082;七月七日.07(シーン・クロード)

「せあぁぁぁあああああ!」


 流石、帝国領にある遺跡――魔動機兵がうじゃうじゃいやがる。

 門番GateKeeperを務めていたあの巨兵は以来見ていないが、2メートルClassの小振りな機兵と、そして明らかにカタギじゃない格好をした――おそらくはスーマンの手下になっている盗賊団の連中と思わしき人間。

 魔動機兵の強さは厄介だが、盗賊団の連中はさほどじゃない。そしてちょっと引っ搔き回してやれば、盗賊団は勝手に自滅してくれる――魔動機兵の銃撃に巻き込まれて、だ。


「こ、こいつっ」

「強いぞ!?」


 違う――お前らが弱いんだ。

 魔動機兵の平均レベルは60程度、盗賊団は低くて25、強くても40ちょいだ。正直、レベル50を目前にした俺には他愛のない敵。一対一だったがまだあの入口の門番GateKeeperの方がマシだったぜ?


「――《スクリューレイドScrewRaid》!」


 レイドクエストの経験値でレベルアップした際に修得した新たな突撃スキルは、ドリルのように螺旋回転する衝撃波を纏いながら、推進経路上の敵全体を巻き込んでダメージを与える。無論、進行方向にいる敵にはドリルの強烈な一撃で撥ね穿つ。


「《クロスグレイヴCrossGlaive》!」


 このスキルもそう。軌跡を作るために十字に薙ぐ斬閃そのものにも勿論当たり判定がある。

 そして大抵の場合、その十字の斬閃で怯んだ相手は、直後に放たれる光の砲撃が直撃し、派手に吹っ飛ぶことになるのだ。


「……こんなもんか」


 血振りをして〈パルチザン〉の状態を確かめる。一応念の為にもう一本、使い魔ファミリアに収納させているが、取り敢えずまだ大丈夫そうだ。


 要塞内は広くて高く――きっと魔動機兵や魔動巨兵が自由に動きやすいようにだろう――壁や天井、床を構成する鉄板は錆び、所々腐蝕で穴が空いていたりしている。

 立ち込める血の匂いは、果たしてこの金属板のせいだろうか。それとも――


「――ここか」


 場にこびりついた鉄錆の匂いは段々と濃くなり、最深部に辿り着いた頃にはもう頭痛がしそうな程だ。

 閉ざされた両開きの扉の僅かに空いた隙間から、仄白い冷気のような水蒸気が漏れ出ている。

 そう言えばスーマンは毒も使うんだったな――だが俺もステータス異常を即座に無効化する《原型解放RenegadeForm》は残している。


「行くか」

「ちょぉーっと待ってぇ!」


 What!?――俺が突き進んできた方とは反対側の廊下の奥から、何やら人影が現れた。

 逆光気味でよくは見えないが、ガタイは俺と同等、或いは俺よりも少し大きいか?

 格好から察するに、俺と同じ冒険者で、アニマは判らないがアルマは恐らく《闘士Fighter》系――体術による格闘攻撃を得意とし、ジュライの《刀士Mononofu》同様に《戦型Style》という“構え”のスキルによる強烈な連続攻撃が特徴のアルマだ。


「スーマンちゃんを追っているのはアナタだけじゃ無いわん」

「オタク、どちらさんだ? どうして俺がスーマンを追ってると知っている? それと、どうしてオタクもスーマンを追っている?」


 前に競合相手との小競り合いは避けたいが……その辺りは相手次第だ。

 そしてその相手は警戒して槍を構える俺の方へと、俺を刺激しないようにか両手をちんまく挙げてゆっくりと歩を進める。

 そして天井の生き残っている魔灯の光の下に現れると、漸くその全貌を明らかにした。


「お前っ――」


 綺麗に剃髪した剥げ頭SkinHead

 鋭い眼光が放つ力強い眼差しは、それだけで明らかに強者だってことが判る。

 太い鼻の下には綺麗に整えられた髭――それだけで彼の渾名Nicknameを“男爵Baron”と決めてもいい、と言えばそれがどんな形をしているかは判るだろうか。

 太く筋張った首は筋骨隆々とした鍛え抜かれた身体に接続され――その屈強な肉体は、に包まれている。


「――何だ、その格好は!?」


 一言で表すなら“魔法少女MagicalGirl”だ。しかし露出はアイナリィに次いで、と言えるほどに多く、鍛え抜かれた肉体美がおぞましいほどに強調されてやがるっ!


可愛いキュートでしょぉ? 作るのに相当苦労したのよぉん♪」


 そら固有兵装UniqueWeaponだろうよ!

 そんな気違いじみた装備が通常店舗に売ってるわけ無ぇからなぁ!


「いやん、そんなに見詰めないでぇん♪」


 くっ――だがは俺もなかなか他人のこと言えないから強く突っ込めない!


「うふん♪」


 しかし――俺の本能が、こいつは危険Dangerだと強烈に叫んでいる……どうする? 排除するか? だが……


「ああ、ごめんねぇん♪ スーマンを追っている理由、それからどうしてアナタが彼を追っていることをアタシが知っているのかの理由よねぇん? 確かにアナタからしたら気になるわよねぇ……でも、ごめんなさぁい♪ 教えられないのよぉん」


 ぐぅっ、言葉尻のオネエ感が見た目との相乗効果でまるで精神攻撃MentalAttackだ……何かしらのステータス異常を獲得してもおかしく無い……

 Damn!! こちとらこれからスーマンとの戦闘Battleが待っているってのに!


「ダルク」

「あ?」

「アタシが今、アナタに教えてあげられるとしたら――ダルク・アンヘルDark-Angelって言うアタシの名前くらいかしらねぇん?」

「……要らねぇよNo Needs.


 マジで何なんだコイツ……


「さて、とぉ――追いつかれたか、追い越された場合は打合せ通りにぃ……」


 俺とダルクとか言う奇妙な髭のおっさんとの距離は、およそ5メートル以上は離れていた。

 だって言うのに――気が付けばそいつの身体は俺の目の前にあって、そしてそいつは拳を作り身構えていた。


 気付けなかった。警戒していた、俺は確かに臨戦態勢だった筈だ。だが、どういう原理かは知らないが、俺の意識の一瞬の隙を衝いてそいつは俺の間合いの内側へと跳躍していたんだ。

 コイツ――ジュライと同じ、トリックスターか!?


「強さを見てから考えるぅ♪ ――ァッ!!」

「――っ!?」


 恐らく、ただの中段正拳突き。しかし恐ろしく早く、鋭く、そして重い。

 鎧越しだと言うのに背中まで突き抜けた衝撃が跳ね返って全身に波濤し、俺は、そして背中から床に落ちた。


 《ラテラルスラストLateralThrust


ァッ!!」


 鉄板を突き抜けかねない衝撃が響き、しかしすんでの所でスキルにより倒れながら回避した俺はどうにか立ち上がる。

 ただの踏み付けStompですら、在り得ないほどの高威力だ。凄まじいにも程がある……


「上等だ……そっちがその気なら、スーマンのにしてやるよ」

「あらぁん? 漸くる気になってくれたのかしらぁん? 遅くなぁい?」


 いちいちくねくねしやがって……


「アリデッド」

「?」

「どうせ知ってんだろうが……俺の名前だよ」

「あらぁん、どうもご丁寧にありがとぉん♪ 行くわよぉん――」

「ああ、後悔するなよ――」


 そして俺たちはほぼ同時に駆け出した。

 幸いにして戦場は屋内の廊下だが、幅も高さも申し分ない――魔動機兵が自在に動き回れるように設計されているからだろう。

 だから目にも留まらぬ速さで猛進してきた髭野郎ダルクを俺は跳び越え、空中でトンボを切りながら逆に突撃をぶちかます。


 槍の間合いは中距離MiddleRange。対して格闘の間合いは近距離CrossRange

 地上での攻防は流石に分を譲るが、跳び上がってしまえば俺の戦場だ。


 この髭野郎ダルク、動きから察するに空手か何かの打撃系格闘技の猛者、ってところか。体捌きや虚実の扱い、非常に勉強になるぜ……

 だがこういったトリックスターを凌駕するためにスキルはある。現実世界に存在する物理法則を無視するスキルの挙動は、現実に染まり切ってるトリックスターにこそ通用する。

 特に俺の持っているスキルは半分が推進系――縦横無尽に駆け回り、一瞬の隙を衝いて穿つのが槍遣いの真骨頂なんだよ!

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