036;邪教徒の企み.08(シーン・クロード)
目を瞑り、意識を深く自分の奥底へと潜らせる――派手な水飛沫を上げて潜行する俺は、やがて水底で佇むもう一人の俺と邂逅した。
手を伸ばし、その手にもう一人の俺の手が伸びる。
がしりと掴んだその身を、引き上げるようにして――
――《
◆]
やっぱりそうだ――俺、アリデッドの持つ
《
正直、そんな状態になった
しかしぼやいていても始まらない。後は、この縄をどうするか、だが――
「
「はいぃっ!?」
頼むから恋心に火を点けるとか、そういう勘違いしないでくれよっ! っていうか、通じてくれ!
「……おっけぃ、任しときぃ!」
通じたか!?
「はん、毒は消えたみたいだが、させねぇよ!?」
再び
「
割られた障壁を擦り抜けて、巨大な火の玉が飛来しては俺に着弾する。その直前に立ち上がった俺はどうにか背中を向け、後ろ手を縛る縄を焼き切ろうと――駄目だっ、火の玉がデカすぎる! 熱ぃっ! 熱ぃっ!
「《
本来はこうした火属性の魔術から身を守る防御魔術を、火の玉を撃ち込まれてから使う馬鹿は他にいただろうか――しかしおかげで、縄は自力で切れるほどに焼け焦げ、
「Fxxk...スーマンは任せた。俺はこっちのブツブツ煩いやつをやる」
「はぃ♡」
ぞわり。取り敢えず背筋に伝う悪寒は無視しよう。
問題はぶっちゃけ他にもある。鎧はそのままだが武器を取り上げられていること。今の俺は素手状態だ。部屋を見渡しても〈パルチザン〉は見当たらない。
しかし予備の装備を取り出している余裕も無い。キグナスが姿を現し、万が一にでも攻撃を受けたとする。すると使い魔との契約により、そのダメージは全て所有者である俺が肩代わりしなければならないのだ。
だから範囲攻撃とかはこれに気を付けていないといけない。本来使い魔ってのは、戦闘では離れた場所で見守るようにするものなのだ。
あー、素手でもスキルって発動したんだっけか?
確か、《スティングファング》は行けた筈だ。スラスト系二種も、《ダブルジャンプ》も。槍が無いと無理なのは《スピアヴォールト》と《クロスグレイヴ》か。ならまぁ、大丈夫だろう。
そしてもう一つの問題は――この部屋は飛び上がって立体的な機動で駆け回れるほど、そこまで高くない、ってことだ。
低いわけでは無いが、何も考えずに《ヴァーティカルスラスト》とか上に使おうもんなら自滅しかねん。
さぁ、相手はしかもレベル41の格上。この状況でのレベル10差は詰められるか? どうなんだろうな?
「いい加減こっちを振り向けよ!」
トランス状態に陥っているのか、戦況に関係なく一心不乱に呪文を詠唱し続けるレベル41の邪教徒――身に纏っている
「《
心と口とで思い切り叫びながら右拳を振り被った。俺の身体は前方へと急加速し、土埃を舞い上げる速度で肉薄した俺の右拳が、小気味いい
「が――っ!」
深く突き抜けた衝撃で前方の祭壇へと倒れ込んだ邪教徒。ガシャンドガンバラリンとけたたましい音を響かせて燭台やら皿やら髑髏やらが地面に落ちる。皿は割れ、髑髏は欠けた。
倒れ込んだ邪教徒は口の端に血を滲ませながらよろよろと、天然の隆起した岩卓でできた祭壇を支えに立ち上がる。ぎろりと睨みつける顔が、しかし突如恐怖を目の当たりにした表情となった。
ヤバい――咄嗟に使用したのは《ラテラルスラスト》。体勢の整わぬまま大きく横っ飛びに吹っ飛んだ俺はバランスを崩して着地し損ね、ズザァと滑らかな岩肌に倒れ込んだ。
倒れ伏しながら、そしてその光景を目にした。
俺が寝転がっていた直径2メートル強の魔術円――赤黒い液体で記された線や記号、模様が激しく明滅し、中心から縁まで闇が広がっている。
そしてその闇から飛び出て来た巨大な暗褐色の腕が、伸びては俺の残像を擦り抜けて邪教徒の身体を鷲掴んだ!
「なっ、ああーっ!」
ごぎり、と盛大に音を立て、拉げる邪教徒の身体。見るも無残なその様子に、別所で交戦を展開していた
「な、何だありゃ……」
いや、お前が陣頭指揮取って呼び出したんだろうが。
跳ぶように立ち上がった俺は、右肩で姿を隠して続けているキグナスに予備の槍を寄越すよう指示した。べろりと舌が伸びて俺の手に〈樫の槍〉が現れる――〈パルチザン〉を購入するまでのつなぎだったその槍は、魔力を僅かに増強してはくれるが攻撃力という点ではやや頼りないか。
「スーマン、あれの
「はぁ? 馬鹿言うなよ、オレは星霊魔術はからっきしだ!」
「じゃあ
「あかんわ、うちも《
「だろうな――ちっ、仕方ない……」
どぷん、と泥の中に潜るようにして握り潰した遺体ごと闇に消えた腕。しかしそれは再びぐわりと現れると、獲物を探しているのか長太い指をワキワキとしながら周囲を探っている素振りを見せる。……もしかして、見えていないのか?
「くそがっ、お前らのせいで儀式は失敗だ!」
「おかげさまで、と言って欲しいな。どの道あんなのが完全に喚び出されたらお前だって喰われてたかも知れないぞ」
「はっ、それは在り得無ぇ――オレは邪教の主だぞ? オレが召喚した奴が俺を喰うわけ無いだろ!」
「実際に召喚した張本人は喰われたじゃないか」
「だからっ! 失敗したからだっつってんだろ!」
ボサボサの髪を振り乱して昂るスーマン。しかし儀式が失敗したことで、自分もあの腕の標的になってしまったことは理解しているようだ。
「スーマン。一時休戦と行かないか?」
「はぁ?」
「あれは野放しには出来ん。儀式が失敗して今のところ腕だけしか出して来れない今が、叩くチャンスだ。
「喜んで♡」
ぞわっ。
「くっ……仕方無ぇ……まぁ倒したら、経験値がっぽり入りそうだしな」
「倒せたらな」
こちらを探し切れていない腕に向かい、俺は心の中で管理者権限の申請を強く願った。
◆]Confirmed for application to use of Authority.[◆
◆]The application has been approved.[◆
◆]Now runing.[◆
俺にしか知覚し得ないシステムアナウンスが矢継ぎ早に流れ、そして俺の眼前に敵の
◆]
《
《
《
《
《
《
《
《
《
ちっ、やっぱ全然格上か……レベル10差をさっきは不意打ちでどうにか叩けたが、30オーバーってのはどうなんだろうな……しかし[
ただ、とは言っても相手は
対するこっちの戦力はレベル31が二人と、バグってる16が一人。
まぁ――やってやれない程じゃない。
「行くぞっ!」
「はい♡」
「お前が仕切んな!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます