いけない薬

バブみ道日丿宮組

お題:楽しかった幻覚 制限時間:15分

いけない薬

 人通りのない裏路地にーー男が転がってた。

 それを中心に血溜まりができてる。

 いるの私だけ。どうあがいても私が犯人だ。

 手にはまだ肉を貫いた感触が残ってる。手も何度も拭いたのに、赤が消えてくれない。きつい臭いだって残ってる。

 こんなはずじゃなかった……こんなことしたくなかった。

 だって男が乱暴に掴みかかってきたんだもん。

 そりゃ持ってた刃物が刺さっちゃうこともあるよね?

 でも、

「……どうしよ」

 人を刺していいことにはならないよね。

 でも仕方ないじゃない。

 お金をかけずに薬を手に入れるには脅すしかない。そこに殺意がなかろうがあろうが、大人しく手渡さないほうが悪い。

 そう……そうだ。

 私は悪くない。

 でも、殺しは良くない。足がつく。警察が私に気づく。

 嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。

「……ねぇ起きてよ」

 揺すってみても反応はない。より一層血溜まりを広げただけ。

「……」

 強盗事件にカモフラージュするために財布を盗むべきだろうか。

「いや……」

 素直に自首するのが一番だろう。

 何年……何年留置所で過ごすことになるのだろう。

 きっと両親と友だちは会いに来てくれる。寂しくはない。

 ただ……ネットもない、カラオケも、ファミレスもない留置所でストレスなく過ごせる自信はない。

「……あぁ」

 ここにきた意味を思い出した。

 おそらくこれが正解だ。

 男が身につけてたカバンを無理やり奪うと、それを見つけた。

 白い塊。

 夢の世界へと旅立たせてくれる魔法の薬。

 これさえあれば、どこへでもいける。そう幻だって現実にできる。

「……ん」

 塊を次々に口に入れる。

 こんなに食べるのははじめてだ。

 こうすれば、きっとだいじょうぶ。ぜんぶなかったことになる。

 そう。そうだよね。

「そうだ。家に帰らなきゃ」

 男に刺してあった刃物を手に取ると、私は路地裏を後にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

いけない薬 バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る