059;邪竜人、討伐すべし.09(シーン・クロード)
地響きを盛大に立てて倒れ込んだ
土煙が礫と共に舞い上がり、俄かに地震めいた揺れが一帯に広がった。
「総員進撃! 倒れた今が
最前線で指揮を取りながら
戦団はここぞとばかりにスキルや魔術を駆使して残り九割の
勿論、俺だって負けちゃいねぇ。
「《
繰り出した一撃を槍高跳びの布石に仕上げて高く跳び上がった俺はさらに《ダブルジャンプ》そして《ヴァーティカルスラスト》を重ね、遙か空の高みへと舞い上がる。
高度、およそ20メートル――水面の硬さが
さぁ、ここから繰り出すのは流星の一撃。
先程とは逆回しに、身体を反転させて《ダブルジャンプ》で真上を蹴る。加速した墜落の速度を《ヴァーティカルスラスト》で極限まで高め、そして――
「《
さらに宙を蹴って真下へと加速しながら突き出した槍の穂先は思わず柄に弾き飛ばされそうな衝撃を俺にも伝える。
だから手から離れないよう力を込めに込めて握り締め、再び宙へと舞い上がるため《スピアヴォールト》で無理やり引っこ抜く。
「GOAHHHHHHHHHHHHHHHH!」
盛大な叫び声が上がるが気にしている暇なんか無い。何故ならこれで終わりじゃないからだ。
「《
そして宙で刻んだ十字の軌跡は、倒れ伏した
「
間隙を衝いて空から降り注ぐロアの光の矢を受けないよう縦横無尽に駆け巡りながら、俺は何度も斬り刻みそして突き刺す。
前衛陣は防衛部隊も今は攻撃に転じている。後衛部隊もだ。唯一、
だがそれはもう総攻撃だった。
斬撃が、打撃が、刺突が紫がかった血飛沫を上げ。
矢が、槍が、鉄球が。
炎が、雷が、氷柱が、土の鉾が。
何度も何度も、巨大な敵を打ち叩いては繰り返された。
「うああああああああ!」
その最中――漸くあの
遅いんだよ、レイドクエストみたいな大勢で参加する祭りは足並みが非常に重要だ。全員が開戦当初から全力出してるってのにそんな痴態晒してっと糾弾されるぞ、ったく……
だがあいつの《
いくら俺がそうさせないために同じ戦場にいるって言っても、あいつと俺は別にそこまでの仲じゃない。信頼関係なんて他人のそれに毛が生えた程度のものだ。
俺からすれば、だからこそ何度も何度も繰り返してさっさと信頼関係を築きたいってところだが……難しいだろうな。
まぁいいさ――同じ死線を共に潜り抜ける度に勝手に距離は縮まるもんさ。
今は、同じ戦団の一人として全身全霊を撃破に傾ける!
「Ahhhhhhhhhhhhhhhh!!」
緑色の鱗に覆われた両の剛腕で振るう槍の閃撃は
しかし巨体過ぎる。またもニコから全体メッセージが送られてきたが、漸く
「遅くなった! 我らも共に戦おう!」
お? 何だ? ――後方から援軍だ。あの華奢な感じ、耳の形、ここでエルフか!
冒険者の戦団も、送れて集まった追加のパーティが続々と合流する。最後衛で切り盛りしているアイザックが指示を飛ばし取りまとめている。
「起き上がるぞ!」
ぐぐ、と巨体に力が漲っていくのが分かる筋肉の蠢き。どうにか一秒でもそれを阻むために攻撃部隊は追い打ちをかけ続けるが――駄目だ、やはり全体的な火力が足りない。
「WOHHHHHHHHHHHHHHHH!」
そうはさせじとロアも蓋をするように光の矢を降り注がせるが、遂に
天を衝くような咆哮は雲を晴らすほどに大気をビリビリと震わせる。
そしてぐるりと周囲を見渡すと、その背の膜翼をバサリと大きく広げる。
「ロア!」
ターシャが叫ぶ。言われなくてもとでも言うように、すでにロアは弓の形状をした〈ブラックウィドウ〉に光の矢を番えていた。
しかし。
「――
膜翼が纏ったのは、青い光。《カタストロフィア》の色は赤だ!
そしてスキル名が
《カラミティストーム》
しかし
馬鹿みたいな大きさだ――この地一体を覆い尽くす、まるで天蓋。
「GOAAAAAAAAAAAAAAAAA!」
鳴り止まぬ咆哮が魔術陣の輝きを強めていく。幾つもの回転する円が重なる陣の動きがそして止まり――陣から地面へと、幾つもの雷電が迸っては落ちていく!
「広範囲の、ランダム爆撃!?」
それは前衛にも、そしてそれを跳び越えて後衛にも平等に降り注ぐ。標的は完全にランダムであるため障壁は間に合わず、しかも地に落ちた瞬間に爆発するため被害が甚大だ。
《カタストロフィア》なんて可愛いもんだなんて思っちまう。
「ぎゃああっ!」
「うああっ!」
「嫌ぁッ!」
「うおあああああっ!」
「がぁ、――っ!」
そこらかしこで悲鳴が上がる。一体今の攻撃でどれだけの戦力が消えた? 戦える奴は何割残ってるんだ? このレイドクエストは攻略可能なのか? 本当はもっとPCたちが成長してから発生するものだったりするんじゃないか? いくら何でも……
いくら何でも……こいつは、強すぎる……。
黒焦げになった身体がマナに分解されていくのを、俺はどうにか落雷を受けないよう駆け抜けながら見遣った。
ゲーム中の死は本当に死が齎されるわけじゃない。あくまで遊戯なんだ、ただ登録したギルドに戻って、肉体の再生を待つだけだ。レベルや連続プレイ時間に比例して待ち時間は長くなるらしいが……とにかく、あいつらはこのレイドクエストにはもう参加できないだろう。いや、低レベル勢ならまだそこまで待たないか。
しかしいずれにせよ、これでまた攻略が遠のいたのは確実だ。
ロアは……生きてる。ターシャも。防衛部隊の前衛には障壁が張られていたからな、どうにかダメージカットが間に合ったか。
リアナは……っくそ、やられてる。アイザックもだ。どちらかって言うと後衛陣の被害がヤバいな……
「うああああああああ!」
振り向くとジュライが鬼気迫る顔つきでスキルを繰り出していた。
武器が軍刀から太刀に変わっている――《戦型:月華》から《初太刀・月》《二の太刀・下弦》《初太刀・円閃》《二の太刀・上弦》《初太刀・迅雷》《三の太刀・望月》《三の太刀・朔月》というルーティーンだ。繋ぎが恐ろしくスムーズで、スキル名の表示が忙しい。
ははっ。確かにあいつは何処となく、敵の強さによって怯むような奴じゃない。
見習えよ、今度ばかりは馬鹿は俺だ。
「あと85%……決して討てないわけじゃないな!」
駆け出し、跳び上がった俺は槍を振るい、スキルを繰り出す。
大技を使った後の隙なのか、
「補給部隊は主務を全うせよ! 敵は一時沈黙していると見られる! 立て直すなら今だ!」
ダメージはカットできたが直撃を受けたターシャの息は荒い。
そしてその前に躍り出たのはロアだった。
ロアは静かに
《マスカレイド》
――あいつ、皇国のユニーククエストも
ロアの掌からマナが迸り――その顔にはこの国の
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