015;遺跡の奥に眠る魂.02(姫七夕)

◆]【古代遺跡群・入り口】

  に、移動しました[◆



 やって来ました! ダーラカ王国名物、古代遺跡群です!

 ぼくたちは〔想いを繋げて〕のクエストの依頼者であるゴロンドさんに教えられた通り、ゴロンドさんと旧知の仲である遺跡調査員のキースさんのいる簡易拠点テントを目指します。

 簡単な地図はいただいていますので、それを収納しているぼくの使い魔ファミリアのモモに先導させ、ぼくたち二人は乾季のこれでもかと照りつける陽射しを浴びながらのんびりと砂漠の道を進んでいきます。


 入口付近はさすがに観光客も多く、すでに踏破された遺跡群が散在し賑やかな様相を見せています。時折、この遺跡に過剰出現した魔物を討伐するクエストや、踏破した筈の遺跡で発見された隠し通路の先を先遣隊として調査に踏み込むクエストなんかが現れたりしますが、どちらも【黄金の双翼亭】限定クエストです。ぼくたちは今この段階ではそれらを受注することは出来ません。


「暑いですね」

「暑いですよね」


 ジュライは未だ遺跡がチラホラと見える周囲の景色を眺め回しながら、首元をパタパタとはためかせて風を呼び込んでいます。

 彼にとっては初めての冒険ですが、その表情はワクワクとドキドキが混じり合った、正しく少年そのものです。

 仄かにしかし確かに口角の上がったその横顔を見ているぼくは何だか胸の奥がむず痒くなって、もし今部屋に一人きりでいるならきっと「好可愛ハオクーアイ!」と叫び上げていたことでしょう。


「ジュライくん、目的地まではまだあと三十分くらいは歩きますが平気そうですか?」

「結構遠いんですね。でも大丈夫です、心配ありがとうございます」


 目を細めるジュライ。その表情はいつもの、本人がにこりと微笑んでいると思い込んでしまっているやつです。


「ただ、ここから先は敵も出て来る可能性がありますから、気をつけて行きましょう」

「分かりました。どんと来い、ですね」

「そうですね、どんと来い、です」


 遺跡の外で遭遇エンカウントする敵はまだ低レベルですからひと安心です。本来はぼくらのレベル帯でこの場所に来るのはあまり良くないですが、ジュライの剣技はレベルという概念をきっと超越した、所謂ってやつです。


 そして実はぼくも、彼に負けないを持っています。運動はとりわけ得意というわけでもありませんが――お胸も邪魔ですし――ぼくのは、どちらかと言わなくても使に入ります。だから自分のレベルよりも多少高いくらいでは負ける気はしません。


 そうして三十分ほど只管ひたすらに歩き続けると、大きな天幕が見えて来ました。調査隊の拠点テントです!


「おお、ゴロンドの言ってた冒険者か!」


 入り口で登録証を見せて招き入れられたぼくたちは、雑然と資料や文献の散らばったテーブルに腰掛けるよう促されました。

 この、対面に座る肩幅の広い健康そうなおじさんこそ、今回のクエストの依頼人で、名前をキース・デズモンドさんと言います。


「パーティーと聞いていたが二人ぽっちか? それにレベルも足りていないみたいだが……」

「それについては大丈夫です。レベルでは測れない強さをぼくたちは持っていますから」


 にっこりとぼくが告げても、キースさんの怪訝そうな顔は収まりません。


「……件の遺跡はここから一時間ほど移動した先にある。中間地点はちょうどシルシン遺跡、“サンドゴブリン”たちが巣食っていやがる」


 サンドゴブリン――砂漠に適応した妖魔種族で、過酷な環境で生き抜くために連携力と罠を張る狡猾な知恵を備えたゴブリンです。ゴブリンという名前だけで侮ってはいけません。


「苦戦するようなら見捨てて帰る。調査は次の冒険者に期待だ。それでもいいなら雇ってみるが……報酬は十割後払いにさせてもらう。いいか?」


 条件が悪化しました。しかし向こうとしても、推奨レベルに大きく劣るぼくたちを雇うリスクがあります。

 ぼくたちが生きようが死のうが、それはぼくたちが冒険者である時点でどうでもいいお話です。ですが、前金を渡した瞬間にトンズラ、というのはこの業界にはよくある話のようで、警戒するに越したことはありません。

 無論、ぼくたちには実績もまだ無いですし。


「わかりました、大丈夫です」


 にこりと笑んで答えました。するとキースさんは鋭くぼくを覗き込んでいた目をやわらかく瞬かせて、にっかりと口角を上げます。


「じゃあ早速出発するか!」


 告げて立ち上がったキースさんに続き、隊員の方たちがひとつ肯定の合唱を見せると、慌ただしく荷物をまとめ始めました。

 キースさんも鞣革なめしがわのマントを羽織り、首元の紐をしっかりと結んでいます。


 ぼくもモモに荷物を出してもらい、旅装から冒険者の格好へと移行します。

 やはり必要なものは身に付けておいた方が、いざという時に早く取り出せるのです。モモに命じて取り出すと、どうしてもお尻ふりふりの分だけ遅くなってしまうのです。


 そうしてぼくは、魔術を行使する際に必要なMPマナポイントを回復させる〈マジックポーション〉を三つ吊り下げたベルトを装着し、肩から〈ブックホルダー〉を下げました。

 この〈ブックホルダー〉というアイテムはぼくの《詠唱士チャンター》というアルマで用いる、聖典や経典などの“魔導書”に該当する武器ののようなもの、とでも言えばいいでしょうか。

 ホルダーには現在、初期装備である〈初級詠唱教本〉が収まっています。また、補助装備である〈羽根ペン〉と、魔導書を転写する際に消費する〈転写紙〉も入っているんです。


 ジュライを見てみると、彼は特に平時と変わらない装備で、ですが軍刀を抜き放っては頻りにその握りや捌き具合を確認していました。勿論、初期装備である〈八式軍刀〉のままですし、〈剣士の外套サーコート〉もそのままです。


「さて、俺たちは準備出来たが……お嬢ちゃんたち、本当に戦えるんだろうな?」


 鋭く訝しむ眼差しとともに厳しい言葉が放たれました。

 いくらゴロンドさんとの縁があるとは言え、紹介とは言え、やはり推奨レベルに達していないことが不信に繋がっています。


「ご心配なのは最もです」


 しかしジュライが前にずずいっと出ました。

 いつもの無表情を決め込む彼ですが、ほんのりと怒気を含んだような語調が引っかかります。


「ですので、よく、ご覧いただきたいと思います。僕たちが戦えるのかそうでないのか。言葉では幾らでもどうとでも言えますから」


 そして、目を細める――ジュライはいい加減、それはにっこりとした笑顔ではなくただの煽り顔だと認識した方が良さそうです。


「ふぅん……なら、楽しみにしてるぜ?」


 壮年の調査隊長は不敵に笑み、そして遺跡までの地図を差し出しました。

 ぼくはそれを受け取り、モモに吸わせます。


 さぁ、冒険の始まりです!



◆]パーティークエスト

  〔遺跡の奥に眠る魂〕

  を、正式に受託しました[◆

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