後悔そして喪失感。

 横断歩道を渡りきり後ろを振り返れば、凛華が一人突っ立ったままでいた。

 ざまぁみろと心の中で悪態をついた。

 でも、そう思えない自分がいた。別れると告げた瞬間の今にも崩れ落ちそうな顔を見てしまった。


 これでいい、これでよかったと思うようにしようとすればするほど後悔が生まれてきた。


 本当に、別れてよかったのか。


 こんな別れ方でよかったのか。


 そんなことを考える度に自己嫌悪に陥り、どんどん歩くスピードが上がっていく。

 ちょうどよくホームに来た電車に滑り込んだ。

 下校時間ということもあり、電車の中にはたくさんの学生がいた。隣にいるカップルを見ながら考えているのは凛華のことだった。



 あれから家に帰ってみても、どんどん後悔が生まれていく。晩ご飯は大好物のハンバーグであったがそれすらも喉に通らなかった。

 明らかに様子がおかしい一輝に母は心配し、普段悪態をついてくる妹にはあろうことか気を遣われる始末。

 一人部屋に篭もり、机の上に置いてある明日渡す予定だったそれを見ては、捨てようか迷う。思い切って捨てようとしてみるも、未練がましく捨てれなかった。机上に立て掛けてる写真立ても捨てたいとは思うが実行に起こせなかった。


 自分が振ったのにつらい。


 あいつが素直じゃないのは俺が一番よく知っているはずだった。


 なんであいつの事を理解しようとしなかったのか。


 その日は寝ることが出来なかった。




 次の日もその次の日も出掛ける気分には到底なれず、二日間の休みは終わりを告げた。


 月曜日の朝、いつもより格段に早い時間に家を出た。

 母親には相変わらず心配され、妹に関しては勘づきはじめているようだった。


 付き合っていた当初は毎日駅で待ち合わせをしていた。凛華は俺とは駅ひとつ分学校から離れており、凛華が俺の駅に一足先にきて一緒に電車を待っていた。


 今日いつもより早く出たのは、凛華に遭遇したくなかったからだった。もう別れたのだから凛華はいちいち俺を待つ必要はない。だから登校時間を変えなくても会わないとは思うけど、もしもの状況を考え、二本くらい早い電車に乗ることにした。


 階段を降り、駅のホームに着くと目の前には見覚えのある美しい女性が立っていた。

 今まで何度も見て何度も触れ合ったその女性。


 凛華だ。


 彼女を見ると胸が痛むのが分かった。二日開いたくらいでは失恋の痛みは治っていなかった。

 彼女もこちらに気づくと、一目散にこちらに向かってきた。

 ものすごい勢いで向かってくる凛華を避けることは出来ずそのままの勢いでぶつかった。

 振った腹いせかと一瞬思ったがそうではなかった。胸の中にいる彼女は大粒の涙を流していた。わけがわからなかった。


「…ご…めん」


 消え入りそうな声だった。彼女の腕は俺の背中に回っていて力いっぱい抱きしめられていた。

 朝早いこともあって周りには学生の姿はなく、それほど人もいなかったが、朝っぱらから男の胸の中で泣いている女がいればそれは当然注目が集まる。


「ちょっと待って、いったん落ち着こう」


 突然泣いている元カノから抱きしめられ、自分も落ち着いていれる状況ではなかったが、彼女がずっと謝っているので、まずは彼女を落ち着かさなければと思った。

「…本当に……ごめんなさい」

「わかったから、分かった」

 それでも彼女は留まるところを知らなかった。

「本当は…大好きだから……別れたくない」

 これにはさすがに自分も落ち着くことはできそうになかった。

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