062;邪竜人、討伐すべし.12(小狐塚朱雁/シーン・クロード)

[NICO:GRNVRD HP REST 55%]

[NICO:CAUTION, BIG SKILL MAY COME!!]



 英語、解らへん!

 でも取り敢えずでっかいのんが来る言うんは解る!

 パターンやもんな、最初は85%、次は70%。生命力HPが15%ずつ削れる度にあの《カラミティストーム》ゆう雷ばちこんスキルがはるんは判る!


「《魔術障壁バリア》!」


 やからうちはうちら後衛陣の前面に阿保みたいにデカい《魔術障壁バリア》を張る。魔力MPしこたま注ぎ込んだこいつは、さっきもばっちり雷受け止め切ったし。


 案の定、邪竜人グルンヴルドが両翼を広げて力溜めよるわ――青い光を纏って輝きがえらい増しとる。


「回復失礼します!」

「失礼します!」

「〈マジックポーション〉かけます!」


 っていうか、この列何やねん。もう一時間くらいずっとうちの後ろには補給部隊の長蛇の列が出来とんねん。代わりばんこに〈マジックポーション〉ばしゃーって掛けてくれるんは嬉しいけど、ちょっと格好つかんとちゃうか?


 そして雷が落ちる。多少回復してくれた魔力MPを注ぎ込んで、新たな障壁を前衛陣の先頭、ターシャさんの上にも張っておく。

 本来の5%くらいの、付け焼刃にしかならん障壁やけど無いよりはマシってもんや。


「ぎゃあっ!」

「嘘ぉっ!?」

「マジぃっ!?」

「うをぉっ!!」


 うちら防衛部隊の後衛はまだ大丈夫、でもやっぱり攻撃部隊の後衛の被害がやばい。十数分前から殆どまともな攻撃魔術が飛んでない。

 あの《カラミティストーム》言うスキルは邪竜人グルンヴルドの近くにはそない落ちひんみたいやな。次からは後衛陣に割り振って障壁張るか?


「〈マジックポーション〉もっと持ってぃや!」


 うちは振り向いて、補給部隊の列に激を飛ばす。「はい!」と声を上げて列の動きが早まった。そうそう、やるんやったらそれくらいの情熱を傾けな。


「セヴンちゃん、アイツん動き止まったで!」


 大きく頷いたセヴンちゃんがまた早口の詠唱を口遊くちずさみ出す。めっちゃ早くて何言うてんのか全然聴き取れへん。うちやったら舌噛み切って血ぃ吐きそうやな。あかん、考えたら舌先痺れてきた。うへぇ。


「もう! 一列やのうて三列とかにしたったらええんとちゃうかな!? 後ろの方待ってるだけ無駄やないの!」

「「「はっはい!」」」


 何で律儀に一列でやろうとすんねん。列の本数増やして一気にばぁーってやった方が効率ええやんか。おどれら日本人か。大半日本人の顔しとるわ。ならしゃーないわ。


「よっしゃ、ええでええでー。したらうちもちょくちょく攻撃したるわ! 構築開始ソート・オン――」




   ◆




[NICO:GRNVRD HP REST HALF!!]

[NICO:GREAT!!]

[NICO:I'M GETTING THERE SOON!!]



 おお、ニコももうすぐ到着するらしい。ってことは、これ以上の冒険者パーティの追加はそうそう見込めないか。

 確かに六割を切った辺りから援軍の増加率が激減したからな。もう二時間は戦いっぱなしか? 昔のコンシューマゲームじゃあるまいし、流石にVRで長時間は脳が焼き切れるぞ……


「っしゃあ!」


 頭に張り付く俺とジュライは二人で執拗に額をぶち抜くべく猛攻を加える。


「やぁああっ!」


 初対面の時は一切スキルを使っていなかった――いや、使えていなかったジュライも、流石『男子三日会わざれば刮目して見よ』の国の男だな、見違えるほどのスキル捌き、スキル繋ぎだ。


 ぶっちゃけ、ジュライくらい地力が高ければスキルを使おうが通常攻撃で押し切ろうがそこまで大きく変わらない。

 ただジュライは刀士モノノフだ。刀士モノノフとあと闘士ファイターの二つの前衛職は《戦型》という特殊なスキルを修得する。所謂“構え”だな。


 この《戦型》を使用すると、次に繰り出す指定されたスキルの威力補正が格段に上昇するし、また特定のスキル間の繋ぎは遥かにスムーズだ。

 正直、この二つのアルマに限って言えば――スキル使いがトリックスターを凌駕する。


 かと言って俺の槍兵スピアマン系統やスーマンみたいな蛮人バーバリアン系統じゃトリックスターに勝てないか、って言ったらそうじゃない。要は使い方だ。

 俺の槍兵スピアマン系統の修得するスキルは移動を伴うものが多いから一撃離脱ヒットアンドアウェイに徹すれば無敵にもなれるし、スーマンの蛮人バーバリアン系統は吃驚箱Jack-in-the-boxみたいに何をしてくるか判らない怖さがある。


 第一段階プリマのアルマは全部で15種類だったか? それら全てに個性・特徴があって、一長一短なのはどれも同じだ。

 ただ、現時点ではやはり少なからずの偏りが生じている。盾役タンクだと騎士ナイトよりも戦士ウォーリアーの方が優遇されてるっぽい感じがあるしな。


 そういう細かい調整を、俺の兄は担当していた筈だった。

 これからもアルマは増えるって息巻いていたし、プレイヤーが増えれば増えるほど、世界が広がっていくのもMMORPGの醍醐味だって。


 そうだ――俺は、兄を探す。探し出して、見つけ切る。

 そのためにもここで足踏みしている暇は無い。さっさと邪竜人コイツをぶっ倒して、このゲームが抱える謎を解き明かす!


 だから、邪竜人グルンヴルド――お前は、邪魔だ!


「《ペネトレイトPenetrate――スピアヴォールトSpearVault》!」


 穿つ強烈な一撃に、跳び上がるスキルを繋げる。

 俺の身体はスキル効果によって遥か高みへと押し上げられ、そこからさらに《ダブルジャンプDoubleJump》と《ヴァーティカルスラストVerticalThrust》でさらなる高度へ引き上げる。


「行くぜ――」


 頂点へと達し、落ちようとする身体を再度《ダブルジャンプDoubleJump》で宙を蹴って推進し、引力という加速も《ヴァーティカルスラストVerticalThrust》で倍増させる。


「ジュライ! 退けぇ!」


 目指す額は動かない。動いたとしても、今の俺なら《ラテラルスラストLateralThrust》で微調整を施して命中させることが出来る。


「《スティングファングStingFang》!」


 駄目押しの加速。突き出す穂先が衝撃波を纏うように、割いた空気を上方へと押し遣っている。

 そして、衝突Impactの瞬間に合わせて――もう一つの刺突スキル《ペネトレイトPenetrate》も行使する!


 瞬間、弾けるように空間自体が爆ぜ、致命の一撃クリティカルを超えた絶命の一撃フェイタルダメージが叩き込まれた。


 一見バグとも取れる、スキルの。流石にこればっかりは、トリックスターには出せないスキル使いの真骨頂だ。

 条件は二つ。一つはタイミングが完全に合致していること。そしてもう一つは、与えるダメージの種類――この場合は槍の刺突による貫通ダメージだ――が合致していること。

 これらを満たしていればその両方のスキルのダメージが合算されて、確実にそのダメージが絶命の一撃フェイタルに成り上がる。

 普通は二人以上の連携で齎されるこれを、俺なら一人で叩き出せる。単独ソロプレイを続けてきた成果の一つってわけだ。



[NICO:GRNVRD HP REST45%]



 いよしっ、攻撃部隊は後衛が残念なことになってるが前衛陣が優秀で助かるぜ! ロアも相変わらずご機嫌だしなっ!

 あと、さっき危うく俺たちを巻き込みかねない勢いでぶっ放された馬鹿でかい晶石の槍っつーかもはや円錐柱が効いてるな。あれ、多分あいつだよな、一体どれだけ魔力MP注ぎ込んでるのか甚だ疑問だな。


「ジュライっ、畳み掛けるぞっ!」

「はいっ!」


 しかし再び二人して額を猛攻撃し始めた時、邪竜人グルンヴルドが両翼を大きく広げた。


 何だ――《カラミティストーム》には早い筈……アレが次に来るのは生命力HPが四割切った時だろ?


「挙動が変わった! 総員、防御体勢に移行シフトしろ!」


 ターシャも勿論気付いている。

 そして身構える俺たちを余所に、翼がの光を纏い、周囲のマナを収束させ始めた!


 これは……まさか、さらにデカイのが来るんじゃ無いだろうな、運営!?

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