第二章 作戦開始
作戦が始まったらまずやることは自分たちの居る教室を作戦基地にすることだ、前のドアと後ろのドアのそれぞれの所に机を並べて簡易的なバリケードを作る、廊下側の窓はすべて閉め情報が外へ漏れないようにする、これでなにが変わるのかと言われればなにも変わらないがこう言うのは雰囲気が大事なのだ雰囲気が。そんな雰囲気に浸りながら前のドアのバリケードに身を潜めている明が、後ろのドアのバリケードを守っている愛にスマホを使って通信する。
「こちらファイヤー、ファイヤーよりラヴァーへ、そっちは異常ないか?」
「こちら、えっと、こちらラヴァー、異常ありませんファイヤー隊長」
「了解、引き続き警戒を怠るな」
「いえっさー」
愛の隣で二人のやりとりを見ていた光凛はなぜこの距離でわざわざスマホを使うのか、なぜコードネームで呼び合うのか疑問を抱きそうになったが、明に付き合うと言った手前何も考えないことにした、それに真剣な面持ちで廊下の様子をうかがいながら教室を死守せんと意気込んでいる愛を見ているとこれはこれで良いと思えてくる。
「ラヴァーよりファイヤー隊長へ、応答願います」
「こちらファイヤー、なんだ、どうした?」
「質問があります」
「質問?」
「はい、もし敵が攻め込んできたらどうすれば良いですか?」
真剣な面持ちのまま額に汗を浮かべながら聞いた。
「良い質問だ、もし敵が来たらラヴァー君は自分の身を守ることに専念するんだ、君の隣にいるライトが敵をすべて殲滅してくれる」
「さっすがひーちゃ……じゃなかった、ライトは頼りになる」
「ライトはほんと頼りになるぞ、なんたって昔から空手を習っていてケンカは負けなし、どんな屈強な男も勝てずその戦闘力はゴリラ並と言われていて、一部からはキングコングならぬクイーンコングとして恐れられていて、さらに……」
「ライトよりファイヤーへ、あんたが殲滅されたくなかったら今すぐ口を閉じなさい」
「了解、通信を終わる」
身の危険を感じ取ったファイヤー隊長は即座に通信を終わらせた、危機管理能力は隊員をそして何より自分を守る上で必要不可欠なものだ。
暑さでかいた汗と冷や汗を吹いていると廊下から清司の声が耳に届いた。
「今戻った、入れてくれ」
「ブルーか? 合い言葉を言え、上!」
「下!」
「右!」
「左!」
「東(とん)!」
「南(なん)!」
「西(しゃー)!」
「北(ぺー)!」
「「白・發・中!」」
「よし入れ、みんな集合だ偵察に行っていたブルーが戻ったぞ。で、職員室の様子はどうだった?」
汗を流し息を整えながら話し始める。
「夏休みだから先生達はいつもより少ない、そして隊長が言ってた通り今日は部活の顧問をやっている先生達の会議がこの後あるみたいだ、そうなるとほとんど先生達は居なくなる」
「んじゃ、そのときが校長室に突撃するチャンスってわけね」
「ああ、だけどまだ問題は残っている」
「僕らの監督をする、ゆかり先生とゴリヤマだね」
「その二人はどうするのよ?」
由香里はともかく郡山をどうするか……誰が考えてもそこが一番の問題点だ、だがどんな問題にも必ず解決策はある。
「そこは、さっき作戦説明のときに軽く触れたとおり、ゆかちゃんを捕まえれば万事解決だ」
「どうして、ゆかり先生を捕まえれば解決なの? ゴリヤマ先生はどうするの?」
愛が左右に首をかしげながら口にした疑問に、不適な笑みを浮かべながら清司が答える。
「捕まえたゆかり先生を餌にするんだよ」
「そのとおり、ゆかちゃんを捕まえてゴリヤマをおびき出す、その間に校長室へアタックをかける。このやり方だとゆかちゃんを見張っているやつが少し危険になるが、ゴリヤマが釣られて教室まできたらゆかちゃんを解放して逃げちゃえば良い、ゴリヤマが釣られてこの教室まで移動してきて捕まってるゆかちゃんに気を取られている間に、校長室へのアタックは十分間に合うだろ」
「なるほどね、あんたにしてはなかなか冴えてるじゃない」
「でももしゴリヤマ先生がゆかり先生を助けに来なかったらどうするの?」
また首をかしげている愛にもう一度微笑しながら清司が答える。
「それは、問題ないと思うよ」
「ああ、なんたってゴリヤマのやつゆかちゃんにぞっこんだからな」
「あれはわかりやすいわよね、この前も廊下でゴリヤマが説教してるときにたまたまゆかり先生が通りかかったのよ、そしたらゴリヤマのやつ急にしどろもどろになって、デレデレのヘラヘラで面白かったわ」
郡山が由香里にほの字なのは生徒達の噂、というかもはや共通認識となっていた。
「ねえねえ、ぞっこんてなに?」
愛は清司に向かって尋ねた。すっかり彼が答えてくれるものだと思っている。
「ぞっこんていうのは、つまりゴリヤマがゆかり先生に惚れているってことだよ」
惚れているなんて言葉を言うのが少し恥ずかしかったのか、はにかみながら答えた。そんな清司とはうらはらに愛は素直に感心したように。
「へー、そうんなんだ。ぜんぜん気がつかなかった」
「めぐは鈍感だもんね」
「鈍感じゃないよ! 敏感だよ!」
衝撃の発言に他三人の時が一瞬止まった、止まった時から最初に抜け出した光凛があわてて声を出す。
「そ、それはまたちょっと違う気がするけど」
焦ってるような恥ずかしいような複雑な表情をする光凛に対して愛はキョトンとしている、自分の発言の意味に気づいてないのかはたまた意味をわかってた上で周りの反応が不思議なのか。そしてその隣には下品な笑顔を浮かべる男子が一人。
「なら本当に敏感かどうか俺が確かめて……。」
「死にたくなかったらやめなさい」
「はい、すいません」
高校生男子の下品な野望は幼馴染みによって打ち砕かれた。
キーンコーンカーンコーン
「あ、そろそろゆかり先生が来ちゃうよ」
「よっしゃ、みんな配置に付け、手はず通り作戦開始だ!」
「了解!」
明の号令とともに皆一斉に動き出す。光凛は教室の入り口側から見えない側の教卓の横にしゃがみ、愛は教卓の下に入るように隠れる。明と清司は教卓の前の机を少し下げてスペースを作り、明はそこに横たわり、清司は明を介抱するように横につく。
全員緊張感を持ったままその時を待つ、静かに、集中する、何度か汗が頬を流れるとついにその時はやってきた。
ガラガラッ
「はい皆席に着い……ってどうしたの!?」
教室に入った由香里の目に飛び込んできたのは苦しそうにめきながら
床で悶える明の姿だった。
「先生! 明が急にお腹を抱えて倒れて! 明、大丈夫か? ゆかり先生が来たぞ!」
「炎堂君大丈夫? 朝は何食べてきたの?」
「大ラーメン、ヤサイマシマシカラメマシマズラスクナメニンニク……。」
「もう、朝からそんなもの食べるからお腹壊すのよ!」
「はぁ……はぁ……ううっ!」
「明! しっかりしろ!」
「待ってて、今保険の先生呼んでくるから」
「待って、行かないで、ゆかちゃんには側に居てほしいんだ……。」
「わかったわ。」
「ありがとう……これでもう何も思い残すことは無い」
「明! 死ぬな!」
「そうよ、炎堂君しっかりして! あなたの人生こんな終わり方でいいの? ラーメンで死ぬなんて。」
ラーメンで死にかけている明に釘付けになっている由香里の背後にこっそりゆっくりと教卓に隠れていた光凛と愛が忍び寄っていた。
「捕まえた!」
「きゃあ! なに、なんなの!?」
「引っかかったなゆかちゃん!」
由香里の両手を光凛が素早く後ろ手にして拘束し、愛は胴体に抱きつくように捕まえている、というか必死な顔をしながら腰に抱きついているようにしか見えない。
「ちょっと、何これ、どういうこと?」
拘束されながらも毅然とした態度で怒気を含んだ表情を明に向けた、憧れの人のそんな表情を受けながらも作戦完遂のため明は悠然と制服に付いたほこりを払いながら言葉を返す。
「今のは全部お芝居、ゆかちゃんを捕まえるための罠だったのだよ! 流石のゆかちゃんも俺の迫真の演技にころっとだまされおって、ラーメンで死ぬやつなんかいるわけ無いでしょ!」
「でも、明ならありえそうよね、ね、めぐ?」
「え、あぅ、うん」
「たしかに」
「流石の俺でもラーメンじゃ死なねぇよ!」
仲間達の明への印象は冷たい。
「くっ、離しなさい!」
必死に拘束から逃れようともがくが、しっかりと後ろ手に捕まりしかもそれを捕らえているのが光凛じゃまず抜け出すことはできない、あと抱きついている愛の柔らかい感触が妙に大きくてなんか悔しい。
「いくらゆかちゃんの頼みでも離してあげることはできないんだ、ごめんね」
「先生にこんなことしてタダじゃ済まないわよ!」
「へへーん、俺たちには切り札があるからね、よしこの調子で次の作戦に……」
そのときだった。
「こらぁ! お前ら何してるんだ!」
怒号とともに勢いよく教室に入ってきたのは最強の教師郡山豪男。
戦慄。教室内の空気が重く震えた。
「げぇ! ゴリヤマ!」
「誰がゴリヤマだ、悲鳴が聞こえたから来てみれば、お前ら由香里先生に何してるんだ?」
郡山の恐ろしいところ、それは純粋なスペックの高さもさることながら、由香里のことになるとさらに超人的なの能力を発揮するところだ、まずこの教室は中館の四階西寄りにある、郡山がいた職員室は南館の二階、渡り廊下を渡ってすぐの真ん中あたりにある、悲鳴と言えどそこまで届くような声はあげてないし、由香里が悲鳴をあげてから三十秒足らずしか経っていない、それなのにこの教室にたどり着いた郡山は驚異的な歩行スピードを出していたことになる、規則を重んじる彼は廊下を走ることはしない、競歩の世界なら、いやたとえ他のどんな競技でも楽々金メダルを取ることができるだろう。
「明、ここはゆかり先生を連れて逃げて一旦体制を立て直そう!」
「ああ!」
「逃げられると思っているのか?」
人質を連れている状況に、動きやすくはない机の並んだ教室、そして目の前には最強の教師。
「くそっ! 俺と清司でゴリヤマを止める、その間に二人はゆかちゃんを連れて逃げるんだ!」
雄叫びを上げながら男子二人は郡山に掴みかかった、明は腕を、清司は足をそれぞれ狙ったがびくともしない、二人を引きずりながら由香里の元へ歩く。
「ふんっ!」
郡山の声と同時に男子二人は振りほどかれた二人は尻餅をついてしまう。
「光凛! 広崎! 逃げろ!」
光凛は咄嗟に捕まえていた由香里の手を離し教卓をまわるように素早く明達のほうへ移動する。だが。
「めぐも逃げて!」
光凛は自分だけ逃げてしまったことをすぐに後悔した、なぜ愛の手を引いてあげられなかったのかと。
ゆかりを捕まえたまま愛は動けなくなっていた、郡山を前にしては蛇に睨まれた蛙、まるで怯えて由香里に抱きついているようになっている。
「由香里先生大丈夫ですか?」
「大丈夫です。ありがとうございます、本当に助かりました」
「いえそんな、自分は当然のことをしたまでですよ、はっはっは」
頭をかきながら豪快にわらう郡山、だが生徒達からしてみればとても笑える状況ではない。
「くそっ、やられっぱなしでいられるか!」
三方向から囲むように位置取る明と光凛と清司。
「由香里先生、広崎を捕まえたまま下がっていてください、どうやらこいつらは自分の指導受けたいみたいです」
「でも郡山先生、あまりやると保護者や委員会から何を言われるかわかりませんよ」
くっつている愛も抱きかかえながら心配そうな表情をした。
「確かに、今の時代ちょっとのことでやれ暴力だの、やれセクハラだのと騒がれ教師は生徒に触れることすらできない、だけどね由香里先生、こいつらは今正面からぶつかりのいきている、なら正面から受けてやるのが教師の役目ってもんでしょ」
仁王立ちし、由香里には背を向けながら郡山は真剣に答えた。
「さあ、お前ら全力でかかってこい! ただ俺に捕まったら生徒指導室行きだが、覚悟はできているんだろうな?」
「当たり前だ、覚悟がなきゃこんなことやらねぇよ!」
「だけど明、実際どうする? 僕ら三人でもゴリヤマに勝てるかどうか」
「確かにそうだが、三方向から同時に仕掛ければ勝機はある! いくぜっ!」
三方向から同時に郡山に飛びかかる、郡山はまず男子二人に対応しようとした、その一瞬の隙をついて光凛が左わきを抜けようとする。
「めぐっ!」
「光凛、あぶねぇ!」
抜けさせまいと伸ばそうとする左腕に明と清司が組み付いた。
「小賢しい!」
「うわっ!」
残った右手で清司を振り払うとそのまま明も振り払おうとする。
「明下がれ!」
「うおっ!」
「きゃ!」
清司の声に反応した明は咄嗟に光凛の腕をつかんで郡山から距離をとるように後ろに飛び退いた、一瞬でも判断が遅れていたら捕まっていた。
「清司サンキュ、助かったぜ」
「やっぱりゴリヤマは強い、どうする明?」
「そうだな、一回退いて……」
「ダメよ! めぐを見捨ててなんて行けない、めぐはあたしが守るんだから!」
「待て光凛!」
郡山に向かって光凛は単身飛び出した、反射的にそれを助けようと明も向かう、そして一瞬遅れて清司も飛びかかった、しかし清司は後悔した郡山に飛びかかっかことじゃない、一瞬ためらってしまったことを、自分も郡山に向かっていくべきか考えてしまったことを、思慮深さが裏目に出てしまった、そしてその代償はすぐにやってくる。
「甘いな、ふんっ!」
三人の息が合っていないのを瞬時に見抜いた郡山は最初の二人をはね返し、一瞬遅れて飛びかかってきた清司を捕まえた。
「うわっ!」
「清司! 抜け出せ!」
「青山、お前みたいな優等生がなんでこんなことをしている、俺がもう一度お前を正してやろう」
シャツの後ろ襟をつかんでいるだけなの清司がいくら抵抗しても逃げ出すことはできない。
「さあ後はお前ら二人だけだ、さっきまでの威勢はどうした、かかってこないのか?」
清司を捕まえながらでも余裕の郡山。
「俺は今、青山を捕まえてなきゃならんか片手しか使えん、ほら絶好のチャンスだぞ?」
挑発の言葉とはうらはらにとてもチャンスや隙があるようには見えない、むしろ二人で立ち向かってもやられる未来しか見えない。
「くそっ! やってやろうじゃねぇか! 光凛行くぞ!」
意を決して郡山に挑もうとしたそのとき。
「だめだ明! ここは一旦退くんだ!」
清司が叫び皆の動きが止まった、ほんとは助けて欲しい、明達だって自分をなんとか助けようとしてくれる、でも気持ちだけではどうしようもない。
「でもよ、清司と広崎が」
「ここで二人も捕まったらそれこそ終わりだ、だから僕たちのことはいいから一旦退いてくれ」
「ぐっ……光凛、一度、退くぞ」
「でも、めぐと青山君が!」
「わかってるよ! でも清司の言うとおりなんだ……」
光凛と愛の視線が合う。
「ひーちゃん……」
「めぐ……」
今にも不安で泣き出しそうな愛の顔を見て光凛は歯を食いしばりながら言った。
「わかったわ、一旦逃げましょ。めぐ! 必ず助けてあげるからね!」
「ひーちゃん!」
「青山君も、あたしのせいで捕まっちゃって、ごめんね」
「気にしないで、どんくさい僕は遅かれ早かれ二人より先に捕まってたよ、それよりも今は逃げることだけ考えるんだ」
「ほう、どうやら逃げることにしたみたいだな、しかし俺から逃げられると思っているのか? 青山から手を離し、お前ら二人を捕まえてまた青山も捕まえるのに5秒もかからんぞ」
郡山の威圧感が一層二人に向けられる、その圧による説得力は郡山の
言葉が嘘じゃないと物語っているようだ。
「明、どうしようやばいわよ」
逃げるにしても、うかつに動けばやられる。
「大丈夫だ、俺がゴリヤマの隙を作るから、その瞬間に逃げ出すぞ」
「どうした? 動けないのか? ならばこちらから……」
「あ! ゆかちゃんの胸元が全開!」
「なにぃ!」
およそ常人とは思えない速度で視線を由香里の方に、厳密に言えば由香里の胸元に向けたが、もちろん胸元が全開なわけはなく、はっとしてすぐに明たちの方に顔を戻すが二人は教室から逃げ出した後だった。
「まったく、相変わらず逃げ足の速い奴らだ」
「郡山先生……」
由香里の言葉に慌てて振り向く、それでもさっきよりは遅い。頭をかきながらしどろもどろに言葉を出。
「あ、いや、今のはその、なんというか、あれでして、つまり……」
「ふふふ、郡山先生は面白いですね」
「お、面白いですか。は、ははははは……」
いつもは豪快に笑う郡山もこのときばかりは声が小さかった。
「さ、さてとりあえずこの二人生徒指導室まで連行しましょう。自分は青山を運びますので、由香里先生は広崎を頼みます」
「わかりました」
言葉を交わしながら軽々と清司を米俵のように担ぎ上げ征途指導室へと歩き出す。生徒二人は観念していておとなしい。
途中で残りの二人からの襲撃に備えながら無事に生徒指導室まで清司と愛を連行し、一度生徒二人を指導室に入れ先生二人は指導室前の廊下で一段落ついたと話し始める。
「郡山先生、さっきは本当にありがとうございました」
「いえいえ、当たり前のことをしたまでです。それにしてもとんでもないことをする奴らだ、なんであんなことになったんですか?」
「いえそれが、私も教室に入った途端に捕まえられて、何が何だかわからないんです」
「ふぅむ」
郡山は腕を組みながら、由香里は顎に手を添えながら考え込む。
「あ、そういえば炎堂君が俺らには切り札がある、なんてこと言っていました」
「切り札、ということは由香里先生を捕まえることが目的ではなく、捕まえるのは過程で目的は別にあるということか」
「詳しくはわかりませんが、彼らのことだから何かあるんでしょうね」
「はあ、まったく困った奴らだ、そのエネルギーを他に向けてくれればいいものを」
「ほんとですね、元気でか活発なのはいいんですけど、炎堂君なんかは度が過ぎますね」
「ほんと、そのとおりです」
二人そろって困った表情のまま笑った。微笑んでる由香里はかわいい、心の底から郡山はそう思う。笑顔のまま少し遠くを見るように由香里は話し出す。
「でも、ああいうふうにはつらつとしてて、燃え上がって何かをしようとしてる男の子っていいですよね」
「そ、そうですか」
「ただ、郡山先生の言うとおり、彼の場合は変なことに情熱を注いでしまうのがなんとも言えないですね」
クスリと由香里は笑った、一瞬見とれてしまった自分に気づいた郡山は真面目な顔を取り繕うと必死になる。
「ま、まったくです。あの、変なことを聞きますが由香里先生はやっぱり普通の男性も、活発で燃え上がるような男の方がいいですか?」
「はい、やっぱり男の人はなんていうか、そういう真っ直ぐで男らしいほうがいいと思います」
「そ、そうですか、それはよかった」
「何が良かったんですか?」
きょとんとした顔で聞いてくる、かわいい。
「あ、いえこちらの話です。えと、じゃあ自分は逃げた二人を追いかけてきますね」
照れているのをごまかすために、慌てるように言った、だが次の由香里の言葉で郡山は冷静になった。
「私が行きます」
「由香里先生、あんなことがあった後ですから、中の二人を見張りながらにはなりますが指導室の中で休んでいてください」
下心を抜きにして心配したが、しっかりとした教師然とした態度で由香里は言う。
「ありがとうございます、でももう大丈夫です。それに今回のことは私にも責任がありますし、郡山先生にこれ以上迷惑はかけられません」
毅然とした態度の由香里に郡山は素直に感心し、真面目な口調で返す。
「そうですか、では二人の捜索はお願いします。自分は中の二人をちょっくら指導してきます、また何かあったら呼んでください、すっ飛んでいきますから。では」
頼りになる口調の郡山に由香里も笑顔を返した。
郡山が生徒指導室に入ったあと由香里は決意と恍惚が入り交じった表情で呟いた。
「絶対逃がさないわよ」
逃げた二人を探すためにハキハキと校内を歩く由香里、その顔は今まで誰も見たことない、少し不気味でどことなく妖艶な表情をしていた。
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