011;想いを繋げて.01(姫七夕)
キャラクターメイキングの終わったぼくは、早速クエストを受注します。冒険者は言わば何でも屋、このクエストをこなしていきランクを上げ、そうやって生計を立てながら出来ることを増やしていくのが基本です。
さぁ、クエストボードには三枚の羊皮紙が留められています。
「……ごめんな、セヴンちゃん。うちには今、こう……やる気が迸るっつーか、こう、ぐわぁっと盛り上がるっつーか、そういう仕事が無くてさ……」
いえ、問題ありません。だって、知ってて選んでますから。
それに、ギルド加入者が増えたり、ぼくがお仕事を頑張って高評価をもらうことでギルド自体も大きくなっていきます。そういうクエストもありましたし。
だから、今この時点で盛り上がっていないことはさしたる問題にはなりません。
「大丈夫です。……エンツィオさん、このクエスト、いいですか?」
指差して選んだのは〔想いを繋げて〕というクエストです。
ギルドのあるここ【ヴァンテスカの街】から、列車に乗って三駅離れた【アレバマスタの街】に手紙を届けるという内容です。
手紙を届けるだけなら郵便配達で済むのですが、如何せんこの世界、ぼくたちの住む現実に比べまだまだ郵便配達技術がおざなりなんです。
また住民票制度もマチマチで、住所表記も地域ごとにバラバラ――発展途上、といった感じです。確か大陸四大国でこの辺りを正確にきっちりとやっているのは、【アルマキナ帝国】と【ルミナス皇国】の二つだったでしょうか。
また、正確に届いたとしても、国営の郵便配達は十中八九検閲される、という問題もあります。
なので割高になろうとも、民間業者や冒険者に依頼して届けてもらうことを望む方が一定数いらっしゃるのです。
「ほら、これが〈簡易契約書〉だ」
「ありがとうございます」
まずは依頼者のところへ出向いて、正式にクエストを受注しなければいけません。
今回は行って帰るだけの短いお仕事ですから旅装は必要ないのですが、ギルドを介したクエストですので〈簡易契約書〉が必要です。これに依頼者と受注者双方のサインが無いと、クエストの契約が無効となり、依頼者は仕事を放棄されるリスクを、受注者は報酬を反故にされるリスクを負うことになります。
「モモ、これお願い」
「ぷひぃーっ!」
ここで
ぼくが〈簡易契約書〉を差し出すと、モモはその突き出た鼻で匂いをすんすんと嗅ぎ、そして口を開けました。
魔術的なエフェクトとともに〈簡易契約書〉が小さくなってモモの口に吸い込まれていきます。もぐもぐ、ごっくん。
「それでは、行って来ます!」
ぼくは大きく手を振ってエンツィオさんとジーナちゃんに見送られながらギルドを出ました。
さぁ、デビュー戦です。
このクエストは戦闘の無いただ届けるだけのチュートリアルの続きみたいな内容ですし、クリアすることでもらえる経験値や報酬も微々たるものですが、ぼくが目当てにしているサブクエストを解放するために必要なものです。そしてそれを受注できるのは、最大手の【黄金の双翼亭】ではなく【砂海の人魚亭】なのです。
じぐざぐと狭い通りを進み、目抜き通りへと出ました。
露天商さんの活気豊かな声が響き、香ばしい食べ物の匂いが鼻を
「安いよぉー! タイムサービス中!」
「親父! 二つくれ!」
「あいよ、毎度!」
この辺りは屋台が多く犇めいていて、直結している広場にはテーブルと長椅子が並べられています。勿論、そこでお酒を煽りながら名物料理に舌を唸らせている方は沢山います。
「お嬢ちゃん、ひとつどうだい!?」
眺めていると焼けた肌の店主に声をかけられましたが、今はお腹は空いていないのでぼくはにこりと微笑みを返しました。変に言葉で返すと口八丁で丸め込まれて結局は買ってしまうことになるので、会話しないに越したことはありません。
広い通りは人で溢れかえるようです。往来する人々の格好は本当に雑多で、この国が幾つもの少数民族を束ねて作られたものなんだと思い知らされます。
敢えて統一性を廃止して多様性を容認する、この雑多さが【ダーラカ王国】の最大の特徴で、この国においては公序良俗に反しない限りどんなにダサい格好をしていようが馬鹿にされることはありません。
さて、目当てのお家に到着しました。二階建ての白亜のお屋敷。お庭は無いけれど、十分大きなお住まいです。
シンプルなドアノッカーをゴンゴンと叩くと、少しして玄関の扉が開きました。
使用人さんに先導され、ぼくは依頼者である家主のゴロンドさんとお話をします。
キングサイズのベッドに寝そべった、体重が200キログラムはありそうな巨体のお爺ちゃん、それがゴロンドさんです。厚ぼったい瞼は殆ど下がり切っていて、眠っているのか起きているのか一目では判りません。
「よく来てくれたね。早速だが依頼の話をしよう……」
どうやら、アレバマスタの街にいる甥が欲しがっていた有名冒険者さんのサインの書かれた紙を、封筒に入れて届けてほしいとのことです。
目的地であるアレバマスタは列車で三駅移動した先ですが、ゴロンドさんは持病が悪化してご自身では動けず、また郵便配達に依頼すると検閲されて最悪持ち去られる、という事態も考えられたため、こうしてぼくのような冒険者に依頼を出したんだそうです。
また、ゴロンドさん自身も昔少しだけ冒険者稼業をやっていたことがあり、ぼくが所属する【砂海の人魚亭】ギルドマスターのエンツィオさんの、お父様と同期なんだそうです。
だから【黄金の双翼亭】じゃなくて【砂海の人魚亭】に依頼を出したんですね。人情ってやつですね。
一通り話を聞いたぼくは、モモちゃんにお願いして〈簡易契約書〉を取り出しました。
お尻をふりふりした後に、ふんぬっと気張る顔をしたモモのお尻からぷりぷりっと出て来る〈簡易契約書〉、その取り出し方にゴロンドさんは面食らっていましたが、ぼくは特に気にしていません。
ふりふりする動作も、気張る顔も、Kawaiiんですから。
あ、汚くは無いですよ? そもそも
「それでは確かにお預かりしました」
「ああ、よろしく頼むよ……」
「はいっ!」
◆]〔想いを繋げて〕
を、正式に受託しました[◆
預かった封筒をモモにむしゃむしゃしてもらい、ぼくは駅へと向かいました。
車窓から見る景色はすぐに砂漠の無感動な風景に切り替わりましたが、長旅で退屈しないようにと大道芸人さんが客車の通路をジャグリングしながら渡っていきます。
お辞儀と一緒に差し出された帽子に、ぼくは銅貨を1枚チャリンと入れました。白塗りの向こうにある逞しい顔がにかりと笑みました。
列車は15分程で【アレバマスタ駅】に到着します。
ヴァンテスカの街に比べて濃く落ち着いた色合いが多い、しかしながらやはり雑多な彩りの往来を眺めながらぼくはゴロンドさんの甥のお家へと急ぎました。
確か、アレバマスタの街の駅周辺は治安が悪いと覚えています。
「よう、嬢ちゃん」
うっわー、案の定です。
ガラの悪い三人の男が絡んできました。勘弁してほしいです。
「へへ、おっぱい大きいじゃんか。俺たちにも揉ませてくれよ」
うっわー、最っ悪です。
いきなりセクハラ100%です。さっさと消え去ってほしいです。
「あの、急いでますから……」
告げ、脇を通り抜けようとしたら腕を捕まれました! 実力行使です! これは身体権の侵害にあたります!
「いいじゃんかよぉ」
「ちょっとだけだからさぁ」
「あの、仕事中なんですっ」
「お仕事偉いですねぇ! で? いくら?」
「俺たちと遊んでくれたらお駄賃弾んじゃうよぉっ?」
「やめてくださいっ!」
「すみません」
すると、一人の冒険者風な格好をした方が割り込んできました。
冒険者風、というのに定義はありませんが、〈
「何だよてめぇ」
一番その人に近かったガラ悪男が応じました。ドスを利かせた声で、獲物を横取りされそうな肉食獣みたいな獰猛な顔つきです。
「嫌がっています。やめてあげて下さいませんか?」
冒険者の方は無表情にそう言いました。
「はぁ?」
「誰だよてめぇ、あぁん!?」
「誰とか、そういうのは関係ないです。彼女が嫌がっているのですから、あなた方は引き下がるべきだと、そう思うのですが……」
しかし彼も一切引きません。そんな彼のお腹に、暴漢のキックが突き刺さりました!
「ぶっ――」
彼は蹴られた勢いで二歩下がり、三歩目で崩れて尻餅を着きました。痛そうです。
ぼくはぼくの腕を掴み上げている暴漢の恐らくリーダー格の方の様子を盗み見ました。彼と二人の遣り取りに注視をしていますが、しかしやはり腕は簡単に振り払えないように強く握られています。
ぼくも勿論、彼と同じ冒険者です。ここは流石に反撃に転じたいところではありますが、如何せんぼくの《アルマ》はこういった事態と相性が悪すぎます。《
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