第49話 絶対防御魔法・改
柄にもなく俺なんかに頭を下げた支部長の依頼を受諾した翌日。
「ふっ、ふっ、ふっ――」
「ノルーまてぇー! あうっ」
「あらあら。ルビィはこっちで私と一休みしましょうか」
ノルは拠点を囲う城壁の内側を沿うように駆け、ルビィは鬼ごっこのようにノルを追いかけては足がもつれて転んでアイシャに保護される。
「にゃーはっはっ! 今回こそはエルフから逃げきってみせるのにゃー!」
「おのれっ! そう何度も逃がしてたまるものかっ!
ミミとフィーは城壁の上やテントの梁、家や倉庫の屋根の上を飛び跳ねながら縦横無尽に動き回る。
仕事もせずに何故こんなことをしているかというと――。
「ぐぬぬっ……
昨日の支部長の依頼を受け、龍災の撃退――龍狩り――を目指すことになった俺は、
改良内容は、俺を起点として常時発動している
そして、その対象が動き回っていても瞬時に照準、発動させること。
さらにそれを一定時間維持すること。
要は普段自分に対して発動していた魔法を他人に対して使用、制御するだけではあるのだけど……これが中々難しい。
一定のリズムで同じ場所を周回するノルだが、時折建物やテントの陰に隠れるため、見えない場所で維持に失敗してしまうと再発動が難しい。
ルビィは好きなタイミングで誰から構わず追いかけようと走り回るので動きが読めない。
ミミとフィーは獣人の柔軟な筋肉を活用した跳躍力や精霊の力を利用して素早く動くうえに、横だけでなく縦の動きも加わるので照準を当てることも維持することも難しい。
自分ひとりに魔法を展開するだけならば簡単だけれど、同時にあっちこっちに魔法を発動し、更にシールドの防御力も落とさないようにしなければならない。
俺は今回、対龍戦闘でアクシスの街や住民の保護、そして前線に立つ冒険者たち全員をいざという時に保護するための重要な役割を担うことになっている。
「ノルのシールドの維持はできている。ルビィはまだアイシャのところで休んでいるから今は必要なし。ミミは家の二階のベランダに尻尾を巻き付けてぶら下がっていて……フィーが家の裏手から屋根を上って回り込もうとしてる……はず!」
庭の真ん中に立ち、周囲の動きを必死に目で追いかける。
それだけでは全く足りない情報をそれぞれの動きのパターンから想定。
「ミミは油断してて一撃貰いそうだな。出力上昇」
「獲ったぞバカ猫めっ! ふははははーっ!」
「ぐにゃー!? 上から来るとは卑怯にゃっ! せめて……巻き添えにしてやるにゃー!」
「え、ちょ、やめなさいバカ猫! 離せっ!」
屋根伝いにミミを捕まえようと飛び込んだフィーの一撃――勿論遊びなので加減している――を貰ったミミが何故か大袈裟に驚いてフィーにしがみついて柵に巻き付けていた尻尾を解く。
「ちょっ! 何やってんの!?」
自由落下する二人の周囲のシールドの出力を上げる。
もみくちゃになったミミとフィーがころころと地面を転がるが痛む様子はなし。
「わーい! ルビィもそれやるーっ!」
「ふにゃっ!?」
「あはぁんっ!?」
ほっと一息吐く暇もなく、ルビィが飛び出してミミとフィーの上にダイブ。
すっかりルビィのことを失念してしまっていたので、ルビィには今シールドは展開していない。
慌ててミミとフィーのシールドを解除して、ルビィは無事に生身の二人の上に着地。
猫は尻尾を踏まれて、エルフは尻を蹴られているけれど、ルビィが楽しそうに二人の上で胸を張って「えっへん」としているので結果良し。
とはいえ、もうちょっと制御できるようにならないとこのままじゃ実戦は厳しいな。
吹き抜ける風は日々涼やかになっている。
秋は訪れ、龍が山から降りてくるまでの猶予はほんの僅かなのだから。
「そんなことどうでもいいから早く助けるのにゃ~!」
「ルビィ、そ、そこはダメだ! お願いだからそこを踏むのはやめてくれ! そこは私に効きすぎるぅ!」
この賑やかな生活を守るために、一生懸命頑張ろう。
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