へたれと天邪鬼。

「一度振ってしまった僕ともう一度やり直してくれませんか?」


 まだ、君のことがどうしようないくらい好きなんだ、との思いを込めて。嘘つきでも天邪鬼でも、そんなの関係ないくらい好きなんだ、と。

 もっと話し合うべきだった。もっとお互い素直に気持ちを伝えるべきだった。でもまだやり直せる。そんな想いを込めて。


 案の定彼女は大きく驚いたようだった。顔を上げて、綺麗な目が大きく見開き、少しの間泣き止んだ。だが再び俯くとより一層激しく泣いてしまった。


 余計なこと言ったかな、と後悔しかけたとき、視界がぐんと前に動いた。背中に腕を回され引き寄せられた。

 突然の出来事に、びっくりしたが彼女は自分に抱きついたまま、声にならない声を絞り出した。

「本当に……もう一度付き合ってくれるの?」

「あぁ、もう絶対離さない」

 自分からも彼女を強く強く抱きしめた。もう二度と離さない。ずっと傍にいると。

 それに応えるようにして、自分の背中に回った腕も力が入った。


「でも……まだ一輝から好きって聞いてない」


 胸に押し付けられていた顔が少し離れ、自分をまじまじと見つめる彼女の顔が下にあった。

 はやく聞きたくてしょうがないと言わんばかりに、腕の中でうずうずしているのが伝わった。彼女があれだけ好きと言ってくれたにも関わらずまだ自分はそれに応えていなかった。

 この言葉を口に出すのは少し恥ずかしいけれど。同じ失敗を繰り返さないために。今度はきちんと言えるように。

「凛華のことがどうしようもないくらい大好きだよ」


 彼女の柔らかそうな頬が朱色に染る。


「……もういっかい」

「大好きだよ」

「も、もういっかいだけ」

「凛華のことを愛してます」

「うぅ、私も大好きだよ」


 彼女は意外と欲しがりのようだ。照れたように再び俺の胸に顔をうずくめる。泣きながら笑っていた。

「あと百回」

「それは残念ながら、今の俺にはそれだけ言い切るほどの心の余裕がない」

「…けち」

 彼女は一言短く言って、口を尖らせた。

 百回も言えるほど心に余裕はないけれど。なら言えない代わりに、せめて行動で示すことにしよう。

 俺は見下ろすようなかたちで、真っ直ぐに凛華を見つめた。

 俺の意図が無事伝わったみたいで、彼女は目を閉じた。それを待ってから俺は両手で彼女の顔を支えるようにして唇を重ねる。

 離したくない。

 いつまでも彼女と唇を重ねることはできるが、同じ制服を来た学生をみつけ、慌てて唇を離す。


「えー、もう?」

「ごめん!続きはまた今度!それにもうそろそろ登校する生徒にみられるかもしれないし」


 これで勘弁してほしい。これ以上のキスは理性を保つ自信が無い。


「…別に見られてもいいのに。」



 

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