040;鋼の意思.02(姫七夕)
ずぅーん、と心が落ち込んでいるのが分かりました。
何と、ジュライの顔を曇らせていたのはぼくの露出の多めな服装だったのです!
ジュライ――ナツキ君は肌を多く見せる女性の服装や格好を好まないことを知らず、ぼくは……わぁーっ! 恥ずかしい! 恥ずかしいですっ!
「セヴン、大丈夫ですか?」
お、落ち着いてきたと思ったのに、話しかけられたことでほっぺの熱が再燃します!
ぎぎぎと振り向くことも出来ず、ぼくはどうにか大丈夫だと首肯しましたが、横目に映るジュライの顔はおろおろとしています。うう、自分が恨めしいっ!
「……ジュライ、ごめんなさい」
「はい、……いえ」
立ち止まり、二歩だけ先を進んだジュライが振り返り、首を振りました。何て爽やかな笑顔なんでしょうか。きっと他の人には無表情にしか見えない、ぼくにしか分からない・気付けない笑顔です。
「折角、正直に言ってくれたのに」
そうです。その通りなんです。ナツキ君は、ぼくの言葉に従って、本当は言いたくなかったのに言ってくれたのに、それなのにぼくは……
「セヴン」
「はい」
「僕の配慮が足りなかったんだと思います。もっと
「ち、違います! ぼくの方こそ配慮が足りなくて……しかも、ジュライは伝えてくれたのに、ぼくは逃げちゃいました」
「なので、次からは逃げられないような言い方を」
「違います、そういうことじゃなくて、そもそも悩ませてるのがぼくで」
「いや、悩んだというか、気にしていたのは僕ですし」
「気にさせていたのがぼくってことなので」
見事な堂々巡りです。こんな馬鹿馬鹿しい言い争いがあるんでしょうか?
段々ぼくたちもその事実に気付き始めて、真面目な顔で困ったように見つめ合った後で、お互いに吹き出してしまいました。
「セヴン、僕たちきっと、お互いに気を使いすぎてるんでしょうね」
「そうですね……しかも、多分本来は要らない気遣いで、本当に気を使わなきゃいけないところに気が回ってないですね」
「困りましたね」
「はい、困りました」
何だか、自然と身体がもじもじしてしまいます。さっきとは違う熱がほんわりとほっぺに集まってきます。
「ジュライ」
「はい、何でしょう、セヴン」
「……ぼくたちはパーティです」
「そうです、僕たちはパーティです」
「まだパーティ名も無い、半人前同士のぼくたちですが……」
「……はい」
「……ちょっとずつ、成長していきましょうね」
「……はい。ちょっとずつ歩み寄っていきましょう」
そしてジュライが右手をそっと差し出しました。何と
ぼくとジュライの身長は殆ど一緒です。顔の大きさ、手足の長さも殆ど一緒です。それなのに、差し出された掌は大きく、骨ばった形は男の子の手だと再認識します。
その手に、ぼくはぼくの右手を重ねました。
「はい。よろしくお願いします」
「こちらこそ。よろしくお願いします」
「あのー、そこのお二人さん? 話もう終わった?」
「「!?」」
咄嗟にバッと飛び退いたぼくたちは声のした方を振り向きました。
ほぼあばら家と言っても同然の掘っ立て小屋の入口の前に、実にイラついた顔をした女性が腕を組んで立っています。
金色の地に、濃い赤と鮮やかなピンク色の混じる長い髪を後ろに纏め、前髪は個性的なポンパドールです。
佇む姿に相応しいクールビューティーなお顔は険しく、先端部分しか無い短い眉がぐいと寄り合ってそして釣り上がっています。
身に纏う何処となく
あ、地面に唾を吐き捨てました! 何とお行儀の悪い方なのでしょうか……
「人の店の前で乳繰りやがってよぉ……別にいちゃつくのは構わねぇけどよぉ、商売の邪魔になってっから場所を移りやがれ」
「あ、す、すみません……」
確かに、小屋の入口の真上には板に墨で書きなぐられた文字が見えます。が、読めません。何となく漢字っぽい形に見えるんですが……達筆なのか下手なのか、ぼくには判断がつきません。
「それはすみませんでした。ちなみに、何のお店なんですか?」
ジュライが切り込みました。ナツキ君は結構恐れ知らずで、昔から初対面の人や初めての状況でも全然臆さずに突っ込んでいくことが多かったと記憶しています。頼もしいことは頼もしいのですが、自ら迷惑に首を突っ込んでいくことも確か、あったような……
「はぁ? 上の看板見えねぇのか? 目でも腐ってんじゃねぇか? あぁん?」
うわぁ、とてもガラが悪いオーラ全開です。しかしナツキ君――ジュライは全然引きません。逆に更にぐいぐいと詰め寄っていくのです。
「えっと……すみません、何語ですか?」
「はぁ? アンタらもPCだろ? ったく、
「所属は僕たちはどちらもダーラカです」
「偉い遠くから来たなぁ、また。――じゃなくて、中身の話!」
「中身?」
「ジュライ、プレイヤーのことですよ」
「ああ、そういうことですか。僕は日本で、彼女は台湾です」
「何だよ何だよ国際異性交遊か? はー羨ましい。ってか日本と台湾なら漢字くらい読めんだろうが!」
あ、やっぱり漢字だったんですね。
「いえ、それが全くさっぱり読めないんですよね。おそらく達筆過ぎてだと思うんですけど」
「達筆ぅ? え、え、え、何が何が何が達筆? もっかい言って?」
ちょっとだけ表情が綻びました。あれ、意外と、分かりやすい方ですか?
「看板に書かれた文字が達筆過ぎます、と申し上げました」
ジュライのその言葉を聞いたガラの悪い女性は、ぷるぷると震える唇を真一文字に結びながら短い眉をぴくぴくと蠢かせています。……どんな表情なんでしょうか?
「……こ、……これはな、」
「これは?」
「うちの屋号で……【
ババーン、と効果音が聞こえてきそうな勢いで、ガラ悪女性はえっへんとポーズを取りました。
隣を見るとジュライは小首を傾げています。ええ、ぼくも同じ気持ちです。言われたとて、あれはとても読めません。いえ、読めたとしても、読めるわけがありません。
「えっと、もう一度いいですか?」
「はぁ? ……だぁかぁらぁ、【
「えっ? ごめんなさい、ちょっとよく、聞き取れなくて」
「【
「……何語ですか?」
「しつけぇぇぇえええええ!」
ああ、ついにブチ切れてしまいました。怒髪が天を衝きそうです。
ですが流石にぼくも三回も聞けば、文字の形と音から何の文字が書いてあるかを類推することが出来ますから、隣にいるきょとんとしているジュライに耳打ちしてあげました。
「ああ、成程――当て字、ですか」
ちなみにこの発言がさらにこのガラ悪女性を怒らせてしまったことについては、これ以上言及しないでおくことにします。
「昔ね、暴走族なんてものをやってたのさ」
掘っ立て小屋の中に入り、ぼくたちは陳列された商品を眺めます。特にジュライは目を輝かせて――相変わらず傍目には無表情にしか見えないんですが――時には手に取ったりして入念に見つめていました。
「大人になって普通に社会人になってさ……あの頃の熱く滾る気持ちが燻ってんのがどうにも堪らなくて……それで、手っ取り早く喧嘩したくてヴァーサスリアルに手ぇ出したのさ。でも、気がついたらこの子たちを創ることに夢中になってた」
彼女――ここ【
ジュライもまた、壁に飾られたひと振りの剣の鞘を手に取ると、すらりとその剣を抜き、研ぎ澄まされた真っ新な刃を見ては目をとろりとさせています。
「セヴン」
「はい」
何となく、次に彼が言うことは予測できました。
ぼくたちは本来、このツェンリアの目抜き通りに店を構える大きめの武器屋さんで鍛冶師を紹介してもらおうとしていましたが、どうやらその作業は必要なくなってしまったみたいです。
「僕たちの
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