第23話 従業員候補

「詳しいことはともかく、ミミが流れ着いた理由はわかったよ。それで、ミミはこれからどうする?」


 エスティアという街があることや、未知の種族のことはとりあえず街に戻ったときに支部長に報告するとして……まずは今目の前にいるミミのことが先だ。


「ミミは仲間を探しに戻るにゃ。お前――セレストに助けて貰ったことは感謝しているけどにゃ」


 やっぱりそうなるよなぁ。

 もともと他の仲間と一緒に逃げてきたのだと聞いていたし、元気になったならその仲間の元に戻ってくれた方がこちらとしても正直ありがたいところではあるんだけど。


 でもなぁ……さっきから絶対防御アブソリュート・シールドの範囲を広げているけれど、周囲にはミミの仲間らしき存在は感じない。


 それどころか俺に害意ある何者かが一人、絶対防御アブソリュート・シールドに何度も攻撃を仕掛けてきているんだよね。


「ねぇ、その追手っていうのは一人だったかい?」


「そうだけど、それがどうしたにゃ」


 俺の問いにミミが首を傾げる。

 俺はアクシスに来たばかりだし、その殆どをアイシャやレイナたちくらいとしか接していない。

 こんな風に敵意を向けられる覚えはないので、恐らく絶対防御アブソリュート・シールドを突破しようとちょっかいを出してきているの奴はミミが狙いなんだろう。


「んー……なんていうか、一人で行動するのって危ないんじゃないのかなってさ」


 厄介ごととは縁がない方がいいに決まっている。

 とはいえ、そう年も変わらなそうな女の子を放っておくというのもあまりいい気分じゃない。


「うっ……それはそうかもしれにゃいけど……けど、だからってミミには頼れる人にゃんて……」


 ミミが流れ着いた川の上流にはまだ立ち入ったことはないけれど、きっとあの大鹿のような魔物が多数生息しているんだろう。

 それに例の追手。

 それに理由は知らないけれど元々住んでいた街から逃げてきたというのなら住むところもないんだろう。


 だからこれは優しさじゃなくて俺の打算だ。

 厄介ごとを無料で引き受けられるほど裕福じゃあないからね。


「ねえ。俺がミミの追手を捕まえて仲間の情報をとってきてあげるよ」


「そ、そんにゃことができるわけがないにゃ! セレストみたいな子供がエルフに勝てる訳がないにゃ!」


 エルフってまた知らない言葉が出てきたなぁ。

 ああ、いや、物語の中にそういえばそういう架空の種族もいたような?


「こどもなのはお互い様でしょ。ミミだって俺とそう変わらないように見えるけれど」


「失礼にゃ! ミミはこう見えてももう14才にゃ!」


 そうして胸を張るミミのそれは確かに大人っぽさを感じさせるものの、逆に言えばそれ以外――顔立ちも身長も――とても大人には見えない。


「俺は12だから2才しか違わないね。まあ、そんなことはいいとして……もし俺がさっき言ったことが本当にできるとしたらどうする?」


「どうするも何もそんなことができるわけないにゃ! もしもできるっていうならなんだって言うことを聞いてやるにゃ!」


 お、言質取れました。

 うちの従業員の三人は非力だし、アクシスの街暮らしだから魔物狩りにいけなくて困ってたんだよね。


 その点、ミミは体つきを見る限り――裸を見てしまったのは事故だけれど――獣人の特徴なのか14才にしては良い筋肉の付き方をしていたし、途中で気を失ったとはいえ新大陸の森で活動できる能力は持っていると思われる。


 これ、いい従業員候補だよね?


「ふふっ」


「にゃ、にゃにをいやらしい笑い方してるにゃ!」


 おっと、思わず顔に出ちゃってたか。


「ごめんごめん。それじゃあ早速エルフさんの顔を拝みに行くとしようか」


 実はミミから言質を取った時点で絶対防御アブソリュート・シールドを形状変化させて追手を確保済みなんだよね。


「居場所が分かるにゃ!? どういうことかちゃんと説明するにゃ!」


「その辺は歩きながら説明するよ。そう離れていないところだからさ。あと、さっきの約束はちゃんと覚えておいてよね」


「あ、ちょっと待つのにゃ!」


 納得がいかないといった顔をしているミミを置いて立ち上がり、焚火に砂を掛けて歩き出すと、慌ててミミが追いかけてくる足音がする。


 さて、エルフってのはどういう種族か楽しみだな。

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