058;邪竜人、討伐すべし.08(牛飼七月)
[NICO:GRNVRD HP REST 90%]
統括指揮を取るニコさんから一斉送信のメッセージが届きました。
流石外国の方です、全文英語のためよくは分かりませんが、恐らく
僕たち冒険者の戦団がこの地に到着し開戦してからすでに十分が経過しています。
敵の大技により一度は甚大な被害を被ったものの、ロアさんがその《カタストロフィア》を攻略してからは同じ場面を繰り返す攻防が続いています。
攻撃部隊は前衛後衛ともに着実にダメージを重ね、防衛部隊は前衛がターシャさんを筆頭に敵の攻撃を引き付け・引き受けながら、後衛陣が魔術の重ねがけにより一撃一撃の凶悪さを削り取り、どうにか凌いでいる、といったところです。
勿論補給部隊の活躍もかなり大きく、最初の《カタストロフィア》で瀕死の重体となった方もすっか戦線に戻ってきています。一撃でやられてしまった方々はもういませんが。
僕も、使いたてのスキルを駆使しながら何度も何度も敵の左足に斬り込みました。巨大な足はアキレス腱も太く、未だ切断には至っていませんが漸く分厚い皮膚を斬り飛ばしてその片鱗が見えてきたところです。
雨垂れも巌を穿つのです。なので、このまま継続して斬りまくります!
「防衛
それを視認するや否や、ターシャさんが声を張り上げ、待ってましたと言わんばかりに幾多もの《
とても文字では伝えられないような、何層にも重なった
しかし
胸が熱くなるのを感じました。
ああ、僕は今、生きている。
生きて、この特異な戦場で、命の遣り取りをしているのだと。
全員が一丸となって、この強大な敵に立ち向かっているのだと。
そう、強く思い知ります。
《戦型:月華――初太刀・月》
穿つ一閃は寸分違わず巨木のようなアキレス腱に突き立てられ――僕はすでに《二の太刀・下弦》を行使していました。
振り下ろされた切先が《月》と同じ傷口に新たな切創を作ったその瞬間。
《初太刀・円閃》
月華ではなく旋舞の戦型に属す斬撃スキルを繋げます。
戦型によるダメージ補正は得られませんが、通常攻撃を挟むよりもそれはスムーズに連撃の流れを築き、そして再び月華の剣閃へと。
《二の太刀・上弦》
身体ごと回転させて繰り出した横薙ぎの一閃が同じ切創を斬った直後で、翻した刃を下方から思い切り振り上げます。
まだまだ留まりません。掲げるように振り上げた刀身をほんの一瞬保持し、唐竹に叩き込むこのスキルを――
《初太刀・迅雷》
落雷のように強烈な一撃をまたも同じ切創へと叩き込み、そこから《二の太刀・下弦》《初太刀・円閃》《二の太刀・上弦》《初太刀・迅雷》の四つを何度も何度も繰り返します。
今の所、これが僕の全身全霊です。この四つは訓練の成果、スムーズに繋ぐことが出来、最も効率よく大ダメージを捻じ込めるのです。
「うああああああああ!」
何度も、何度も何度も何度も何度も。
馬鹿の一つ覚えで構いません。これを上回るスキルはあるにはあるのですが、僕の今の装備〈〇八式軍刀〉では両手でないと使えない《三の太刀》は望めません。
「《クロスグレイヴ》!」
相変わらず
当たり所が良かったのか、
体勢を崩すと踏ん張らなければならないため、両足の動きは
しかしそんなことは関係ありません。避けられようと棒立ちだろうと、僕は四つのスキルを繋げた連続攻撃を――
ビキンッ――――
何ということでしょう……〈〇八式軍刀〉が折れてしまいました。
自分でも吃驚するほど呆けた頭で途切れた刀身に視線を投じると、刃毀れは酷く、平地にもいくつもの傷が重なっていました。これでは折れて当然です。
「
上方から声が聞こえました。ぼんやりと仰ぎ見ると、先程まで馬鹿みたいに斬り付けていた左足が、僕の頭上に影を落として――――
ああ、踏み潰されたらきっと死にますね。そんな風に、呆けた頭に呆けた思考を浮かべました。
しかし結論を言うと、その左足が僕を踏み付けることはありませんでした。勿論、僕の周りにいた攻撃部隊前衛陣の面々もです。
何故なら
振り向いた青白い目が僕を射貫いています。
彼女は言葉を何も発しませんが、きっと「何やってるの」って問い掛け――いえ、煽っているんだと思いました。
「総員進撃! 倒れた今が
ターシャさんが声を張り上げました。それを聞いたロアさんは再び弓の形状に変化させた〈ブラックウィドウ〉で光の矢を幾本も空に放ちます。
それは鋭角な放物線を描いて急速に落下し、
「あの、替えの武器をお持ちしました」
「えっ?」
振り返ると、始めたての僕と同じ〈
「予備に、軍刀が無くて……」
きっと彼女はつい最近始めたばかりなのでしょう。本当は皆みたいに、前線に立って戦いたいに違いありません。
でも始めたばかりでまだ低レベルで、装備も初期のまま碌に揃えられなくて――
「……ありがとう、渡りに舟だ」
「え?」
僕は差し出された替えの武器を受け取り、鞘から抜き放ちました。
手に馴染みはありませんが、何せ両手で握れる武器です。《三の太刀》が使えるのです。
「わ、私はこれでっ」
告げるよりも早く、彼女は踵を返して後衛陣の方へと駆けて行きました。その背は見送らずに、僕は久方ぶりに両手で柄を握り締めて、そしてほんのひと時目を瞑りました。
戦いたいのに、戦えない人もいる。
戦線を築き戦う以上は、そんな方々の想いも背負って挑まなきゃ駄目だ。
仄暗い闇の中に、膝を抱えて座る僕がいます。
――また、戻れなくなるかもしれないよ?
いいえ。それでもここには、頼りになるアリデッドさんがいますから。
――そんなに斬りたいのかい?
それよりも今は、ちゃんと戦いたいんです。
僕は彼に手を差し伸べました。彼は嘆息して僕の手を取ると立ち上がり、そして僕たちはその輪郭を溶かし合いました。
彼が僕の中に満ちると、途端に身体全体に力が漲り、黒い感情が心を支配していきます。
大丈夫――僕は、一人じゃない。
「うああああああああああああああああ!」
《
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