第26話 騒動の原因
「それじゃあ、さっそくだけどミミの仲間のことを知っていたら教えてくれる?」
すっかり様子の変わったフィーには申し訳ないけど、ミミとの約束を果たすためにも、まずはミミの仲間がどうなったか確認しておかないとね。
「そちらのプラチナキャティア――ミミさんのご家族は既に仲間によって保護されています。今頃はエスティアに向かっていることでしょう」
隷属魔法によって反抗することなくフィーは淡々と質問に答える。
それにしても保護に……エスティアへ向かっているというのは送還という意味だろうか。
……考えても仕方ないな。
そもそも俺はミミが逃げてきた理由もフィーとその仲間の目的とやらも知らないんだから。
「フィーの仲間はどういう人たちなんだい? その人たちはミミの仲間をエスティアに連れて帰ってどうするつもり? その人たちは酷い目――たとえば拷問とか――に遭ってしまうのかい?」
もしもそういうことなら問題が少しややこしくなってしまう。
「保護しているのはエスティア守護です。我々の目的はプラチナキャティア一族の保護。危害を加えるつもりはございません」
ん? 危害を加えるつもりがない?
それならどうしてミミを追いかけて……。
「危害を加えにゃいだって!? よくもそんなことが言えるのにゃ! プラチナキャティアはお前たちエルフに保護なんかされなくても生きていけるにゃ! お前たちエルフがミミたちに封印をしなければプラチナキャティアも、他の一族だって仲間が減っていくことに怯えて暮らす必要なんてないのにゃ!!」
ミミが声を荒げる。
猫耳と尻尾の毛を逆立てて大きく開いた口元には鋭利な牙が覗く。
「仲間が減るですって? そのようなことはございません。エスティアに住まう全ての種族はエルフの女王リフィル様によって守護されています。全ての種族が永遠に種を途絶えさせぬよう、リフィル様は全ての種の調和のために日々ご尽力されているのです」
「調和なんて知らないにゃ! その調和のせいでプラチナキャティアも他の獣人も好きな人を愛する自由を奪われたにゃ!」
「獣人族は多産すぎるのです。エスティアの庇護の中で暮らすには種を残すことが出来る物を厳選しなければなりません。そうでなければ他の種との調和を乱してしまいかねないのです」
「ふっざけるにゃ……!」
「ちょ、ちょっと待ってミミ! ストップ!」
しばらく二人の言い争いを聞いていたけれど、ミミがフィーに手を出してしまいかねないので慌てて制止する。
「あのさ、俺は外の人間だからわからないんだけど……エスティアって街はエルフが管理していて、そのエルフの女王様が獣人族の人口を調整するために封印紋を使って繁しょ――恋愛を自由にできなくしてしまっているっていうこと?」
二人の言い争いから搔い摘んだ情報を吟味してなんとなく思いつくことを尋ねてみる。
「エルフは恋愛などという些事にまで関与はしておりません。あくまで不必要な人口の増殖を避けるために去勢を行っているだけであって、想定外の事態……例えば事故や病によって早世してしまった者がいれば調和の為に封印の解除も行っています」
「そんなものっ! エルフの勝手にゃ!」
恋愛までは関与していなくても、子孫を残すためには封印をされていない者同士で結ばれるしかない。
確かにそれはミミの言う通りで、言葉を置き換えただけでやっていることは自由を奪う行為でしかないだろう。
「ん? じゃあミミも誰か好きな人がいるからエスティアの街から逃げてきたの?」
ミミのおへその下にも封印紋がされている。
これがエルフが去勢を目的に施した封印なら古代文字の意味も納得がいく。
ミミは好きな人と自由な恋愛がしたくてエスティアから逃げた?
「そ、そんなわけあるわけないにゃー! ミミはまだ誰かを好きになったりしたことなんてないにゃ! そ、そういうのはもっと大人になってからすることにゃのにゃ!!」
なんだ違うのか。
「それじゃあミミたちはどうしてエスティアから逃げたんだい?」
「ミミの姉妹に好きな人が出来たのにゃ。でもその相手の人は封印を免除されたけど、ミミの姉妹は全員封印されることが決まってしまったのにゃ。だから、ミミの家族と相手の家族とで相談してエスティアから逃げて暮らそうってなったのにゃ。ミミは……作戦決行前に封印の施術をされてしまったけどにゃ」
なるほどなるほど……。
「え? じゃあ何、今回の件はミミの姉妹? の駆け落ちが原因ってコト?」
「そうにゃ」
そうにゃの!?
いや……エスティアの街というのはなんだか厄介そうではあるけれど、まさかそういう話だったのかぁ。
確かに深刻は深刻なんだけど……ちょっと思ったより逼迫した問題でもない……のかな?
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