第74話 ホームパーティ!

「むふぅー! なんだかいいですねこういうの! 懐かしいです」


 訳の分からないことを言いながらレイナが俺の背中に頬を当てて嬉しそうにしがみつく。


「懐かしいって?」


 ちなみに今は連休を取ったレイナをアクシスまで馬で迎えに行き、二人乗りで拠点まで帰っているところだ。


「新大陸に向かう船の中じゃいつも二人だったじゃないですか」


 船着き場でレイナに拾われてから1カ月の船旅を思い出す。

 とはいっても、釣りをしたり一緒に食事をしたり、星空を眺めながら新大陸について話をしたりとそんな毎日だったけれど。


 新大陸に来てからはいつの間にかともに暮らす家族が増えて、レイナと過ごした時間よりも拠点で過ごした時間の方が長くなっていた。


「そういえば最近は釣りをしてないね。せっかく海が近いんだし今度は久しぶりに釣りにでも行こうか」


「そういうのは夏の間に誘ってくださいよー」


「その頃は生活に余裕がなかったんだよ」


 当時の俺は家を建てるためのお金を稼ぐのに精いっぱいで、その後は秋の準備だ。


「もうセレストさんはお金には一生困らないでしょう? 来年になったら海に行きましょう!」


 レイナが言っているのはニーズヘッグの報酬のことだとは思うけれど、今手元にある訳ではないし、こどもたちの将来の為に貯蓄は必要なので一生困らないのはどうだろうか?


 なんてことないレイナの一言にルビィやノルが大人になった時のことを考えていると、自分の年齢を思い出して苦笑する。


 いつだったか、誰かに言われたように思考が親目線になってきている気がして慌てて思考を振り払う。


 振り払うのと同時にレイナの言っていた言葉もすっぽりと抜けていったのだがこの時の俺は気づかない。


「じゃあ来年の夏は海に遊びに行こうか。船を借りて遊覧してみるのもいいかもしれないね」


「わぁ! それいいですね! さすがお金持ち!」


「だからそういう言い方はよしてよレイナ」


 とりあえず、来年の夏は海に遊びに行ってのんびりしようと心に記録する。



 ◇




「レイナだー! ルビィのおうちにいらっしゃいませ!」


「ルビィ! 元気してた?」


「うん! 元気だよ!」


 庭で遊んでいたルビィが馬の足音を聞いて出迎えてくれる。

 相変わらず元気にレイナに勢いよく飛びついていくがレイナも慣れっこなのでしっかり受け止める。


「それじゃあ俺は馬を戻して来るから、ルビィ、レイナの案内を頼めるかい? これは重要なお仕事だよ」


「りょうかい! ルビィがんばりますっ! しっかりついてくるんだよレイナ!」


「ふふっ。道に迷わないようにお願いね」


「まよわないもんっ! ここはルビィのだからね!」


 レイナの手をひいてとことこと歩き出すルビィを見送り、馬を厩舎に戻してから俺も家へと向かう。


「おかえりなさいませ。ご主人様。上着をお預かりします」


「ありがとう。アイシャ」


 玄関で出迎えてくれたアイシャに外套を預けて手を洗いに向かう。


「みんなはどうしてる?」


「ミミさんとフィーさん、クーニアさんが料理の支度をしてくれています。ノルとはルビィと一緒にリビングでレイナの相手を」


「ミミが料理を? 珍しいね。いつもは食べる専門なのに」


「そろそろ頑張らないと順番が遅くなると思ったのかもしれませんね」


「……」


 くすりとアイシャが笑うが、想定外のタイミングで飛んでくる冗談は冗談として受け止めていいのか返事に困る。


「冗談ですよ。ご主人様がよろしければさっそくはじめてしまいましょう」


「……そうだね」


 歯切れの悪い返答をしてからリビングへ。

 遊んでいるレイナとルビィ、そしてノルを連れてダイニングへと移動する。


「わぁ! なんかいい香りがすると思ってたらすっごい料理! いったいどうしたんですか?」


 食卓に並べられた色とりどりな料理の数々にレイナが目を丸くする。


「今日はレイナが遊びにくるからさぷらいずぱーてぃなんだよ!」


「……ルビィが言い出したんだ。みんなでパーティしようって」


 胸を張るルビィに捕捉するノル。


「ミミとフィーは会ったことがあるけどゆっくり話す機会もなかったのにゃ。今日はレイナがどういう女にゃのかじっくり聞かせてもらうつもりなのにゃ!」


「えぇ!?」


 ミミが鋭い目つきで笑いながらレイナを上から下に舐めるように眺める。


「それと、クーニアの歓迎会でもある」


「え? ワタシの歓迎会?」


 フィーにポンと肩を叩かれたクーニアが「聞いていないわよ」と首を傾げる。


「クーニアさんへのサプライズでもあったんですよ」


「アイシャ……ありがとう。よくわからないけれど、ワタシ、なんだか嬉しいわ」


 みんながそれぞれに語り合ってはいるが、俺としては今までこういう機会がなかったので全員にとって楽しいパーティになればいいと思ってのことではあったんだけど……なんだか気恥ずかしいのでそういうことにしてアイシャたちに準備を手伝って貰ったのだ。


「さあ、今日の為に食事以外にも街で色々遊べそうなものも買ってきているからね! レイナも、クーニアも、それにみんな元気に秋を乗り越えたお祝いだ! 今日はめいっぱい楽しもう!」


 日々、我が家のために頑張ってくれているみんなにささやかな幸せのひと時を。


 こうして俺たちはアイシャたちが腕によりをかけて作った料理を楽しみ、グランバリエの何処かの国で流行っているというゲームをして盛り上がり、陽が暮れるまで多いに盛り上がった。

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