愛情表現は控えめに。
返却された答案を見てみると、驚くべき点数が表記されていた。
解いた感じでいつもよりは良いだろうという手応えはあったものの、まさかここまでとは。
前回の平均を大きく上回り、九割前後の点数だった。
毎回のように十割近い点数を取っている凛華には及ばないものの、これはクラスだけでなく学年でもトップの位置にいるのではないだろうか。
生憎、学年順位が分かるのは答案返却が終わって一週間後くらいだ。
入学と共に勉強アプリをダウンロードさせられるのだけど、そのアプリ内で各々順位が発表される。
今は、それを楽しみに待つとしよう。
「順位どうだった?」
答案返却されて、一週間程経った。
放課後、デートの約束をして一緒に電車に乗っていると隣に座っている座っている凛華が聞いてきた。彼女は手に持っているスマートフォンを操作して勉強アプリを開いていた。
——どうやらもう順位公表がされたみたいだ。
カバンの中に入っているスマートフォンを取り出し、彼女と同じように勉強アプリを開いてみる。
……え?なに、この順位。
学年順位と表記されたその真下。つまり順位が表示されている場所。そこには2の文字があった。
目をごしごしと擦ってもその数字は変わるはずもなく、そんな俺を疑問に思ったのか、凛華は若干背伸びをして、スマートフォンの画面を覗いてきた。
「えっ!2位!?」
開いた口を両手で防ぐくらい驚いていた。
その仕草がいちいち可愛くて抱きつきたいのだけど、ここは公共の場。
我慢我慢。
「やったー!さすが一輝!」
俺以上に喜び、その大きな声に周りが何事かと振り向いた。大きな声を上げるだけでは終わらず、そのままの勢いで抱きついてきた。
さすがに恥ずかしいのですが……。
非常に、とても、すごく名残惜しいけど抱きつく彼女を引き離す。
さすがに言葉も無しにこの対応には不満だったようで。
「むー」
不服そうに、恨めしそうに、顔を少し上げて上目遣いをしている彼女の姿が目に映った。
すごく不満そうだ。
ハグとか、キスとか、そういった過剰な愛情表現はさすがにこの場ではできない。だって日本人だもの。別に俺がシャイとかヘタレとかじゃないよ?決してね。
ただ、自分の事のように喜んでくれた彼女にする対応ではなかったのかもしれない。
この場で唯一できる愛情表現。それはもちろん。
なでなで。
綺麗でサラサラな髪を優しく撫でてあげる。
これなら別に日本でも問題というかあまり注目されるようなことではないだろう。
気持ちよさそうに目を細めて、もっとやれ、と言わんばかりに頭をさらに突き出してくる。
これもこれで彼女が甘えたいだけなんだと思ったら、頭を撫でるだけでは足りなくなってくる。これ以上やればそれ以上のことを求めてしまいたくなる。
そう思って、そっと彼女の頭から手を離した。のだけど。
「……もっと。」
まだ足りない、とその一言に胸の奥がきゅってしまって。喉を締められたかのような息苦しさに、どこか幸せを感じた。
「このあと、予定変更」
本当は、ショピングモールで二人でぶらつくつもりだったけど。
「へ、どうするの?」
「俺の家に行く」
え、と声をこぼして困惑している凛華の手を取ってすかさず電車を降りる。
「え、ちょっ」
戸惑い、驚いている凛華の手をやや強引に引っ張る。
すぐさま逆方面の電車に乗り換えた。
向かうのはもちろん、俺の家。
「……行ってなにするの?」
「甘え足りないんじゃ?」
「そうだけど…」
さっきまであれだけ甘えたそうにしていたのに?少し納得がいってないみたいだ。
「公共の場だったら限度があるから。俺の家ならないでしょ?」
「うぅ、そうだけどさ。心の準備が……」
耳まで真っ赤に染めて俯き、恥ずかしそうにそう呟いた。
「…ばっ、そういうのじゃないってば!」
「え、してくれないの?」
「まだ、そういうのは早いと思います」
こっちまで恥ずかしくなって、思わず顔を下に向けた。というかなんだその爆弾発言は。年頃の女の子がするもんじゃないと思います。
なんで敬語になっているのか自分でもよく分からない。
「え、?ハグとかいっつもしてくれてるじゃん?」
顔を上げれば、にまにま、とこっちを見ながら笑う彼女の姿が目に映る。
は、はめられたぁぁ。
「ほんと、そういうのずるい。」
「ごめんってば、でもしたいのは本当」
「ばっ、またからかって!」
「……別に、からかってないもん」
「……え、?」
思わず素っ頓狂な声を上げた。
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