純
鼓膜騒音
声
やけに明るい夜だった。
空を見上げると、雲がその光を避けるように動いている。
ふと思い出す。
その日、3匹の小さな蠢きが配布された。
私も例に漏れずそれを貰い、両手ほどの大きさの白い紙箱に入れてもらった。
黒っぽい体をしたそれらは蚕だ。
私の小学校では6年生で蚕を育てるという課題がある。
学校内だけではなく、放課後は家に持ち帰り責任を持って育てるのだ。
家の人が虫が嫌いだった場合迷惑な話だが、私自身は虫は嫌いでは無い、孵化して間もないであろうそれらが可愛く見えた。
初日は、箱の中に餌となる桑の葉が既に入っていた。
しかし、後日からは自ら調達しなければならないのだ。
校内にも桑の木は生えていたが、土日は近所に取りに行かなければならない。
蚕を貰った初めの数日間、私を含め同級生達は、休み時間になると蚕を犬猫の様に可愛がる。
人間以外の生き物が教室に生息しているという空間が面白いのであろう。
だが、当然蚕はただ蠢くだけで、注がれる好奇心には応えてくれない。
しばらく経つと私たちは、新鮮な餌を与えはするものの、変化の無い虫に興味は離れていった。
二週間程経った頃であろうか、徐々に蚕の体は色が黒から白っぽい色に変わってきて、姿も少し変わり体も大分大きくなった。
成長していく蚕に興味を取り戻し、休み時間に一緒に遊ぶ同級生も目にするようになった。
その日私は、休み時間に校庭に出た。
ジャングルジムに蚕を連れて行って一緒に遊んでいる同級生がいた。
あの子の蚕はとても大きい。
そう思い私は遠目で観察していた。
すると、ジャングルジムの一段目にいた蚕が地面に落ちた、何事もなかったように蚕は地を這っている。
蚕に気づいた飼い主の子が、ジャングルジムを降りる。
その時、地面を這っていた蚕をその子が踏んでしまう。
蚕は即死しなかった。
2倍に伸びた体を気にもしていないかのように、さっきまでの通り、地を這っている。
私は気分が少し悪くなり、その休み時間は、観察をやめ鉄棒をした。
休み時間が終わり、校庭に出ていた児童が教室に戻ら始める。
私も教室に戻る。
ふと、観察していた蚕がジャングルジムの下に2倍になった体を横たわらせて放置されているのを目撃した。
もちろん、そこには飼い主の児童の姿は既に無い。
蚕は死んでいる。
私はそれを横目に、時間通りに教室に戻った。
教室に着いた私は、自分の蚕を見る。
いつもと同じように何も語らず、桑の葉を貪っている。
4週間が経とうとする頃、蚕が繭になった。
毎日繭を覗くが、動きがないので、私は徐々に存在を忘れていった。
夏休みに入った。
蚕の入った紙箱の一部が黒くなったことに気づき、中を見た。
蚕は蛾になり死んでいた。
純 鼓膜騒音 @aren1234
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