076;七月七日.01(姫七夕)
「アイナリィちゃん、ツェンリアで合流できそうですよ」
ボックス席の向かい側でジュライがきょとんと首を傾げます。
そう言えばジュライは攻撃部隊でしたから、ぼくと同じ防衛部隊に配属されていたアイナリィちゃんとはそもそも面識も無かったんでした。
「ほら、アリデッドさんからスクリーンチャット来た時に、一緒に映ってた女の子いましたよね?」
「ああ――あの、何だかムスッとした表情をしていた銀髪のコですか?」
「それがですね、何とアリデッドさん推しなんですって! で、ぼくがアリデッドさんと親しげにしていたのが嫌で、嫉妬なのかなぁ? だからあの時はムスッとしてたんですって」
ぼくにつられてでしょうか、ぼくの話を聞くジュライは何だか春の日差しのような暖かな微笑みを湛えながらうんうんと相槌を打ってくれます。ぼくにはそれが堪らなく嬉しくて、ついついうっかり話しすぎてしまうんです。
これから
「あ、そう言えばね、ジュライのこともいいって言ってたんですよ! ぼくがアリデッドさん推しじゃ無いってことを伝えたら、にこーってして、ジュライのこと、おにあ……」
思った傍からやってしまいました!
ジュライとぼくがお似合いだって言ってましたなんて、きゃー! こんな場面で言っていいことじゃないです!
アイナリィちゃんにジュライとお似合いだって言われて浮かれたこと、ジュライに聞かれてしまったでしょうか?
いえ、多分そこまで深くはぼくも話していなかったと思います。大丈夫、うん、大丈夫です!
「あの、ジュライ……」
「はい、何でしょう?」
どぎまぎするぼくとは対照的に、やっぱりジュライは落ち着いていて、穏やかで……何だか、一人相撲しているみたいで少し寂しいです。
「セヴン、大丈夫ですか?」
「えっ? あ、うん、ごめんなさい、何?」
「何……えっと……」
「あ、違うっ、ぼくから話しかけたんですよね。すみません、ついぼーっとしちゃって……」
「……セヴンは時々、ぼんやりとしている時がありますよね。疲れてないですか?」
「え? そんなにしてるかなぁ?」
「いえ、そこまで多いわけじゃ無いんですけど……」
困ったように微笑んで、ジュライが少しだけ目を伏せました。
そしてそのままふっと車窓の外の景色を眺めて、また無表情に似た朧げな笑みを浮かべます。
……ぼくにしてみれば、ジュライの方がぼくよりもずーっと、こんな風にぼんやりすることが多い気がするんですけど。
中学の時もそうでしたよ。授業の合間の休み時間、クラスメイトが向かい合ったり集まったりで色んな喧騒の花を咲かせているのに、ジュライ――ナツキ君は特別用が無い限り自分からは誰かに話しかけること無く、本を読んでいたり、ただぼーっと過ごしていたものです。
「あ、そうだ、思い出しました! パーティ名どうしましょうか?」
本当は思い出したわけでは無いのですが、都合のいいことに思いついてしまいましたし、それに決めなければ決めなければと考えてはいましたから、この機にジュライと一緒に考えることにします。
「パーティ名、ですか?」
「そうです。ぼくたちも揃って晴れて
今の所、パーティと言ってもぼくとジュライの二人だけですけど。あ、でもアリデッドさん加入してくれますかね? と言ってもアリデッドさんの方がレベル高いですが。でもでも加入してくれたら、自動的にアイナリィちゃんも? なんだか賑やかになりそうです!
「……ジュライ・セヴンス、というのはどうでしょう?」
「えっ?」
ぼくが愉快な妄想に耽っている間に、ジュライはぱぱっとパーティ名の案を出してくれました。でも、え?
「ジュライ・セヴンス?」
「はい。僕とセヴンのパーティなのですから、ジュライ・セヴンスです。ちょうど僕たち、誕生日も同じ七月七日ですから、日付の意味も込めて。ダサい、ですかね?」
「それがいいです! ジュライ・セヴンスにしましょう!」
「本当ですか? でもそれだと、例えばアリデッドさんとか他の方が加入しづらくなったりしないですかね? やっぱり他の案も……」
「嫌です! もう決めました! ぼくたちのパーティ名は、【ジュライ・セヴンス】です!」
これはもう押し切るしかありません。ジュライってば、自分で言い出したくせに取り下げるなんてそっちの方がダサダサです!
それから表記についてひと悶着あり、最終的にぼくたちのパーティ名は【
そう――次の日曜日、ぼくたちは21歳になるのです。今日が火曜日ですから、あと五日しかありません。でも何だか、あと五日しか無いという気もします。
大人になると、自分の誕生日すらうっかり忘れてしまうことが多々ありますが、ヴァスリでナツキ君と再会してからと言うもの、この日をずっと楽しみにしていました。
でも彼は
◆]警告。
現実に悪影響を及ぼす行動意思あり[◆
◆]プレイヤーロストの恐――ぐしゃり。
「あ、ごめんなさい」
「えっ!? ジュライ、今――」
唐突に現れた
「てっきりまた僕に差し向けられたものだと思ったので、つい反射的に握り潰してしまいました……」
「え? ジュライにも?」
「はい」
ぼくはたじろぎました。先程までいい感じで浮かれていた脳裏には今、沢山の疑問符が代わりに浮かび上がり、困惑と混乱とが疑問符から滲み出ては溢れ、ぼくの思考は感情と共にその海の中に沈み切ってしまいました。
「いつ、現れたんですか?」
「いつ――確か、一番最初は……ああ、キャラクターメイキングの時です」
ジュライの前にあの
「僕が妹のことを思い出そうとすると、決まって現れました。アリデッドさんの時は、それを伝えようとした時に」
「じゃあ、アリデッドさんは
静かに、けれど確かにジュライは頷きました。
「……セヴンは、今何を考えていたんですか?」
「ぼく?」
「はい。僕の場合は、七華のことがきっかけであの
沈痛そうな面持ちです。ぼくのことを案じているんだと思うと、胸が締め付けられるようで――だからぼくは不可思議の海に溺れてしまった思考でどうにかそのきっかけを思い出そうと必死になります。
そして――
「……フレンド」
「フレンド?」
「そうです。ぼく、ジュライにフレンド申請したくて――」
◆]警告。
現実に悪影響を及ぼ――ごしゃっ。
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