048;鋼の意思.10(姫七夕/牛飼七月)

◆]セヴン

  人間、女性 レベル23

   俊敏 7

   強靭 7

   理知 16

   感応 11

   情動 12


   生命力 84

   魔 力 192


  アニマ:王冠ステマのアニマ

   属性:木

   ◇アクティブスキル

   《原型解放レネゲイドフォーム王冠ステマ


  アルマ:詠唱士チャンター第一段階プリマ

   ◇アクティブスキル

   《詠唱魔術チャントマギア/D》

   《ブックガード》

   《コンセントレーション》

   《レジスタンス》

   ◇パッシブスキル

   《元素知覚》

   《魔術強化Ⅰ》

   《早口言葉》

   《魔導書強化Ⅰ》

   《木属性特攻5%》


  装備

   〈温泉宿のタオル〉[◆



 ユーリカさんが手配してくれた宿の温泉――さすが火山地帯の国です!――に浸かりながら、ぼくはまったりとレベルの上がった自分の能力値ステータスを確認します。

 本来なら上がったそのタイミングで確認すべきですが、ちょっと心がそれどころでは無かったので、落ち着くための時間が必要でした。


 カララララーッ


「おう! まったりしてっか?」


 ぼくと同じ〈温泉宿のタオル〉を胴体に装備したユーリカさんが、何とも豪快に入室してきました。

 ぼくはにこりと微笑みを返し、再び能力値ステータスを見詰めながら物思いに耽ります。


 かぽーん――露天の奥の方で、鹿威ししおどしの風情ある音が響きます。


「ふぃ~っ……極楽、極楽……」


 頭と身体とを洗い終えたユーリカさんが、乳白色の湯に足を入れました。


「あちちっ」


 熱さに徐々に慣らしながら、そしてゆっくりとぼくの隣まで寄って来ます。


「しっかし……でけぇこって」


 ユーリカさんは対照的に絶壁なのです。ぼくはそれに対してどう返していいか分かりませんから、取り敢えず困った苦笑いを見せておきました。そして再び能力値ステータスと向き合います。


「今日だけで、レベルどんだけ上がったよ?」

「……全然です。まだ23です」

「上等上等。アンタらメインクエストも全然残してるんだろ? だったら30なんてあっと言う間だよ」

「そうですよね……」


 レベル30になったら、冒険者の社会で漸く“一人前”として扱われます。ユーリカさんのようにお店を持つことも出来れば、ギルドを抜けて、冒険者の組織“クラン”を経営することも出来ます。

 また固有兵装ユニークウェポンも世間的に所持することが許されますし――一応、ルール的にはレベル30未満半人前でも持てるんですけどね?――また、それぞれの所属ごとに異なる“ユニーククエスト”を進めることも出来るようになります。


 しかし目下の問題は――レベル30一人前になったと同時に発生する、パーティの“名付け”です。

 パーティのレベル平均が30以上で、尚且つ過半数がレベル30に達している場合、そのパーティには名前をつけることが出来るのです。


 ぼくよりもログイン時間が長いジュライのレベルはすでにぼくを追い越しました。この差は徐々に広がりつつあり、きっと今後もジュライはどんどんレベルを高くしていくでしょう。逆にぼくは置いていかれます。何だか少し、寂しいですね。

 ですからぼくのレベルが30になったその時、ぼくたち二人はパーティ名を名乗ることが許されるようになる――と言うか、パーティ名をNPCが記憶・認識するようになるんです。

 うう……どう頭を捻っても、いいパーティ名が出て来ません……!


「パーティメンバーは増員しないんか?」


 髪を下ろしたユーリカさんは何だか新鮮です。ずっと、ポンパドールの決まった髪型しか見て来ませんでしたから。こういった裸の交流は、それだけで価値があるものだと思います。


「今のところ、その予定は無いんですよね……」

「へぇ、何でぇ友達いないんか?」


 ぼくの友達は残念なことに、ヴァスリをプレイしていないんですよね。コスプレイヤーを始めてから知り合った方々も、まだ手をつけて無いみたいです。

 そう言えば十年前のあの頃、一緒にプレイした友人は元気でしょうか?


「あ」

「ん?」

「レベル30になったら、不思議なイグアナさんが仲間になります」


 そう言えば、シーンさん――アリデッドさんとの約束を忘れていました。本当に最近、色んなことをよく忘れがちです。

 あ、また思い出しました。ユーリカさんとジュライと三人で、コスプ



◆]警告。

  現実に悪影響を及ぼす行動意思あり[◆

◆]プレイヤーロストの恐れがあります[◆


◆]プレイヤーの思考領域から

     特定の行動意思を抹消します[◆


◆]……コマンド承認[◆

◆]……コマンド実行完了[◆


◆]プレイヤーの思考領域から

     特定の行動意思の抹消を確認[◆


◆]ゲームを続行します[◆



「おい、どうしたー? 逆上のぼせてんならさっさと上がっちまえよ」

「え?」


 あれ、何でしたっけ? 本当に最近、物忘れがひどいです。事あるごとに、頭がぽーっとするんです。

 現実リアルで頭、ぶつけましたかね?


「じゃあ、先に上がらせてもらいますね」

「おう。あ、最後に一個だけ、いいか?」

「はい、何でしょう?」


 立ち上がろうとしたぼくを引き留めたユーリカさんはとても真剣な表情です。真っ直ぐに虚空を見詰め、吐き出すべき言葉を喉の奥で慎重に組み上げています。

 ごくりと唾を飲みこんで、ぼくはその言葉が出て来るのをじっくりと待ちました。

 そして――ぼくを真摯に見詰める双眸が、決意の眼差しを向けています。


「何食ったらそんなに胸大きくなるんだ?」

「……鶏肉と、キャベツです」


 かぽーん。



   ◆



◆]ジュライ

  人間、男性 レベル25

   俊敏 13

   強靭 12

   理知 11

   感応 10

   情動 9


   生命力 130(+22)

   魔 力 99


  アニマ:修羅ソウラのアニマ

   属性:月

   ◇アクティブスキル

   《原型解放レネゲイドフォーム修羅ソウラ


  アルマ:刀士モノノフ第一段階プリマ

   ◇アクティブスキル

   《戦型:月華/D》

    《初太刀・月》

    《二の太刀・上弦/下弦》

    《三の太刀・望月/朔月》

   《戦型:雷哮/F》

    《初太刀・迅雷》

   《戦型:旋舞/F》

    《初太刀・円閃》

   《峰打ち》

   ◇パッシブスキル

   《刀術強化Ⅰ》

   《切断強化Ⅰ》

   《斬撃強化Ⅰ》

   《刺突強化Ⅰ》

   《貫通強化Ⅰ》


  装備

   〈〇八マルハチ式軍刀〉

   〈防刃アラミドジャケット〉

    ◇パッシブスキル

    《切断耐性5%》

   〈鋲底軍靴スパイクブーツ〉[◆



 セヴンとユーリカさんの二人は宿に着くや否やお風呂へと向かいました。

 ウルバンスの町だけでなく、ギルツ連邦には沢山の温泉宿が犇めいているらしく、ユーリカさんが手配してくれたこの【白粧湯しらさゆの宿】も乳白色の濁った湯が特徴の、大変有名な温泉旅館だということです。

 ですが温泉を楽しむのはもう少し後にしようと思います。

 旅館のスタッフさんに訊ね、訓練してもいい庭へと僕は踊り出ました。そしてシステムメニューから自分の能力値ステータスを確認し――うわ、何と言うことでしょう……


 河伏馬カトブレパス戦で初めて僕は《スキル》を使ったのですが、それまで全く使ったことがありませんでしたし、これからもきっと使うことは無いんだろうな、と考えていましたからすっかり確認漏れしていたようです。


 僕、《戦型:月華》で使えるスキルは《初太刀・月》と《二の太刀・上弦/下弦》だけだと思っていたんですけど……《三の太刀・望月/朔月》まであったんですね。

 スキルの文字列の横に『new!』ってマークが付いていないので、これはレベル25で修得したものじゃなく、それ以前に修得していたスキルだってことです。


 正直、自分の能力値ステータスを確認するという作業を完全にすっぽかしていました。こうやって自発的に見たのはレベル10の時以来でしょうか。はぁ、ダメダメですね。

 よし、今後はちゃんと、こまめに確認するとしましょう。


「さて……」


 完全に日が暮れ落ちて、虫の声さえ聞こえてくる宵の庭。僕以外に誰一人としていないこの場所に僕が訪れたのは――河伏馬カトブレパス戦でスキルを使った感触を覚えているうちに、その練習をするためです。


 幸いなことに、このゲームは頭で強く念じることでスキルを発動させることが出来ます。しかしそれも練習を重ねなければ、いざと言う時に使いたい・使うべきタイミングと実際に発動するタイミングにズレが生じ、組み立てた攻撃が崩れ隙が生まれます。


 身体の動きと発動タイミング、その組み合わせを幾つも試して、無駄なく効率的な連続攻撃を組み上げる必要があります。

 それにスキルをブラフ、所謂“虚”として使うことも出来ます。何も、《戦型:月華》の構えから《月》を放たなくてもいいんですから。


 それに《望月/朔月》がどういうスキルなのか、試してみないことには実戦に投入できません。もっとスキルを上手く操れていれば、河伏馬カトブレパスのような遥かな格上にも、もっともっと上手く立ち回れたのです。


 セヴンを、安心させたままでいられたのです。


「すぅ――」


 さぁ、行きましょう。今夜は納得いくまで、湯には浸かりません――っ!

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