第50話 招集! 龍葬祭実行委員会!

 絶対防御アブソリュート・シールドの改良に試行錯誤しつつ、普段の狩りでミミやフィーに絶対防御アブソリュート・シールドを付与を行う訓練の日々を過ごしていた。


 そして昨日、狩りの獲物を納品した後にレイナから、支部長たちが俺の拠点に来るという話を聞かされて、迎えた今日。


 我が家の1階の応接室に初めての来客者が訪れている。


 その人数は俺を入れて5人。

 ひとりは支部長、そして槍と弓を背負い、腰の後ろに短剣を二振り、左の腰には長剣を一振り、全身凶器のような黒髪の見知らぬ青年。

 そして、我が家を建てるときに世話になった職人の棟梁であるバンズ氏と――最後にクーニアだ。


「邪魔してすまねえな。ギルドじゃあクーニアを呼ぶことができねぇからな。ちょうどいい離れがあって助かったぜ」


 悪気があるのかないのかわからない笑みを浮かべる支部長。


「そんなことよりガウル。俺の紹介をしてやってくれ。さっきから家主の坊主が俺のことを不審者のように警戒してる」


「そりゃあお前さんみたいな全身武器だらけのおっさんは警戒されるだろうよ」


 貴族のような整った顔立ちの黒髪の青年は、支部長のことをガウルと呼び、バンズさんは苦笑を浮かべながら青年のことをおっさんと呼ぶ。


 この全身武器だらけの青年はどうみても20代にしか見えないのだが……果たして彼らとはどういう関係なんだろう。


「そういやセレストは初対面だったか。こいつはトラスト。ギルドの支部長補佐、要は俺の次に偉いやつだ。普段は北の鉱山や前哨基地の方を任せている。ちなみに顔はこんなだが俺よりも3つ年上のおっさんだぞ」


「支部長の3つ上ってことは……41!? 嘘でしょ!?」


 俺の想像よりもとんでもなく年上だった。

 いや……よく考えてみればレイナが年が近い人が周囲に居ないと言っていたのだから、20代のこんな顔の整った男性がいる訳がないのか……。


「……嘘ではなく本当だが、あまり年のことを言うな。これでも年相応に見られず苦労している」


「それは……申し訳ありません」


 それはそうでしょうね、と言いかけて慌てて止める。

 武器を無視して顔だけをぱっと見た感じは正直、それなりの貴族の坊ちゃんと言った風ではあるが……よく見ればその身体のあちこちには冒険者らしく幾つもの傷跡がある。


 見た目や生まれではなく、実力で支部長補佐という役に就いているのだろう。


「お前らの紹介はもういいな。それじゃあ次は――クーニア、お前の番だ」


 トラストさんのことで驚いている俺をあっさりと放置して支部長はクーニアに視線を向ける。


『ワタシはバンシーのクーニア』


「それだけか?」


『他にナニを話せばいいのかわからないわ。ワタシはアナタがみんなを星に還す為に手を貸してくれるというからココに来ただけだもの』


 簡単すぎる紹介に支部長が苦笑し、クーニアがさらりと返してソファへ腰を下ろす。


「みんなを星に還す、というのは?」


 我が家にこのメンバーが集まったのはクーニアを人目に付かせないためだろう。

 だが、そもそもこのメンバーを集めた理由がわからない。

 可能性があるとすれば、以前支部長から頼まれた龍災のことだが……、星に還すというのは半透明の人たちのことだろうか。


「お前たちに今日ここに集まって貰ったのは、今年の龍災で龍を倒し、アクシス創設のために死んでいった仲間たちの心を送り、アクシスの平和を願う祭り――龍葬祭の実行委員の立ち上げのためだ」


「龍葬祭……」


 支部長の強い想いの込められたその言葉を無意識に反芻する。


「俺も旧開拓地で大勢の仲間を失った。ガウルからバンシーの少女の話や坊主の話を聞いたときは信じられなかったものだが……こうして二人を目の前にしてみれば納得も出来た。二人とも変わっていて、それでいてとてつもなく膨大な魔力を持っている。仲間を弔うために龍を狩るというのであれば、俺はこの命を賭してでも戦う」


 トラストはクーニアと俺に順に視線を送り、頷いてみせる。

 この人は魔力がわかるということは……魔法も使えるのか。


「龍を追い返すだけでも毎年ひぃひぃ言ってんのに、いきなりバカな連中がバカを言い出しやがってよ。俺は正直ごめんだってぇ言いてぇところだが……俺ぁもう手前が作った街をぶっ壊される方がごめんだぜ」


 バンズさんは窓の外――あっちは旧開拓地の方角か――を見てぶっきらぼうに言い放つ。

 この人も、旧開拓地の頃から新大陸に居たのか。


『龍とニンゲンたちの出来事は聞いているけれど、アナタたちニンゲンは本当にそんなことでみんなのことを星に還せると思っているの? ワタシにはよくわからないわ』


 クーニアからすれば人間も龍も自分とは違う種族だ。

 死に関わる妖精だからこそ疑問を持つこともあるのかもしれない。


 龍に殺されたから龍を殺す。

 そういう風に考えてしまえば確かにそれは間違ったことだと言えるだろう。


「この中じゃ、過去の出来事に一番関係ない俺が言うのもなんだけどさ、冒険者ってのは絶対勝ち目の無い闘いの中にこそ誇りを抱く生き物なんだよ」


『誇り?』


「そうさ。俺たち冒険者は冒険を愛するから冒険者なのさ。俺たちは自由を求めて旅をするし、魔物とも戦う。けれどそれは恨みを晴らすためなんかじゃない。いつだって対等に、自分たちの命を賭けて生きていくために狩りをするんだ」


『そんなに熱く語られてもワタシには理解はできないわよ……けれど、ワタシの中のみんなが熱を上げているのは事実のようね』


 クーニアは胸に手を当てて、そっと瞼を閉じてまるで胸の内から響く声を聴いているかのようだ。


「坊主の言う通りだ。龍は俺達よりも遥かに強い。狩るだのなんだの言ってはいるが、俺達が死ぬ可能性の方が高いんだ。それでも俺達はいつまでも逃げている訳にはいかない。俺達が勝たない限り彷徨う人々が居るのであれば、俺は俺を許せない」


 トラストさんは整った顔を苦渋に歪め拳を握る。


『……わかった。けれどワタシはアナタたちニンゲンの仲間になる訳ではないわ。みんなを星に還す手伝いをして貰うけれど、ワタシはアナタたちに何も見返りを与えない』


 俺とトラストさんの話を聞いて、目を閉じていたクーニアが瞼を上げて頷く。


「よし。話は決まったな。それじゃあ今日、この場所から龍葬祭実行委員会発足とする! 命懸けの祭りのはじまりだ! 時間はねーから全員死ぬほど働いて貰うぜ!」


 クーニアの返答を聞いた支部長が意気揚々と立ち上がり宣言する。


『死んだらワタシが一緒に踊ってあげるわよ』


「おうっ!」と掛け声を上げようと立ち上がった俺たち男衆の意気は少しズレたクーニアの微笑みに挫かれるものの……とにかく、お祭りに向かって頑張るぞ!

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