第27話 冒険者ギルドへの報告

「……はっ! ここは一体? 私は何を?」


「おはようフィー。随分疲れていたみたいだね。調子はどうだい?」


「調子? 調子はどこも――って貴様はもごもごっ!」


 ミミとフィーから話を聞いたあと、少しだけフィーに施した隷属魔法を改編してみた。

 さすがにさっきまでのは洗脳しているようで居心地が悪かったので自我は保てるようにして、反抗的な言葉や行動だけ取れないようにしたのだけど、うまくいったみたいだ。


「う、上手く話せないっ! なんだこれは! 一体私の体に何をしたッ!! それにこの胸の紋様は一体……ま、まさかさっきの奇妙な魔法で私の意識を奪いその隙に私の体を弄ッもごもごっ」


 ……うまくいったみたいだ。


「さて。フィーのことは一旦置いておくとして、ミミ。どうやら君の仲間はひとまず無事のようだけどこれからミミはどうしたい?」


 ミミの仲間――というか家族――はどうやら今すぐ危ない状況という訳ではなく、ただ街に送り返されただけらしい。

 ミミが家族の元に戻りたいということなら手助けくらいはしてあげたいけれど、可能ならまずはミミとフィーのことは一度支部長に会わせておきたい。


 あとは、労働力として期待していたので帰ってしまうのは少し残念かな?


「……本当なら今すぐみんなに会いたいところにゃ。だけどミミにはひとりで森を抜けてエスティアに辿り着くのは現実的に難しいにゃ。それにエルフから情報を聞き出せたら……な、なんだって言うことを聞いてやるって言っちゃったからにゃ!!」


 ミミが顔を赤くしてそっぽを向く。

 まあ、魔物に襲われて川を流されて来た訳だし、プラチナキャティアとはいえど、新大陸で生き抜くというのは困難なんだろう。


「妹さんかお姉さんだったかのことはいいのかい?」


「気にはなるけど、ミミ以外のみんなが無事なら大丈夫にゃ。きっと次はうまくやるにゃ」


 ミミはそういうけれど、項垂れた尻尾がどうにも寂しそうでなんだか放っておけない気持ちになる。


「そういうことなら、しばらくはうちで暮らしなよ。手伝って欲しい仕事はいくらでもあるし、俺もいずれは森の奥に冒険に出るつもりだからね。行ったことのないエスティアの街にも行ってみたいし、その時は俺と一緒にエスティアに行こう」


「ふん。セレストが変な魔法を使えることはわかったけど、さすがにセレストだけじゃ森を抜けてエスティアに行くのにゃんて無理にゃ。それにこの場所のどこに家があるにゃ」


 うっ……確かに家はまだ建っていないけど。


「家は冬までには建てるさ。俺ひとりだったら無理だったかもしれないけどミミが居れば魔物を狩って家を建てるくらいのお金なんてあっと言う間さ。それに、労働力はここにもう一人いるしね」


「……そいつに掛けた魔法は信用できるにゃ?」


「今後改良はしていくかもしれないけど、とりあえずは大丈夫。魔法の才能は結構あるんだよね」


 もう一人の労働力――それはさっきから何かを言おうとしてもままならずもごもごと変な声を出しているエルフのフィーだ。

 彼女には悪いけれど、ミミがここに居ることを知られてしまっているのですぐに解放するわけにはいかない。


 もうちょっと隷属魔法が上達したら制限を軽くして解放しようと思う。

 そして、それまでの間にできればアクシスのことを知って貰って好意的な印象をエスティアに持ち帰って欲しいものだ。


「そういうことならミミ、きみは今日から俺の仲間だ。ようこそアクシスへ。家族の代わりとはいかないだろうけれど……きみが孤独になることが無いように俺がミミを守ると誓おう」


「――っ!! セ、セレストお前、いきなりにゃ、にゃにを言っているにゃっ!?」


 おっと。

 またつい昔の癖で堅苦しい言葉が出てしまった。

 最近は気を付けていたんだけどな。



 ◇



「――とまあ、そういうことがあってね。支部長に報告に来たわけなんだ」


 アクシスの街の冒険者ギルド支部長室。

 この部屋に足を運ぶのも随分慣れてきたものだ。

 外套を被せて連れてきたミミとフィーと並んでソファに座り、支部長のガウルに今朝の出来事を説明する。


「西岸の街エスティアに、エルフの女王。さらにはプラチナキャティアにその他獣人や生物が山ほど暮らしている……まるでガキの寝物語みてえな話だな。と言いたいところだが……そっちの嬢ちゃん二人を見ちまったら嘘だとは言えねぇな」


 執務用の椅子に腰かけた支部長が渋い顔で顎髭を撫ぜる。


「ミミとフィーだったか? 悪いがもう一度外套のフードを降ろしてくれるか?」


「そんなに耳が気になるのかにゃ」


「ぐっ……どうして私が侵略者の言いなりになど……くぅっ! い、嫌なのに体が言うことを聞かないっ!」


 ミミとフィーには季節に不釣り合いな全身を隠せるフード付きの外套を着せて街に連れてきていた。

 支部長は二人の存在を再度確かめるように猫耳やエルフの尖った耳をしばし眺めては溜息を吐く。


 今ので一体何度目の溜息だろう。


「もういいぞ。ありがとうな嬢ちゃんたち。しかしセレスト、お前……どういう星の下で生まれたらいきなり未知の人種の女の子を二人も拾ってこれるんだ」


「……まあ、多少は変わった生まれだったかもしれないけど、間違いなく同じ星の下ではあるよ」


 ゼノファリア王国では禁忌とされた双子の片割れである俺は確かに変わった生まれだけれど……貴族であっても普通の優しい両親の元に生まれた人間だ。


「まあ。話は分かった。エスティアのことについては俺も情報を集めることにするが……これは当面の間、一般の冒険者には公表しない。幸いなことにお前は街の外に暮らしているしな。その二人のことをバレないように匿うことはできるか?」


「お易い御用さ。誰かを守ることに関しては自信があってね」


「そりゃ羨ましいこった」


 そういう訳で、ミミとフィーの身柄は正式に俺が預かることになった。

 これで魔物狩りも出来るだろうし、拠点づくりも軌道に乗るといいな。

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