「別れる」が口癖の冷たい彼女に「別れよう」っていったらめちゃ可愛くなった。

和輝。

プロローグ

broke up

苛立ちそして優越感。

 その日は、一輝が生きていた中で一番幸せだった。一年くらい片思いをしていた女の子への告白が成功したからだ。その時はただ嬉しくてしょうがなかった。彼女のことをずっと好きでいるんだと思った。ずっと付き合っていけるんだと思った。告白をした時の彼女の笑顔を見て、そう思った。まさか、付き合って半年も経たぬうちに別れる危機がくるなんて思いもしなかった。



「そんなんじゃ私と別れてもらうから」


 今では聞き飽きた彼女からの冷たい言葉。

 冷めきったその言葉は、鋭い刃となって俺の心に突き刺さる。

 最初は彼女の軽い冗談だと思って軽く受け流していたが、最近では毎日のように「別れる」の言葉を耳にするようになった。



 明日は付き合ってちょうど四か月になる。

 俺は彼女を喜ばせようと今まで二人で出掛けたことない場所でデートをしようと考えていた。

 考えた結果思いついたのは、ここ広島でも有数の観光地である宮島だった。

 カップルが良く行くデートスポットの一つであるが、俺と凛華は今まで一度も二人で行ったことがなかった。

 凛華が楽しめるよう彼女の好きそうな店を探して、一週間前から入念な準備をしていた。

 後は彼女をデートに誘うだけだった。



 学校終わりいつものよう彼女と一緒に校門を出て、帰路に就いた。

 人一人分の隙間を空けて横を並んで歩く。

 最近は彼女と会話をすることは無い。

 彼女が自ら会話を振ることは無くなったし、俺も凛華の顔色を窺うばっかりで会話を振ることはしなかった。

 ただ黙って二人で歩いて帰っていた。

 だけど、今日は違う。彼女をデートに誘うのだ。今ではすっかりこんな冷めきったような関係になってしまったが、この関係を解消したいという気持ちが俺にはあった。


 なかなか切り出せず、ただ時間だけが過ぎていった。黙々と二人で歩いている中、ちょうど駅前の信号で引っかかった。

「ねえ、明日空いてる?」

 このタイミングしかないと意を決して聞いてみた。

「なんで?」

 相変わらず不機嫌そうにぶすっと答えた。どうやら話してはくれるらしい。

「デートしたいと思って」

「……いいけど。どこ行くの?」

 今の態度じゃ断れるかと思ったから、素直に承諾してくれたことに少し驚いた。もちろん顔に出したらまた何かと言われそうだったので出してはいない。


「ちょっと遠いけど宮島に行こうと思ってる」

「なんで宮島なの?もっといいとこあるでしょ?」

 今日はいけると思ったけどどうやら駄目みたいだった。でも俺にも絶対引けない理由がある。

「いや、行ったことないところに行くのもいいかなって思って」

「だからって宮島なの?広島住んでるんだったら誰でも行ったことあるでしょ?」

「そうだけどさ……ごめん」

「なんで謝るの?」

「いや、もういいよ」

「はっきりして。一輝のそういうとこほんと嫌い」


 その一言で俺の中でなにかぶちっと切れる音がした。


「……あぁ、もういいよ。分かった。別れよう。もう凛華と付き合えそうにない」

「え、」

「今までありがとな。つぎは立派でかっこいい男を彼氏にしろよ」

 ちょうど青信号になったタイミングで横断歩道を渡る。

 凛華はその場に突っ立ったまま、後ろを歩いてこなかった。

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