六日目 作品選考
おはようございます。ささたけです。
さて、五日間にわたるレビュー、いかがでしたでしょうか?
個人的にはこの五日間、不規則更新になってしまって大変申し訳ありませんでしたと思いつつ、日付だけは守れたことを密かに誇りにしております。
それではもう少しだけ、今回の企画を振り返ってみます。
まずは二十時更新が守り切れず、心が張り裂けそうでした。申し訳なさに、消え入りたくなりました。具体的には、五日目あたりから。
個人的には途中から、「そもそも俺はレビューを書いているのだろうか? 今書いているこれは、本当にレビューなんだろうか?」という疑問が脳内を駆け巡っていました。具体的には、四日目あたりから。
それはともかく。
「どの部分を抜き出して紹介しようか」ということに頭を悩ませ、結果的に冒頭ばかり紹介するという安定をとり続けたおかげで、「最初の百ページだけ読んでレビューしても大丈夫じゃね?」などと非常に不埒な思いが頭を巡ることもありました。具体的には、三日目あたりから。
「どうしてわざわざ俺は、金を払って苦しい思いをしているんだろう。購入した時にはあんなに心が弾んだはずなのに――」などと、自分で言いだしておきながら本企画の愚かさと恐ろしさに、目の前が真っ暗になりながらも読書を続けていました。具体的には、二日目あたりから。
それはともかく。
本企画において「話の核心には触れないままで作品の魅力を伝えなければいけない」という点が、かくも難しいものかと思い知りました。あまりの難しさに、「こんなことやめておけばよかった。面白半分で手を出してはいけなかった。いっそ、名前と作風を変えてエブリスタに
それもともかく。
ここで本来の目的に立ち返りたいと思います。
そうです、選考です。
改めて、作品を確認してみましょう。
【第百六十五回 直木三十五賞候補作】
・テスカトリポカ(佐藤究 著)
・
・スモールワールズ(一穂ミチ 著)
・星落ちて、なお(澤田瞳子 著)
・おれたちの歌をうたえ(呉勝浩 著)
すべてを通して読んだ感想は「全部面白かった」なんですが、それでは選考にならないので、これから全作品を比較しつつ考えていきたいと思います。
まず第一に、一番引き込まれた作品はどれか。
これは『テスカトリポカ』と『おれたちの歌をうたえ』で悩むところですが――個人的には『テスカトリポカ』でしょうか。『おれたちの歌をうたえ』の昭和・平成・令和を繋ぐ大河ミステリーにも没頭しましたが、やはり『メキシコの
そんなわけで、「読者を引き込む文章の腕力」を一番感じた作品として、まずは『テスカトリポカ』に一票。
続いて、もっとも心動いた作品はどれか。
これも悩みます。
『スモールワールズ』の多角的な感動か。
『高瀬庄左衛門御留書』の最後まで一本芯の通った生き様か。
『おれたちの歌をうたえ』のどうにもならない現在をどうにかしようとあがく人間臭さか。
その中で、読後の心の揺れ動きを思い出すなら――それは『高瀬庄左衛門御留書』に一票です。時代小説ならではの、現代では描けない人間模様の中で生きていく人間に思いを馳せることこそ、創作物の醍醐味でしょう。
最後に、もっとも直木賞らしい作品はどれか。
これにはご存じない方のために、少し説明が必要だと思うのでお話させていただきます。
そもそも直木賞という文学賞には、通常の新人文学賞を超えた側面があります。それは、
『以降の文学界の振興に貢献できるであろう作品に贈る』
というものです。
作品の出来はもちろんのこと、今後の文学界の旗手たりえる作家を選ぶのが直木賞であるとも言えます。ですがこれは言い換えると、巷間でそこはかとなく囁かれている「芥川賞・直木賞は話題性重視で選ばれている」ということでもあります。
ことの真偽は定かではありませんが、「直木賞はミステリー作品が選ばれにくい」というような『傾向』は間違いなく存在します。もちろん、ミステリーで受賞した作品も多々あるのですが。
上記の内容を含め、そういった直木賞らしさを加味した場合に選ばれるものは――『高瀬庄左衛門御留書』になるでしょう。
そもそも時代小説が選ばれやすい傾向もあるのですが、それは「老若男女問わず楽しめるジャンルである」というものがあると思います。その観点からすると、『テスカトリポカ』と『おれたちの歌をうたえ』は読者を制限するであろう作品です。同じ時代小説の『星落ちて、なお』は若干テーマとストーリーにとっつきにくさがあると思います。『スモールワールズ』はおそらく、選考委員たちにとっては「内容がライト」だと感じられるのではないかと。
このような穿った観点も含め、改めて『高瀬庄左衛門御留書』に一票です。断っておきますが、その他の作品が「直木賞にふさわしくない」と言っているわけではないのでご注意を。そもそも、私にそんなこと言う資格ありませんし。
さて。
以上三つの観点を踏まえ、私が今回の直木賞受賞作であろうと予想するものは――。
『高瀬庄左衛門御留書』
――ではなく。
『スモールワールズ』
――です。
いやごめんなさい。悪ふざけや逆張りじゃないんです。正直、『高瀬庄左衛門御留書』は有力候補だと思います。いやらしい話をするなら、映像化しても十分に楽しめる作品だと思います。「文学の振興云々」を考えれば、本当にこれが一番だと思うのです。
――ですが、少しだけ個人的な願望を語らせてもらいますと。
選考委員の一人である浅田次郎氏は、『
他方、今の時代はどうでしょうか。
未だ終息の気配も見えないコロナ禍。
飲酒運転で摘まれる若き将来の芽。
信を得られぬ政府と政治家。
異常気象、不景気、その他諸々。
とても平和と胸を張っては言えない状況だと思います――残念ながら。
ですが、だからこそ。
希望の証たりうる短編集の登場を願っているのです。
そんな選考とも言えない選考を経て、私は『スモールワールズ』を推します。まあ現実的な話をすれば、本屋大賞のほうがありそうですけども。
それはともかく。
今回の受賞予想。当たったら、拍手喝采、心星乱舞をお願いします。
――ちなみに。
「五冊の中から一冊選ぶだけなら確率は五分の一なんだから、山勘でも当たる可能性はあるじゃねーか」と思われた方。
直木賞には「同時受賞」と「受賞なし」というものもございます。私は確率計算に詳しくはありませんが、これらを含めるととても山勘では当てられない確率にはなると思います。
ですので、これが当たったら結構本気ですごいと思いますよ。
ま、最終的に願望に走るあたり、真面目に当てる気はないのですが――創作者たるもの、現実よりもロマンを求める方が正しい姿であるということで。
なにはともあれ。
今回の企画をご覧いただいた皆様、まことにありがとうございました。
興味がありましたら、受賞作決定後にいずれか一つでもお手に取ってみてください。どれを選んでも損をしないことだけは、私が保証いたしますので。
まずは、七月十四日の選考結果を楽しみにしながら――それでは、また。
ああ――。
最後の最後に日付守れなかった(白目)
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