可愛いすぎる彼女との学校生活

飴と鞭、それもとびっきりのあまいもの。

 もう一学期の中間考査が目前だった。

 二年生となり、初めての定期考査だった。

 指定校推薦枠を貰って大学受験しようとしている身なので、成績上位をキープしなければならない。

 一年生の頃は学年上位に食い込んでいたが、最近は色々あったせいで、勉強に手を付けていなかった。

 もうテスト一週間前を切ろうとしているのにも関わらず、今日も相変わらず凛華と家でまったりデート中だった。

 以前は定期考査日の二週間前から、勉強に取りかかっていたのだけど……。

 さすがにこれには、危機感を覚えた。

「—あのさ、もう放課後遊ぶのやめにしよう」

「え、なんで?やだよ。なるべく一緒に居たいもん」

 隣で座ってただでさえ密着しているのにも関わらず、ゼロに近い距離感をずいっと、詰めてきた。少し動けば、キスができるくらいまで顔同士は近かった。

「もう、来週からテストだろ?もう勉強しないとまずいからさ」

「じゃあ私が勉強教えるよ?そしたら一緒に居れるし、一輝は成績アップ見込めるし。ウィンウィンだよね?」

「——いいのか?自分の勉強出来なくなるぞ?」

「それは安心して、テスト前だからって勉強することはないから。それよりも一輝と一緒に居る時間が少なくなる方が嫌だ」

 入学して一度も他者に学年首席を譲ったことがない凛華に教えを乞えば、成績が上がるのは間違いないだろう。凛華と一緒に居れるし。断る理由は無かった。

「じゃあお願いします」

 隣にいる彼女に会釈程度に頭を少し下げた。

「こちらこそ!わたし、きびしいよ?」



 それからの日々はまさに地獄スパルタだった。起床時間から就寝時間まで決められ、一日に出される課題の量が半端なかった。凛華が教えるのが上手い分、頭の中にどんどん入ってくる。しかも、その分勉強スピードも早くなる。

 一日の終わりの小テストが合格点に達していればご褒美。達していなければ課題が倍に。

 飴と鞭を上手く使ったその教え方は、非常に効果的で効率的であった。

 最初のうちは、彼女と勉強という浮かれるシチュエーションであったが、今ではその欠片もない。

 凛華からのご褒美(膝枕で耳かき)のために、勉強を頑張る毎日。

 軍隊のように徹底されたスケジュールを乗り越え、いよいよ中間考査が明日へと迫っていた。

「ここまで、よく頑張ったね!えらいよ!」

 頭にある柔らかな感触を感じながら上を見ると、豊かな山の先に彼女の笑顔が見えた。

 朝からの過酷な勉強に耐えた俺は、膝枕を存分に堪能していた。

「—あぁ、いつ死んでもおかしくないって思った」

「大袈裟すぎだよ」

「いやいや、本当に。勉強付きっきりで教えてくれてありがとな」

 朝からずっと教えてくれて、彼女には頭が上がらない。

「それは、当然だよ。だって私、一輝の彼女だもん」

「—うん」

 堂々と言い切る彼女を見て、なぜかこっちが恥ずかしくなってしまう。

「あはは、照れてるー」

「うるさい」


 上を見るのをやめ、正面に付けてあるテレビを見た。日曜日、それも夕方なのであまり面白そうな番組はやっていなかった。

「ねぇ、」

 ぱっとテレビを消され、その声に反応し上を見てみれば、すっと顔を近づけてくる。

 どこか誘うような視線。

「良い点とれるおまじないしようか?」

 ここでそれは何なのか、聞くほど鈍感ではない。

「遠慮しとくよ。そんなことされたら今までやってきたこと全部忘れそう」

「え、そうなの?じゃあこれで我慢してあげる」


 頬に少しだけ唇が触れる。口にするのはどうやらお預けらしい。

「それでも、破壊力抜群なんだけど」

「まあまあ、私も一週間我慢してたんだし?大目に見てよね?」

「そう言われると何も言い返せません」

「じゃあ、私もうすぐ帰ろうかな」


 窓の外を見ると日が落ち始め、辺りが少し暗くなっていた。


「そっか。じゃあ駅まで送るよ」

「いやいや、大丈夫。玄関まででいいよ」

「そう?」


 腰を落とし、靴を履き始めている彼女を見ていた。さらりとしたその髪。くびれたその細い腰。無性に後ろから抱きしめたくなる。

「じゃあ私もう行くね」

 靴を履き終えた彼女は腰を上げ、玄関のドアに手をかけた。

 それをぼーっと見ていた。

「——うん」

 その瞬間、ずいっと彼女が距離を詰めてくる。

 その勢いのまま、口に柔らかいものが触れた。


「油断大敵だね」


 前を見るとイタズラが成功した子供のように微笑む彼女の姿があった。


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