020;遺跡の奥に眠る夢.07(姫七夕)
《
その能力上昇値は何と『魔力+22』! しかも《水属性特攻5%》がつくのです!
『属性特攻』というのは、攻撃魔術であれば単純に威力が、支援魔術であれば持続時間が、妨害魔術であればかかりやすさが上昇するもので、ぼくは暗記している魔術の中に水属性のものが2つほどありますから、このペンを装備しているだけでかなり強くなれるのです!
10年前に色々とやり込んだ結果、最初期から入手できる武器でこの〈
そんなほくほく顔のぼくを見たのか、並び歩くジュライの顔もご機嫌のようです。
ぼくも5年ぶりに彼と再会していますが、一見無感情に見えるその表情にも様々な感情の機微が仄かに見え隠れしていることをすでに思い出しています。
あの頃、段々とそれに気が付いていきながらぼくは、淡い想いが膨れ上がっていることを体育祭の日に気付かされたんでしたっけ。
懐かしいなぁ……
そして右手の法則に従って、未踏破エリアをぼくたちは踏破していきます。都度都度ぼくが〈製図用紙〉に地形を書き起こし、おそらく八割程度は埋まったかと思えたその時。
両開きの鉄扉をこじ開け、伽藍とした広い部屋に出ました。
〈
ここは……何でしょうか?
「……汲み上げた水を……どうにかする場所?」
「ですかね……?」
ぼくたちが出たのは、その部屋の中二階と言いますか、吹き抜けになっている深い部屋の壁に張り巡らされたギャラリー部分でした。いくつかの箇所に階下へと降りるための梯子が設けられています。
水の
「――っ!」
隣にいたジュライが鞘に手をかけました。チャカリ、という僅かな音が緊張感を高めます。
その視線の先――高い天井の中央に、巨大な繭がありました。それが、小さく拍動を繰り返しているのです。
それは心臓の蠢き、というよりも、呼吸、のように思えました。注意深く観察すると――この行為をゲームでは“
「あれは……何でしょう?」
「……ごめんなさい、ぼくにも……ああいうのは10年前には無かったので、おそらく今回のリメイクで追加された要素になると思います」
そう――あんなもの、ぼくは知りません。漸く登場、新要素です。
しかし10年前は見るもの出遭うもの全てが新登場でしたし、本来そうあるべきです。ぼくがヴァスリを愛しすぎてて10年前に何度も繰り返した要素を覚えているってことがイレギュラーなのです。
「……とても、嫌な雰囲気がします」
「敵……ですかね? でも、襲って来る気配は無さそうですけど……」
まさかのクエストボスでしょうか。その場合、あの繭の中身を倒さなければクエストクリアにはなりません。
勿論、未踏破エリアの地形情報を地図に書き起こす、というのが今回のクエストの要点ですから、あれを無視したところで、ここにあれがありますよ、という情報を持ち帰ればOKな気はします。そもそもまだ、危険かどうかすら判断できていないのです。十中八九、
「「――っ!?」」
するとぼくたちを、地響きが強襲しました。
たたらを踏んで地面に膝をついたぼくの隣では、周囲を警戒しながら踏ん張って立つジュライの鋭い表情。
『――
けたたましい
欄干に手をかけながら今だ轟く震動の中、ぼくは階下を見てはっとしました。
排水口から、大量の水が押し寄せて放出されました。ほんのりと濁った、少々嫌な匂いのする水がドドドと部屋を浸していきます。
壁や地面に備わっている排水溝は機能せず、水はどんどん溜まっていきます。そして赤く照り返る水の中に時折固形物が混ざってそれらが堆積していきます。
「あれは……」
チュートリアルの時に見た、亡骸の山のように――かろうじて人型と判るぶよぶよと肥えた紫色の亡骸が、どちゃりと降り積もっていきます。
「うぇ……気持ち悪い」
「見ない方がいいです、セヴン。目を伏せて」
「うう……ごめんなさい」
このゲーム――に限らず、昨今のVRゲーム全般に言えることですが――やたらとリアルなんですよね! モザイクかけていただきたいです!
しかし愚痴を溢している暇が無くなりました。放水がぴたりと止むと同時に、天井の白繭がぱかりと開いたのです!
「な――っ!?」
ジュライが戦慄と驚愕を表情に点しています。流石の鉄面皮も、このような時には判りやすいです。最も、判りづらい時の方がぼくにとっては好ましいのですが。
そんなことよりも――十字に入った大きな亀裂が広がり、白い繭はぱっかりと開きました。
巨大な繭から、とてもとても黒く濁った、粘性のある液体というか汁が、どちゃりと階下の地面に墜落します。
何かゼリー状の柔らかい球体がぷるぷると震えています。そしてそのゼラチン質を思わせる表皮を破って現れたのは――
「SIGYAAAAAAAAAAAAA!」
「何ですか……あれ……」
思わず問い質してしまいたくなる不条理な異形。
形状としては蠍が最も近いでしょうか、しかし人型の上半身が尻尾の先端に生えており、その上半身に腕はありません。
代わりに、脚部は全て長細い人の腕です。鋏はありません。
「……分かりません」
ええ、そう答えるしか無いでしょう。ぼくが分からないのですから、ジュライに分かる筈が無いんです。
『――汚染レベル4を確認。至急、場内の職員は退避してください。至急、場内の職員は退避してください。汚染区域の隔離を行います』
すると鉄壁を隔てた奥の方から、まるで隔壁が降りるような低い金属音がこだましました。いえ、おそらくではなく正に隔壁が降りているのでしょう。
「一先ず……キースさんに連絡しないと……」
ぼくは思い出し、ポケットに忍ばせていた〈
「どうして? 何でですか?」
「セヴン、見てください」
声に、視線を階下へと戻しました。
先程から堆積し続けるぶよぶよの死骸に、蠍の口が開いて長い舌のような器官がびゅるるっと伸びました。
ぐさりと紫色に変色したぶよぶよに突き刺さると、死骸はぶるるっと蠢きます。そして、起き上がったのです。
「……セヴン、知っていたら教えてください」
「……はい、何でしょう」
「僕たちは、あれを倒してこの区域の汚染レベルをどうにかしなければ、帰れないのでしょうか」
「……残酷なことを言いますね。もしもぼくが制作者なら、たぶんそういう流れにします」
きっと隔壁は降り切ったでしょう。ぼくたちはこの部屋から抜け出せても、調査隊の、キースさんの待つ
ですから、アレをどうにかして、汚水を排水し、汚染された状態を中和すれば、隔壁を再び解放できるのだと思います。問題は、アレを倒せるのかどうかですが……
「「っ!?」」
爆発音とともに、ギャラリーの対岸にあった両開きの鉄扉が爆ぜて飛びました。跳ね上がった鉄扉の両方は階下へと落ち、腰丈くらいまで溜まった水を貫いて地面に衝突してはまたもけたたましい響きを齎しました。
もくもくと煙る白さが晴れ、そこから飛び出てきたのは――
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