と四つの円が空へと舞い上がり光の粒子を撒き散らしながら、足元から徐々に具現されていく四人の冒険者たちの姿――ぼくたちとは比べ物にならないほど、まるでファンタジー映画に出て来る主人公若しくは英雄そのものです。
深い紅色に細やかな金糸の装飾が施された
紺碧に輝く全身鎧に身を包み、また背に光字架模様が特徴的な
そして。
その三人を纏め上げて指揮を執りつつも自らも先陣を切って戦線を張る、真っ白な軽鎧と腰の両側に差したそれぞれ異なる鞘。
風に靡く新緑色のハーフマントと銀髪、そして童子の屈託の無さと大人の落ち着きを併せ持つ爽やか好青年
レイドクエストの時も思いましたが、本当に本物がそこにいます。彼らは基本的に自らの
eスポーツは世界規模で盛況の一途を辿っていますし、彼らにはスポンサーがいてファンがいて、なのでCMやネット番組にもよく出演しています。世界的に有名なインフルエンサーでもあるんです。
なので勿論、ぼくも彼らのプレイヤーとしてのお顔も知っています。そんなぼくの目が映す彼らのお顔は、ぼくの記憶にある彼らのお顔と全く一緒なのです。とても精巧に調整されたそっくりさんじゃ無い限り本人であるとしか言えません。
「【
唇の動きと音声が違うのは、システム側で自動的に翻訳してくれているからです。でも少年のようなあどけなさに大人びた落ち着いた抑揚――その声色はニコさんの声そのものです。
「は、はじめまして……じゃ無かったですね。レイドクエスト振りです、セヴンです」
ぺこりと下げた頭を戻すと、意外にもアイザックさんがぼくのことをじっとりと見詰めています。そして「もしかしてさ」と前置きをして訊ねました。
「――TANABATAちゃん、だよね?」
「え――――」
TANABATA――それは、ぼくがコスプレイヤーとして活動する際の名前です。一応、コスプレイヤーとしてアニメやゲームのイベント出演のギャラですとか、配信動画の
第一線で活躍しておられる方々や、この【
「いやぁ、本当はレイドクエストの時から気になってたんだよ、でもほら、あの時って結構バタバタしてたでしょ? だから結局訊けず仕舞いでさ……アリデッドから仲間の一人だってスクリーンチャット越しに紹介された時にはたまげたね。でも結局その時も俺たちは現着に間に合わなかったし……」
「あの、どどどどうしてぼくのことを知っているんですか?」
「知ってるも何も、ファンだよファン!」
何とぉぉぉおおおおお!! ふぁふぁふぁ――ファン! FAN! ファンでした!!
ええええええええええ!? ふぁふぁふぁ――ファン!?
「作品は全部持ってるし、去年の
「ええっ!? UDXにいらしてたんですか!? あ、でも……」
「そう、そうなんだよ……TANABATAちゃん、FFXXⅩのブースにいるって聞いて行ったら……」
そうなんです。まさかのインフルエンザでダウンしちゃってたんです……うう、あのイベントは本当に、いち個人のお客様としても参加したかった一大イベントだったんですが……
「でもこうして一緒に冒険出来るって聞いてさ、ちゃんと本人だしさ、いやもう何て日だよ、最高だよ!」
「はい、ぼくも嬉しいです! あの、いつもお買い上げいただき、ありがとうございますっ!」
「くぅ~っ、この丁寧な感じが堪らないよな! なぁニコ、お前もそう思うだろ!?」
「うん、丁寧で礼儀正しいのはいいことだと思うよ?」
「とにかく、俺たち【
「はい、お言葉に甘えさせて頂きます」
興奮状態のぼくとアイザックさんの様子をリアナさんとターシャさんに溜息交じりに呆れ顔で見守られながら、がっちりと固い握手を交わしたぼくたちの傍らではスーマンさんもニコさんと固い握手を交わしていました。
「本当、悪いな。急でしかも不躾なお願いだってのに」
「大丈夫だよ、こういう縁ってとてつもないものに繋がってたりするからね。それに、アリデッドからもよろしく頼まれてたしさ」
「アリデッドから? 何て?」
「同じ双剣使いとして鍛えてやってくれ――って」
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