第24話 エルフの追手

 ミミを連れて西の小川沿いに北上していく。

 川のせせらぎを聞きながら森へ踏みいれると昨夜降った雨の名残か少しじっとりとした空気に変わる。


「セレスト! 武器も持たにゃいで森に入って死ぬつもりかにゃ!?」


「大丈夫だよ。この周辺の魔物はもう追い払ってあるからさ」


「……確かに近くに魔物の匂いはしないにゃ。いったいどういうことなのにゃ?」


 プラチナキャティアというのは人間よりも鼻が利くのだろうか。

 俺には濡れた葉と土から香る森の匂いしかわからないけれど。


「さて、もうすぐ着くけれどいきなり妙なことはしないでよ。まずは情報を引き出さないといけないんだからね」


 エルフの追手とやらを捕獲しているところまではもう後僅かだ。

 先に言っておかないといきなり復讐とかされちゃうと困るからね。


「そんなことはしないにゃ! ミミだって仲間のことが分かれば追手のことなんてどうでもいいにゃ……」


 本当にそうならば別にいいんだけどね。

 おっと、そう言っている間に到着だ。


「くっ……このぉ! 一体なんなのよこれ! 何かが体を締め付けて……くぅっ! どうしてっ! どうして体が動かないのっ! くぁっ! う、動くと余計にく、食い込むぅっ!」


 以前、絶対防御アブソリュート・シールドを棘状に変化させた応用で今回はロープのようにして簀巻きにして地面に転がしておいた訳なんだけど……。


「何やってんだこのひと……」


「……このエルフはひとりで何をしているにゃ? 変態なのかにゃ?」


 捕獲地点に辿り着くと、目に見えないロープ――絶対防御アブソリュート・シールド――を相手にひとりで藻掻いて地べたに四つん這いになりながら変な声を上げている女性。


 金髪に真っ白な肌と宝石のような碧い瞳、そして人形のように整った顔と尖った耳。


 俺が人生で初めてみたエルフはミミやアイシャさん以上の巨大な胸部を揺らしながら泥だらけになって地面の上で何やら誤解を与えそうな声をあげていた。


「あのー、あんまり動くと逆に絡まっちゃうから動かないほうが……」


「ああっ! くそっ! そんなところに食い込もうとするだなんて卑劣なっ! ならばもっとお尻を突き上げればどうだ……あんっ! そ、そっちはダメだバカもの――なんだ貴様らは?」


 くねくねと奇妙な動きをしていたエルフが急に真顔になってこちらを振り向く。

 いきなり冷静になったんだけどなんなのこの人……。


「ねえ。ミミ、この人本当にエルフであってる? ただのエロい人じゃない?」


「信じたくないけどミミたちを襲ったのと同一人物にゃ。そっちに落ちてる弓はエスティアの射手しか持っていない弓なのにゃ」


 同じくどん引きしているミミが指さす方には立派な装飾の弓と矢筒が転がっている。

 どうやら本当にこれがエルフらしい。


 ノルとルビィに読ませる物語はエルフが登場しないものにしよう、とどうでもいい決意をする。


「貴様ら、なにをひそひそと話をしている! そっちの娘は昨晩逃したプラチナキャティアの娘だな! そっちのは……侵略者どものこどもか。この私に不埒な魔法を使ったのは貴様だなッ!」


「人の魔法を勝手に不埒扱いしないでよ」


 むしろどうやったら絶対防御アブソリュート・シールドを不埒な使い方ができたんだよ。


「ふんっ! 生意気な侵略者の分際でエルフに向かって歯向かうとは身の程を知るがいいっ!!」


「このエルフはなんでこんな無様な姿でこんなことが言えるのにゃ?」


 ミミの言うとおり、このエルフはロープ状の絶対防御アブソリュート・シールドに縛られながら動き回ったせいで服装は乱れ、顔は紅潮し、しかも地面に四つん這いで相当にあれな恰好をしてるんだよなあ。


「とりあえず……いったん拠点に連れ返って詳しく話を聞かせてもらうことにしようか」


「拠点に連れて帰ったらエルフに拠点の位置がバレてしまうんじゃないかにゃ?」


「ちゃんと考えがあるから大丈夫」


 ミミは仲間のことが気になるところだろうけれど、こちらとしてもアクシスの平和の為に謎の都市エスティアの情報は欲しいところだし、この変なエルフさんの身柄は預かりたいところなんだよね。


 ちょうども手に入ったばかりだしね。

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