044;鋼の意思.06(姫七夕)

「おはようございます」

「おはようございます」


 朝が来ました。いつもは就寝と共にログアウトして、色々と作業をしてから現実リアルで眠り、朝起きれずに昼近くになってログイン、ということが多かったですが、今日ばかりはすっきりしゃっきり起きることが出来ました。色々と考えすぎて眠りこけたのが逆に功を奏したんでしょうか?


 そしてぼくたちはギルドで朝食を摂り、準備を整えて【雷乙徒餓奔頭】へと向かいます。

 ユーリカさんはすでに起きていて、お店の掃除をしているところでした。


「おはよう、早いな!」

「おはようございます」

「おはようございます」


 ジュライが率先してユーリカさんの手伝いを始め、ぼくは断りを入れて【フロスベルリ】へと向かいました。

 目の下に隈を拵えた店主のハルベニさんが出迎え、書き殴りにも関わらず丁寧で綺麗な字のメモを渡されます。

 メモは、集めるべき素材と、そして入手できるモンスターの名前が書いてありました。結構多いんですね……


「生息地域や注意事項なんかはギルドで訊いてちょうだい。私は違う作業もあるから、素材が集め終わったら持って来て」

「はい、ありがとうございます!」


 それからぼくもお掃除に参加し、ピカピカになったお店の奥の工房で、ぼくたち三人はテーブルに向かい合って座ります。


「成程……この素材なら……」


 ユーリカさんがギルツ連邦の大きな地図を広げて、そこにペンで色々と書き込んでいきます。


「ツェンリアからウルバス湖へと、アシタ山を経由していく経路ルートを取ろう。それで大体は揃う筈。素材の幾つかは購入できるものもあるし」


 ユーリカさんは道案内ナビゲーターも兼ねてついてきてくれますから、迷うことはありません。とても心強いです。


「さて、じゃあ行くか!」

「はいっ」

「お願いしますっ」


 あれやこれやと買い物をし、先に昼食も三人で済ませ、いざ出発です。


「プギッ!」

「ピーッ!」

「キィッ!」


 使い魔ファミリアたちも、ぼくたちの高揚に共感してそれぞれの鳴き声を上げました。

 ユーリカさんの使い魔ファミリアは、“錦路ギンジ”と名付けられたシルバーの毛並みが特徴のメガネザルです! はぁ、使い魔ファミリアは何だってKawaiiですが、この子も例に漏れずKawaiiです!



◆]【アシタ山・開拓の道】

  に移動しました[◆



「さ、この先から本格的に魔物モンスターがうようよ出て来るよ」


 全員、装備状況は完璧です。ユーリカさんを先頭に、ぼくたちは草木の生い茂る山道を進みます。

 ギルツ連邦は火山地帯を擁し、アシタ山もまた活火山です。噴火することは滅多にないと言われていますが、数十年前の噴火で中腹にあった集落は壊滅したそうです。


 そのためか、出てくる魔物モンスターは火属性に強いものが多く、次いで土属性と木属性に耐性を持っていました。

 四つ足の獣タイプが多く、鳥タイプや爬虫類タイプもおり、レベル30未満半人前だけで来れる地域エリアでも結構驚異的だと思いました。



◆]【アシタ山・黎明の道】

  に移動しました[◆



「ふっ!」


 大型犬とほぼ同じ大きさの爬虫類種“邪眼蜥蜴バジリスク”を、ジュライが正面から突き刺しました。鋭い切っ先を眉間に徹された邪眼蜥蜴バジリスクは凶悪なスキル《石化の邪眼》を使うまでもなく絶命し、頭部から軍刀を引き抜いたジュライは、茂みから新たに出現した邪眼蜥蜴バジリスクを睨みつけます。


 《石化の邪眼》


 スキル名が浮上ポップアップしました! 邪眼蜥蜴バジリスクの瞳が紫色の光を放ち――しかしその輝きが最高潮に達する前に、突出したユーリカさんが真横から金槌ハンマーを叩き込みます!


 衝撃で怯んだ邪眼蜥蜴バジリスク、それをジュライが斬りつけ、本日もう何回目か分からない戦闘はこれまで同様に呆気なく終わりました。



◆]【アシタ山・焼け野が原】

  に移動しました[◆



 新たな地域エリアは遂にレベル30未満半人前だけのパーティでは足を踏み入れることの出来ない新エリア――ぼくたちは一時的にユーリカさんをリーダーとしたパーティを組んでいますから大丈夫――です。

 かつて噴火した溶岩が大地を焼き、そのために一面が冷え固まった溶岩で覆われた草木の生えない荒野の風景が広がっています。ところどころ表面のつるりとした箇所がありますから、周囲の警戒に足元の注意が加わります。


「……来たよ」


 ユーリカさんが顎で前を指しました。人間よりも一回りほど大きい、錬金生物種ホムンクルス――“溶岩巨人ラーヴァゴーレム”です。ごつごつとした岩肌を肌として持ち、いまいち要領を得ない原理で動く、体内に滾るマグマの流れる凶悪な魔物モンスターです。レベルも33と、現時点で23と22のぼくたちよりそこそこ格上です。


 それが――三体。これは好機チャンスです、決して窮地ピンチなどではありません。何故なら、この溶岩巨人ラーヴァゴーレムから獲れる〈魔力を帯びた溶岩〉という素材こそ、ジュライの固有兵装ユニークウェポンの製作に必要なひとつなのです。

 三体いれば、失敗したとしても十分な量の〈魔力を帯びた溶岩〉が獲れると思います。


「ゴオオオオオ!」


 ぼくたちを認識するや否や、どこから出しているのか分からない不気味な低音を轟かせ、溶岩巨人ラーヴァゴーレムはズシンズシンと向かって来ます!


「はっ!」


 ギィン、と甲高い音を立ててジュライの放った剣閃が硬い岩肌に衝突しました! しかし、溶岩巨人ラーヴァゴーレムの強固な外皮に斬撃や刺突は部が悪い選択です。

 有効な手段は打撃。しかしジュライの武器に必要な素材を持つ相手ですから、ユーリカさんもここでは手どころか口を出しません。


 ですから、ここはぼくの出番なのです。


「――四方、水に満ち 泥に充ち

   跳ねて撥ねて刎ね給え

   連綿たる歴々の 零落をこそ

   罪として 罰を齎せ――

 ――《大渦の顎メルシュトレェム》――!」


 詠唱が最終節に入ったと同時にジュライは跳び退きました。そして三体の溶岩巨人ラーヴァゴーレムを巻き込んでうねり上げる大渦が、周囲の地形ごとその強固な体を削っていきます!


 溶岩巨人ラーヴァゴーレムの弱点属性は水ですが、元素エレメントパワーにより威力は若干削がれてしまいます。

 ぼくは王冠ステマのアニマを有していますから、《原型解放レネゲイドフォーム》の追加能力オプション元素エレメントパワーによる減衰を半減することが出来ます。

 しかし、こんな序盤で使っていては、のです。


「ゴ……」

「ゴゴ……」

「ごめんなさいジュライ、二体取りこぼしました!」


 弱弱しくも立ち上がる二体が、頭部に宿す燃え上がる双眸でぼくを睨みつけます。


「いいえ、セヴン。後は任せて下さい」


 不利な筈の武器で、しかしジュライは果敢に立ち向かいます。攻撃よりも回避に比重を置いた立ち回り・運足が、やがて溶岩巨人ラーヴァゴーレムの混乱を誘い、そして一体の振るった拳が跳び退いたジュライの影を擦り抜けてもう一体の肩を


「ゴァ……」


 身体の隅々から立ち上っていた蒸気は消え、ボロボロと崩れた溶岩巨人ラーヴァゴーレムが地面に

 そこから先の一対一は根性比べでした。脚部を狙い何度も同じ個所を斬りつけるジュライの猛攻に遂に耐えきれなくなった溶岩巨人ラーヴァゴーレムの膝が瓦解し、地面に倒れた衝撃でその身が割れ、砕け散りました。


「……随分と時間がかかったじゃないか。これじゃあ合格点はあげられないねぇ」

「いつかちゃんと、満点を取って見せますよ」


 ぐっしょりと汗を掻いたジュライの黒髪はびたりと額に張り付いており、しかし手応えを感じた様子の笑みをユーリカさんへと向けます。

 ユーリカさんも不敵に笑むと、拳を差し出します。ジュライは一瞬きょとんとしましたが、すぐに察して、同じく握った拳を出し、こつんと合わせました。


 何でしょう、あれ、とても好師かっこいい


 ユーリカさんってかっこいいんですよね。身長もぼくたちより高いですし、スタイルもいいですし。男装とかすごく似合いそうです。いつか一緒にコスプレとかしてくれませんかねぇ?

 あ、ジュライも一緒にやればとってもいい写真とか撮れそうです!

 いっそこの素材収集クエストが終わったらフレンド交換して、ログアウトしてから三人で



◆]警告。

  現実に悪影響を及ぼす行動意思あり[◆

◆]プレイヤーロストの恐れがあります[◆


◆]プレイヤーの思考領域から

     特定の行動意思を抹消します[◆


◆]……コマンド承認[◆

◆]……コマンド実行完了[◆


◆]プレイヤーの思考領域から

     特定の行動意思の抹消を確認[◆


◆]ゲームを続行します[◆

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