第59話 アクシスの冒険者
拠点からアクシスのギルドに居を移し数日。
アクシスの街は活気にあふれている。
――というのも。
アクシス方面に流れて来た下位種の龍種が前哨基地に詰めるトラストさんらの冒険者パーティによって討伐に成功。
また、南下して狩りを行っていたこちらも下位種の龍が再度北上してきた際に一度、アクシス近辺に出没したが、外で守りを固めていた冒険者たちにより仕留められた。
俺もその戦闘の際にはギルドの屋上から冒険者たちへ
そんなこともあり、下位種とはいえ短期間に二匹の龍種を無傷で仕留めたことによってアクシスの市民に冒険者が本気で龍と対峙するつもりだということが改めて周知され、今では冒険者だけでなく龍の素材を手に入れたい商人が、街の無事を喜ぶ市民が、冒険者たちに喝采と称賛を贈り、下がる気温とは正反対に街の人々は龍葬祭への熱を上げている。
「――というのが街の現状だな」
支部長が報告書の束を執務机に放る。
「街の方に龍が流れたと聞いたときは心配していたが何事もなかったようで良かった。セレスト、お前のおかげだな」
「いえいえ、トラストさんだって龍を仕留めたらしいじゃないですか」
支部長の報告に安堵した様子で笑みを浮かべるトラストさん。
トラストさんは龍の運搬がてらに前哨基地の様子を伝えに一時的にギルドに戻っており、俺もついでに呼び出されて支部長の執務室で三人で話している――というのが現状だ。
「下位種程度ならずっと相手にしてきているからな。中位種の誘導をうまくこなしてくれている
龍葬祭と称して大々的に龍と対峙すると決めたのは今年が初めてだが、そもそもこの街の先輩冒険者たちはずっと龍種がうろつくこの新大陸で暮らしてきたのだ。
支部長の指示の元で新大陸を生き延びてきた冒険者たちが全員一致団結して様々な作戦を行っている。
「生き延びたら戻ってこなくて良いからな」と眉間に皺を寄せながら別れを告げる姿には胸を締め付けられた。
大盾を構え全身を金属製の鎧で覆った男たちは恐れることなく龍の前に飛び出し、魔法使いたちが事前に仕込んでいた魔法陣を発動する時間を稼ぎ、剣や槍を担いだ冒険者は魔法の余波の中に飛び込み次々に技を振るった。
それ以外にも
サブマノゲロスを討伐した――ことになっている――俺は赤髪の龍狩りなどと呼ばれているが、それは久しくいなかった新人による討伐者への一種の称号の様なものだ。
このアクシスの街を守り続けていた冒険者たちはその力を結集することで龍と対峙する力を持っているのである。
「今のところは概ね当初の想定通りではあるが――しかし、ひとつ気になることがある。南下した龍どもの戻りが早い。これから北の山脈から降りてくる龍が増えたときに戻ってきた奴らと鉢合うようなことがあれば……今年は多くの龍がアクシスに流れてくるかもしれん」
今、龍災に対して最前線に立っているトラストさんのその言葉の意味するものは重い。
「戻りが早いだと? 帝国も聖国の連中もわざわざこの時期に森にちょっかいを掛けることはないだろう。そんな戦力を新大陸に向けたなんて情報も本部からは来てねぇしな。何かが龍どもの進路を邪魔してるってか?」
先ほどまでは余裕のあった支部長の顔が険しくなる。
「……心当たりがある。この前、俺がやられた王種だ」
「あっ」
トラストさんの気まずそうな言葉にベヒモスという名が頭を過り、思わず間抜けな声が出る。
「あん? トラストはまだしもなんでてめえがそんな顔してんだ?」
「あー、えっと……どうしてでしょうね? はは」
「ガウル。それはどうでもいいだろう。とにかく、今は散発的な戦闘しか起こっていないが、もしも群れの波がこちらに迫ることになれば俺たちもアクシスに引き上げることになる。市民も今は浮かれすぎなところがある。万が一の時にギルドにすぐに避難ができるように改めて通告を出すべきだ」
どう答えたものかと挙動不審にしているとトラストさんが助け舟を出してくれる。
ベヒモスの原因に俺が関わっていることはどうやら黙っていてくれるらしい。
見た目は全身武器人間で凶暴そうだが相変わらず優しい。
「わかった。それはこっちに任せろ。トラスト、引き上げ時を間違うなよ。やばいと思う前に、何か違和感があればすぐにでも全員引き上げさせろ。大群がこっちに来たツケはそこの赤髪が払うから問題ねえ」
「……わかった」
「その時は全力で働かせて貰います」
この時ばかりは俺も否もなく素直に支部長たちに頭を下げた。
そしてこの報告会の翌日、前哨基地にて北の山脈から降りてくる複数の飛龍を確認。
トラストさんたちはアクシスの街へと早々に引き上げてきた。
たった一日で大森林の上空は餌を求める飛龍の群れが飛び交い、地上では翼を持たない龍種が少ない餌を求めて暴れまわるようになる。
南をベヒモスに封じられた龍たちは新たな餌場を求め、その進路を東へと向ける。
俺たちは遂に逃げ場のない龍の群れとの戦闘を強いられることになったのだった。
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