ねこ、そして告白。
「一輝みてみてー!猫ちゃんだよ!」
猫を見つけると一目散に飛んでいき、屈んでは猫をまじまじと愛でるように見ていた。
向島から帰ってきた俺らは、千光寺公園を目指して登山をしていた。
千光寺公園がある千光寺山は、尾道駅北側にあり、標高140m程の小さな山だ。
登山といえるほど大層なものではなく、細い坂道を登っているだけという感覚の方が近い。
今通っているのは、猫の細道という道だ。
所々に猫の置物があり、猫の通り道として使われているのか、猫の姿がちらほらみられた。
石段の補修もネコのデザインとなっており、よくよく観察してみれば、二次元ネコがあちらこちらに描かれている。
まさに「猫の細道」
不思議な空気感が漂っていた。
そんな猫の細道を歩いていると、道のど真ん中でふんぞり返っている大きな、言い方を変えればぽっちゃり体型の猫がいた。
心底だるそうにしているその猫は、ぶすっとした感じの可愛げのない猫だった。
まぁ他の猫とちがいこれもまたこれで可愛いのだけど。
そんな猫を見て、凛華は繋いでいる手を離してでも一目散にその猫の元へと飛んでいった。
「一輝みてみて!猫ちゃんだよ!」
見れば分かる。猫だ。ぶすっとした。こいつオスだよな。自分の彼女が異性に飛びついていくとか、猫でも嫌なんですけど?
「君はこんなところでなにしているのかにゃ?」
自然と猫語になっているのか、それとも故意的なのか。普段は絶対見られない猫語を話していた。
猫語を話す女の子は絶滅危惧種だと思っていたが。まさか凛華がそうだったなんて……。
ひじょーに可愛いです。彼女補正でとんでもない事になってます。
そのくだけたふにゃふにゃの笑顔写真に収めていいですか?
ポケットからスマホを取り出し、パシャパシャと夢中になって猫の写真を撮っている凛華を俺は連写した。
永久保存版ですな…。
「むー、触りたいんだけどなぁ」
恨めしくぼそっと凛華は呟いた。
野良猫を素手で触るのはよろしくないことをきちんと分かっているらしく、触りたいのに触れない、もどかしい気持ちがあるようだった。
「じゃあ今度猫カフェでもいく?」
触りたいから触る、当たり前のように凛華の綺麗な頭を撫でながら、そう誘ってみた。
「……ぜったいいく」
次のデートは決まったようだ。
当初は千光寺公園まで行くつもりだったが、日が落ち始めているのと、凛華が疲れているのを理由に今日は千光寺までとなった。
別に俺は全然余裕だけど。これはまじで。
どうやら本当はこの先にある「恋人の聖地」に行きたかったようだったけど、次回にお預けとなった。
「—今日、すっごく楽しかった!」
瀬戸内に沈む夕日に照らされ、ちょっと焼けた頬。千光寺公園まで行くことは出来なかったが、千光寺から少し離れた絶景スポット、通称「ぽんぽん岩」に来ていた。
「そうだな、今日やり直しができて本当に良かった」
そう言いながら俺は右手を鞄に忍ばせる。
本当は誕生日に渡すはずだったそれ
未だになんて言って渡そうかずっと悩んでいる。今日のデートで機会があればと思って持ってきたはいいけど、結局は自分に言い訳して後まわしにした結果まだ渡せてなかった。
「—わたし、一輝のこと大好きだよ」
突然の告白に、鞄を漁っていた手も止まった。
「こうやってちゃんとデートが出来て、ずっと一輝と一緒にいれて、触れ合って…。本当にやり直しが出来て良かった」
涙ながらに笑う彼女の背中には、美しい尾道の絶景。もやもやしていた気持ちもなくなってただ伝えたいと思ったいたことが溢れてきた。
「十七歳の誕生日おめでとう。言うの遅くなってごめん。俺も凛華とやり直しができて本当に良かった。俺も大好きだよ」
胸元で硬く握られ震えているその両手を手に取ってやる。
鞄の中から取り出したのは、随分と前に買ったネックレス。
初めての彼女のプレゼントに散々悩みに悩み、親友も連れ出して買った。別れたあと捨てようと思っても捨てきれなかった。今思えばこれが凛華との繋がりを守ってくれたものだろう。
驚きで言葉もでないといった様子だったのでひとまず頬をぷにぷにしておいた。
「つけてあげるから後ろ向いて」
言われるがままに凛華は後ろを向いた。
髪の毛から覗く首元が艶めかしい。
「よく似合ってるよ」
不思議そうにアクセサリーを手にとっては、なんの事か分からないといった様子だった。
でも段々とプレゼントを貰ったという状況を理解したみたいで、勢いよく胸に飛び込んできた。
「—ありがとう」
綺麗な夕日を背に抱き合った。息遣い、匂い、そして体温。彼女の全てを感じられた。
「—こちらこそありがとう」
なんで一輝がお礼いうの、と彼女は笑った。
「「これからもよろしくお願いします」」
おまけ—帰りの電車にて—
すっかりと辺りが暗くなり、電車に揺られながら二人で帰っていた。
散々歩いて疲れたせいか、凛華は隣で眠っていた。
凄い可愛いよな、隣の彼女の寝顔をみて自分の彼女がとびっきりの美人ということが未だに現実とは考えられなかった。
電車が揺れたタイミングで、自分の方に彼女の頭が乗る。
何の夢をみているのか、心地よさそうに眠っている彼女の写真を撮って、携帯の待ち受け画面に設定しておいた。
その次の日、学校にて待ち受け画面を彼女に見られた。
ちょっと怒るかな、と思ったけど
「おあいこだからね」
彼女も自分の寝顔を待ち受けにしていた。
いつ撮ったんだ?
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