063;邪竜人、討伐すべし.13(姫七夕)
単純に考えると紫は赤たす青ですから、……ちょっとご勘弁願いたいです。
《カタストロフィア》は開いた翼から数本の赤いレーザービームを斉射するスキルでした。しかし発生源が特定できているので、タイミングを調節すればアイナリィちゃんの特大の《
対して《カラミティストーム》は空に展開した魔術円から、幾つもの落雷を呼び寄せる、というランダム性の高いものでした。
後衛陣にも余裕で届くほど範囲が広いスキルなので、流石にアイナリィちゃんの五桁
しかし《カタストロフィア》と違い、こちらのスキルは
では、
ごくり――誰もが自然と、唾を飲み込みました。
咄嗟に対応できるよう前衛陣に防御魔術をかけ直したり、後衛陣の手前にも障壁スキルを重ねたりと、スキルの発動を待つ間ににぼくたちも準備を整えます。
しかし、光が集まり始めてからまだスキル名が浮かび上がりません。おかしいです、これまでの挙動を考えると、もうスキル名の
「翼だ! 翼を攻撃しろ!」
ぼくたちの後方から非常に良く通る声が放たれました。
大気を震え上がらせて届く、というよりは、鋭く大気を切り裂いて遠くへと波濤するかのような。
それは、この戦線へと向かう前に聴いた声です。
ヴァスリ内のトップランクパーティ
「Hey Guys! 翼を集中攻撃だ!」
その指示を受けて直ぐに行動を開始したのはアリデッドさんでした。推進スキルで頭から背中へと渡り、鋭い刺突スキルで翼の付け根の筋肉から飛沫を巻き上げます。
「おうっ!」
「翼だっ、翼を狙え!」
「くそっ!」
「やってやるっ!」
「やられてやまるかよっ!」
そして首筋に狙いを定めて攻撃を仕掛けていた前衛陣の一団も、身を翻して紫色に輝く翼を次々と攻撃し始めました。
《スプレディンググリッター》
その中にいるロアさんは《カタストロフィア》を止める時の要領で、白く輝く複数の矢を空に放ち、旋回して落ちてきたそれらの光弾が両翼に直撃して大きな爆発を見せます。
「うおおおおおっ!」
ニコさんも駆け出します。そしてぼくたち後衛陣がモーゼの海割りのように左右に退いたことで出来た滑走路を走り、そのまま上空へと飛び出しました。
「――《
白い光の帯がニコさんの全身を包むように流れ、それは背中へと集い、そして翼を形作りました! ニコさんのアニマは取得条件が《
光で出来た両翼を大きく広げて空へと舞い上がったニコさんが腰の交差する二つの鞘から一気に二振りの直剣を引き抜きました。そのどちらもが高ランクの武器であることは明白で、おそらく片方は
《ソニックセイバー》
そして空中で繰り出す、
「お待たせ!」
着地はせずそのまま上空を滑るように飛び、ちょうど背中の真上に位置したニコさんが剣を振り翳します。形の異なる双剣は白い光を帯び、その光はロアさんの《レイブレード》のように大きく天へと伸びていきます。
知っています。これは
「――《イサリッククロス》!」
ロアさんの《レイブレード》に匹敵する巨大な斬撃の軌跡が鋭角な十字を刻んで
負けじとロアさんも過剰に
スキルは強く念じることで使用しますが、それぞれのスキルは念じてから発動するまでのタイムラグが異なるんです。
それなのに――それなのに!
《ミリアッドストラトス》
紫色の輝きが迸り、翼から立ち上った光の柱が天に幾つもの魔術円を拡げました。
予めロアさんが《カタストロフィア》の度にダメージを蓄積させ、そしてあれだけの猛攻を受けても、ニコさんとロアさんの屈指の一撃を与えても尚、翼の部位破壊には至りませんでした。
「嘘だろ……」
「ここに来て……」
「これ……勝てるのかよ……」
上空にいくつも開いた魔術円は地上へと向けて、十数体の小型の
まさか、ここに来て敵も増援するなんて……
確かな絶望感がぼくたちの脳裏に居座りました。
いくら強大だろうと、敵が一体なら攻撃の手数は限られますし、注意を向ける方向も一箇所で済みます。
それが、劣るとは言え複数を相手にするとなると、急造の戦団では到底処理しきれません。
いくつも目を向ければそれだけミスも増えますし、本体にばかり目を向けていると雑魚にやられ、雑魚に目を向けると本体の強力な攻撃に対応できなくなります。
「VRAHHHHHHHH!」
「VOHHHHHHHHH!」
降り立った小型の
小型とは言ってもそんなに小さいわけではありません、大きさとしては大体3メートル行かない程度――アリデッドさんより少し大きいくらいです。
しかし小さくなったことで動きは格段に俊敏になり、瞬きの合間に数人の冒険者仲間が落とされてしまいました。
「現時点で
ターシャさんが目の前の小型に盾から光を放って吹き飛ばしながら怒号を上げます。
再び首への攻撃を再開した背中組からロアさんが飛び出し、ぼくたち後衛陣を強襲する小型に向けて弓を引き絞りました。
一撃のもとに頭部を破壊される小型の
「
アイナリィちゃんが役割から離れて攻撃魔術で小型を一掃します。過度にマナの込められた晶石の槍は大柄な肉体をいくつも穿ち、斜面を転げ落としました。
しかし大打撃とは、こう言った場面で来るのです。
《カタストロフィア》
しまった、という顔が目に入りました。でも無理はありません、アイナリィちゃんはぼくたちを守ろうとしてくれたのですから。
そしてロアさんの《スプレディンググリッター》も今回は間に合いません。弦を引き絞ったところで赤いレーザービームが放たれてしまいました。それは戦線を保持していた防衛部隊や騎士団を嘲笑うかのように蹴散らし、壊滅的なダメージをぼくたちは貰ってしまいます。
しかもそれだけでは終わりません。悪いことは大抵重なるものです。
遅れて放たれたロアさんの《スプレディンググリッター》が、ちょうど
《カラミティストーム》
落雷は次々と、主にぼくたち後衛陣へ降り注ぎます。
激しい衝撃が辺りを
ぼくの視界も白く染まり上がり――どうやらぼくは、やられてしまったみたいです。
ああ、残念です。もっとジュライと一緒に、戦いたかったなぁ……
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