第二章 ソースより濃い夏の祭り

第13話 妹の陰謀

 蝉が鳴き始め、うちの庭でも朝から晩まで虫たちの喉自慢大会が催されるようになりました。

 期末テスト、球技大会が無事に終了し、新鮮で暑くて長かった一学期が今日で幕を閉じます。

 明日からは一応三週間の夏休みが代わって幕を開けますが、引き続き生徒会のお手伝いがありそうなので、週に三回程度陽にあたり汗を流すことになりそうです。

「ごめんね七海ななみ! 毎朝朝食係頼んじゃって」

「大丈夫です。もう日課ですから。お母さんはお仕事を頑張ってください」

 グレーのスーツに身を包み、数分で仕上げた化粧でダイニングテーブルに着くのはお母さんです。家事が苦手なお母さんに代わって、私は中二の冬から平日は毎日朝食を用意しています。

 テレビ右上の時刻が七時三十分を示し、天気予報が始まる普段なら朝食を取り終わる頃合いなのに、まだお兄さんはコーンスープをすすっておられる様子です。

 どうしたんでしょう? トースト二枚にコーンスープ、目玉焼きと焼きウインナー。いつもと同じメニューなのに、平均完食時間を二分も超過しています。いつもとの違いを挙げるのであれば、ジャムをお兄さんの好物であるマーマレードにしたことくらいでしょうか。

 ならば、むしろ完食時間が早くなるべきだと考える方が自然のはずです。

 考える前に直接理由を訊いてみても良いのですが、どの道はぐらかされてしまうでしょう。でも疑念を確信に変えるためにも、訊いて損はないはずです。誤解ならそれでいいのですから。

「お兄さんは天神てんじんさんのお祭りには行かれるんですか?」

「まあな。だから帰りは少し遅くなる」

 と言うことは、椿つばき先輩や胡跳こはねさんとご一緒されるのでしょうか。

 以前、確か高校に入学したばかりの五月頃です。未來みくとイオンで偶然お二人とお会いした機会があったのですが、お二方ともとっても好青年と純粋少女という印象を受けました。

 未來と椿先輩は一中の先輩後輩ということもあり、とても親しげな様子で会話をしておられて、私と胡跳さんも含めた四人でLINEを交換したんでした。

 その際椿先輩が私を未來の友人と勘違いして、軽めに口説いてこられたのは驚きましたけど。

「いつもご一緒の椿先輩や胡跳さんとご一緒ですか?」

「いや、別の友人だ。あいつらは部活があって今日の祭りはいけないらしい」

「そうですか……。(まあ知ってはいましたが)」

 勘づかれないよう食器を洗いながら訊いてみましたが、お兄さんはテレビに夢中のようです。

 敢えて私の知らない友人と言うことで、手を出せないようにするおつもりですね。

 ですが私は知っています。お兄さんが去年入試一位を獲得した方と付き合っていることを。

いや、それでは語弊があります。付き合わされていると言うべきでしょうか。

 入学してすぐの遠足の帰り道でお兄さん達のバスが着くのを待って声を掛けた際、お兄さんはあの女性と一緒におられましたね。

 女性の影を一度も感じさせなかったお兄さんのことですからきっと何か裏があると思って調査してみましたが、あの様子では対等な恋愛関係を築いていると認める事は出来ません。常に女性の機嫌を窺うような態度、まず第一に対等な恋愛関係であるならば手を繋いで然るべきです。

 以前その女性とは一対一で話しましたが、高貴で孤高という印象が強い方でした。

 つまり独裁女王と召使い。今日のお祭りも意思とは関係なく同行を強制されているならば、食べ物が喉を通らない事情として頷けます。

 四ヶ月間練って練って温め続けたとっておきのリーサルウェポンを、満を持して解放する時が訪れました。未來には昨晩の内に伝えてありますが、私たちもお祭りに繰り出します。

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