第14話 私の意志とは?

 終業式後に配られた通知表は保健体育が9、それ以外は軒並み5以下って成績の入力ミスだったりするのかな? 後日家まで学校から郵送されるって先生は言ってたけど、七海の通知表と同封されるなんて慈悲もないことしないよね……?

 昼から夕方まで部活も頑張って、なんとか気持ちを切り替えて七海とお祭りに来たのに、色々と釈然としないことが多過ぎて素直に楽しめない。間違いなく一番の理由は今の服装にある。

「ねえ七海、もう一度聞くけど未來が着てる服はなんなの?」

「さっきも説明しましたよ。大阪の女子高生風ファッションです」

「どこがっ!? この黒い帽子はまだわかるよ、同世代の子がよく被ってるやつだよね? 未來も何個か持ってるし。で、グレーのスポーツサンダルもわかる。未來は持ってないけど皆んな履いてる印象はあるから。問題はここからだよ。この所々破けたダメージショートパンツは何! よく見たら脚の付け根が見えそうだし兎に角エッチ! それに黒のキャミソール。未來が着てるものよりサイズが小さいから谷間がバッチリ晒されてて、超超恥ずかしいんだけど!」

 心を躍らせてお祭り会場に来るや否や、近くの駅中トイレに連れ込まれ、七海が持参したとか言うアイテムを渡された。役職には就いてないものの、ほぼ生徒会メンバーの七海が体裁を守るために私服姿になる必要があんだろうと渋々着替えたけど、七海は制服姿のままだった。

「それくらい家でいつもしてるではありませんか。今更何を躊躇うんです」

 七海は断固とした自信があるかのように厳かだ。

「ショートパンツは履いてるけど、こんなボロボロのは履かないよ! 下着としてキャミソールは着るけど胸は出してないからね!? まず家と外じゃ全然違うからっ」

「まあまあそう怒らずに。私の話を聞いてください」

 そして七海は、四月からのおにぃに関する変化を説明してくれた。

「なるほどね、七海が言うのなら間違ってないよ。作戦自体もよく練られてて最悪だね」

 作戦の内容はこうだった。

 未來扮する大阪人の女子高生がデート中のおにぃに詰め寄って、彼女におにぃはモテモテだと分からせて関係を終わらせるというもの。驚くべきは『大阪人』ってチョイスで、おにぃが小学三年生の頃に大阪に引っ越した特に仲の良かった女の子がいたらしく、もう十年近く経っているから顔も変わっていて間近でもバレないと考えたらしい。

 七海がスマホにアルバムの写真を保存してたようで見せてもらったけど、クラスの集合写真ではいつもその女の子とおにぃは隣同士で、幼いながら恋人のように未來の目には映った。

「でもなんで七海じゃなくて未來なの? どうしても未來である必要性はないよね?」

 変装するなら未來でも七海でも関係ないはず。だって成長して誰だかわからないんだから。

 すると七海は目線を僅かに落として、未來の胸を指さした。

「これです。これが必要なんです」

 未來は意味がわからず「え?」と、訊き返す。

「そのEカップが必要なんですよ。残念ながら私にはCカップのお椀しかありません。一方の未來にはハーフサイズの小玉西瓜があります。悲しい人間の道理で、男性は大きな胸が好みと決まっています。ですから未來でないといけないのです」

「なるほどね……ってなるほどじゃないよ!」

「唐突なノリツッコミですね。最近よく深夜バラエティを観てると思ったら、その弊害ですか」

「そんなことは今関係ないッ! つまり七海はこのエッチな格好で突っ込めって言いたいわけ!? それにどうして未來の胸の大きさ知ってんの!?」

 確かにEカップだけど! クラスの女の子たちから羨ましがられてちょっと鼻が高いけど!

「もちろん洗濯してるからです」

「あーそっか。なら知ってるよね」

 家事を全て担っている七海なら知ってて当然だった。てか七海、Cもあったんだ……。

「安心してください。黄昏時ではありますが、未來だとバレるとまずいのでサングラスをつけて貰います。実の兄に胸を見られるのも抵抗があるでしょうし」

 制服が入ったトートバッグからサングラスを取り出して、ひょいと差し出す七海。

 そうだよ? おにぃに胸を見られることが一番嫌なんだよ?

「これママのサングラス……。ずっと気になってたけど、変装道具一式は誰のなの?」

 未來の私物でも七海の私物でもないなら新しく買ったのだろうか? 

「クラスメイトから借りました。二十人もいれば色々と揃います」

 予想の上を行くやり方だった。まさか人望をそんなことに利用するとは。

「もうわかった。やるよ。おにぃが困ってなら助けてあげたいし、元気無くされても困るからね。ってちょっと七海!? 吐息が胸に当たってくすぐったい!」

 七海がギュッと抱きついてきた。痛い痛い! キツく締めつけ過ぎだから!

「ここで待機していればおにぃたちが来るんだよね?」

 七海は未來の胸に顔を埋めながらこもった声で答える。

「はい。ここは一番露店が多い通りの入り口ですので、待っていれば直に現れるでしょう。電信柱の影に隠れて待っていましょう」

 素晴らしい策士だ我が姉よ。作戦通り従うけど、今度美味しいもの奢ってもらうからね。

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