第22話 銀髪褐色猫耳少女の正体
焚火に当てて多少は乾いたシャツを腰巻に蛮族のような恰好で、俺のズボンと上着を着せたミミを拠点まで連れて帰る。
「……すごい綺麗な城壁なのに中は何にもないにゃ。お前、ここに住んでるんじゃなかったのかにゃ?」
「今は俺ひとりしか住んでいないからまだ家はないんだよ。ただ寝床ならちゃんとあそこにあるだろ?」
「……あれは寝床じゃなくて物置にゃ」
俺の指差す方向をミミの視線が追いかけて呆れたような溜息。
一応この1カ月で倉庫の他に兎の皮や鳥の羽を干すための乾燥台も作ったりして進歩はしているんだ……これでも。
「とりあえず、俺は服を着てくるから適当に座って休んでて」
「わかったにゃ」
頷いたはいいが基本的に壁の内側も外側と変わらないため、ミミは少し周囲を見渡したあと、適当に地べたに腰を下ろす。
俺はその間に倉庫兼寝床で着替えを済ませる。
ついでにミミに着せられそうな服と薬湯を作るための準備、それから常備していた干し肉を持ってミミの元へと戻る。
「赤く猛るは契りの焔 怨嗟の呪縛を払い 天照す星火となれ! ――フレイム!」
「清浄にして明瞭 青の恩恵よ 星環抱擁! ――ウォータースフィア!」
焚火を起こし、鍋に水を貯める。
湯が沸いたら干した薬草で薬湯を作ろう。
「ほら。とりあえず着れそうな服をいくつか持ってきたから着替えなよ。さすがにお腹が丸出しなのは目に毒だ」
俺の着ていた上着は夏用の薄手の生地のベストだったので、豊満な胸部に押し上げられてミミの体――ズボンで半分隠れているが封印紋が妖しく浮かびあがっている――が丸見えだ。
「毒とは失礼にゃ! ふんっ。まぁいいにゃ。ミミもこのピチピチの服は気に入らなかったにゃ」
「俺は後ろを向いているから済んだら教えてくれ」
着替え始めるミミに背を向けて座り、薬湯の支度を始める。
「……初めて会った相手に背中を見せるなんてお前はバカなのかにゃ?」
衣擦れの音と共にそんな声を掛けられる。
「別に。警戒をする理由がないってだけだよ」
この開拓地周辺には俺の
意識を失っていたとはいえ、
わざわざそのことまでは教えないけれど。
「魔法もお前も変なやつにゃ」
「俺からしたら猫の耳と尻尾を生やした人間の方が変――いてっ!」
「失礼にゃ!」と後頭部を叩かれて振り返る。
「ミミはエスティアのプラチナキャティア族にゃ! 侵略者のお前ら人間と一緒にするんじゃないにゃ……あと、服、ありがとにゃ」
「う、うん?」
エスティアって何、とかプラチナキャティア族って何、とか侵略者とか。
いろいろと同時に知らない言葉が出てきたんだけど……。
いきなり最後に頬を赤らめてぷいっと顔を背けて照れているミミの様子の変化に驚いて言葉が詰まる。
「……とりあえず座りなよ。薬湯と、干し肉しかないけれど用意したからさ。お互いに気になることはあるだろうけれど、まずは体をしっかり温めた方がいい」
「ふん……と、とんだお人好しだにゃ!」
そんなことを口にしながら、新しい服に着替えたミミは一人分の
スペースを空けて焚火の傍に座り、疑いもせずに食事を始めた。
警戒心の足りないのはどちらの猫なんでしょうねぇ。
◇
「――ふーん。それでエスティア? って街から逃げ出す途中に追手に襲われた挙句、魔物の群れに出くわして他の一族の仲間とははぐれちゃったって訳か」
「そうにゃ。休んだら気を失う前のことを思い出してきたにゃ。あの時、大型の魔物の群れに出会って戦闘になったにゃ。ミミはその時に魔物に突き飛ばされて……川に落ちたところまでは覚えてるにゃ」
食事を終えたミミからどうして川を流れてきたのかを聞く。
エスティアという街はこの大陸の西側にある街らしく、どうやらミミの種族――プラチナキャティアというらしい――はそこから何かの理由があって逃亡。
その後は今聞いた通り、ということらしい。
それにしても……新大陸の西側に先住民の街があるというのは初耳だ。
グランバリエに居たころにも、アクシスに移住してきてからもそのような話は聞いたことがない。
猫と人間のハーフ……といっていいのかはわからないが、獣人という存在も聞いたことがない。
ミミの話を疑おうにも実際に目の前にその獣人の少女であるミミがいる。
「そしてミミたちからしたら、俺たち開拓者はエスティアの領土を脅かす侵略者ってことか」
「そういうことにゃ」
俺たち人間はエスティアという街のことを何も知らないというのにミミは俺たちグランバリエの人間のことを知っているという。
これって支部長に報告しないといけない問題だよなぁ……。
見殺しにはできなかったとはいえ、どうにも頭の痛くなる話に関わってしまった気がするよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。