電車に乗って君のもとへ

青いバック

第1話 電車に乗って君のもとへ

 五年前、俺の幼なじみ千五百秋ちいほあきが電車に轢かれ死亡した。


 秋が死んだと聞かされたのは、俺の誕生日会が終わってすぐの事だった……。


母親が「秋ちゃんが隣町の図書館から帰ってる途中誰かに背中を押されて、電車に轢かれて死亡したって。今警察が死亡原因を突き止めてるらしいわ」


リビングで呑気にテレビを見ていた俺の目の前は、明かりが消え黒一色染った。


秋が死んだ……?嘘、嘘、嘘、嘘だ。と思い頬っぺを抓り、頭を打ち付けるが痛い。


「やめるんだ! 一縷いちる!」


父親に取り押さえられ、夢ではないと分からせられたそんな現実だけが俺の目の前にさめざめと置かれていた。


そこから俺は、電車に乗れなくなってしまった。

秋を轢いた電車に乗るかもしれない、と考えるだけで心の動悸が激しくなり乗れなくなってしまう。


だけども、俺は何度も電車に乗ろうとした。ずっと何回も。


心の動悸が激しくなろうが、何だろうが電車に乗ろうとしていた理由は秋が死亡した日夢に出てきてこう言ったんだ。



とそう確かに俺に呟いたんだ。


意識がちゃんとあり、秋の姿も声も確認が出来た、夢にしてはおかしすぎるほどに。


だから俺は一縷の望みにかけ、電車に乗れば秋を助けれるかもしれない、と思い何度も何度も乗ろうとしている。


プルル……プルル……。


胸ポケットに入れていたスマホが振動し、着信を知らせる。

スマホには、大学の友達新部誠にいべまことと表示されていた。


やっべ……忘れてた。

今日、は俺の誕生日パーティーを開いてくれると誠が言ってんだよな。


この電話は十中八九、俺へのクレームだろう。

だが、忘れてパーティー会場に行ってないのは俺だ。クレームにも対応するのが普通だろう。


ずっと鳴っている電話に出る。


「あっ、星夜せいや? 今どこ〜?」


「え、いや家だけど」


「おっ、まじ! なら良かったわ。 迎えに行くから家で待っておいて」


「わ、わかった」


「ほいじゃ」


クレームだと思っていたが、わざわざ家まで迎えに来てくれるという電話だった。


前日には迎えに来るとか聞いていなかったし、何なら各自徒歩で会場に来るようにと聞いていたが、急遽変わったのか?


まあ、誠はいつも気まぐれで行動しているしこの行動も何ら不思議ではない。


誠が来るのをベットに座り待っていると、玄関のチャイムが鳴り誠が来たことを知らせる。


「はーい」


「確保しろ〜!」


玄関の扉を開けた瞬間、誠の裏に隠れていた屈強な男集団が俺の足と手を掴み、身動きを取れなくしイヤホンとアイマスクを付けられ、何処へ輸送される。


何だ……何が起きているんだ?

唐突な出来事に、俺の脳はまだ処理しきれておらず混乱していた。


「おい、誠どういう事だ?」


「………!」


誠に何が起きているか尋ねたが、イヤホンからは爆音で音楽が流れており、何を言っているか一言も聞き取れなかった。


こりゃ、英語のリスニングより難しいや。


なすがままにどこへ連れて行かれていると、何処か人混みが多い所に連れて行かれる。


何処に行くんだ。まじで。


目も耳も封じられ情報を得るための器官が、鼻しかないため何がなんなのかさっぱりだった。


少しすると、階段を下りフカフカな椅子に座る。


椅子を座り、何かが動き出した瞬間耳鳴りが酷くし始め少しすると体にも痛みが走る。


痛い、痛い、痛い!何だ何が起きているんだ!?


痛さに耐えていると周りが明るくなり始め、気付いたら実家のリビングに居た。


「……? ここは?」


さっきまでしていたアイマスクもイヤホンも何処かに消え、今俺の目の前にいるのは四十過ぎた母親だけだった。


「あんたどうしたの? ここはあんたの家よ」


状況が理解出来てない俺は、「ここは?」とつい口にしてしまい、そんな言葉を発した俺を母親は不思議そうに見ながら実家と答える。


胸ポケットに入れていたスマホも無くなり、今が何年の何月かも分からない。


「母さん、ガラケーある?」


母親は今でもずっとガラケーを使っており、昔からガラケーを愛用している人だ。


今も持っているだろう。


「あるけど、どうして?」


「ちょっと貸して」

 

「いいけど、ほら」


母親から、ガラケーを貰い開くと表示されていた数字は、2016年7月16日……秋が死んだ日だ。時刻は夜の七時……。


俺は、タイムスリップをしたのか……?

確かに身長も中学生の時と同じだ。さっきの痛みは身長が縮んだからか?


七時……。秋が轢かれて死ぬ時刻は八時。


まだ、アイツは生きている。秋は生きている。

助けよう。ここに来たのも何かの因果かもしれない。

タイムリミットは一時間。


隣町には行くには、約五十分……ギリギリだ。


今もこうしているうちに時間は失われていっている。


「母さん、秋助けてくる」


「何言ってんの?あんた」


「言っている意味分からないと思うけど、そのままの意味。 誕生日会は帰ってきたらしよう」


立ち上がった俺は、母親にそう言うと母親は訳の分からなそうな顔をしていた。

親の立場だったら当然の反応だろう。だけど今は時間が無い。


「ちょ、ちょっと一縷!?」


リビングの扉を開け、玄関で靴を急いで履いた俺は電車にも乗らず自分の足で秋の元へ向かう。


電車に乗った方が早いかもしれない。

しかし俺の頭には、そんな思考は存在しなかった。

あったのは、秋を助けるという目的だけだった。


一度も止まることなくただ秋がいる、隣町の駅のホームを目指し駆けていく。

足が何度悲鳴を上げ止めようとしても、鞭を打ち無理矢理動かす。


時間は分からない。もう過ぎてしまっているかもしれない。


不安と焦燥を抱え隣町の駅に着く。

急いで切符を買い、改札をくぐりホームへ行き秋を探す。


電光掲示板には、八時。と表示されておりタイムリミットだったが必死に秋の名前を叫ぶ。


羞恥心を捨て、全てを捨て秋だけの名前を叫ぶ。


「秋ー!秋ー!」


「……いっちゃん?」


人混みの中から、俺の名前を呼ぶ秋の声が聞こえ人混みを掻き分けて声のした方へ必死に向かう。


人混みを掻き分けた先には本を抱え立つ秋が居た。


「……秋」


しかし、そんな安心も束の間だった。

次の瞬間秋は誰かに押され線路に落ちそうになる。史実通りに。


だが、違う所もある。今回は俺がいる。

落ちる秋の手を掴み、ホームへ引張り秋は膝を地面につけ座り込む。


「……いっちゃん」


「大丈夫だ。秋。救急車を呼んでもらう」


何が起きたか分からず、涙ぐんでいる秋を慰めながら周りにいた人達に救急車を呼んでもらう。


もしかしたら、引っ張った衝撃で何処かをおかしくしているかもしれないから念の為救急車を呼んでもらい、到着した救急車に秋は自分の足で乗り込んで行く。


「君も来てくれるかな?」


「あ、はい」


何があったかを説明するために俺も一緒に救急車に乗り込む。


救急車の中で何があったかを全て話し、病院につき母親に公衆電話から電話をかけ、秋の母親の明子さんと共に来てもらった。


秋はどこも異常はなし。との事だった。


「秋! 大丈夫!?」


母親と一緒に来た、明子さんが心配そうに秋に近付き顔や手を触り何も無いか確認する。


「大丈夫……いっちゃんが助けてくれたから」


「あんた、本当に秋ちゃんを助けたのね……」


「あぁ、まあうん」


出て行く前に行った俺の言葉が本当になったことに、驚きを隠せない母親が言う。


未来から来て、こういうことが起こると分かっていたと言っても、流石に夢見すぎている発言だから信じてもらないだろう。


「なんにしても、よくやったわね。 私の自慢の息子よ」


自慢の息子か……。母親がそう言ってくれ嬉しくなってしまう。


「一縷君。 本当にありがとう。 秋を助けてくれてありがとう」


俺の手をギュッと握り締め、頭を下げながらお礼を言ってくる明子さん。


「大丈夫ですよ。明子さん。 顔をあげてください」


「一縷君は、命の恩人ね」


たまたまこの時間に戻れただけで俺は、命の恩人なんかでは無いと思ったがここでそう思うのは、無粋だなと思い素直に命の恩人となる。


「ちょっと自動販売機に行ってくる」


外が暑く喉が渇き、母親に自動販売機に行ってくるといい、少しだけ席を外す。


自動販売機の光に群がっている虫達を払い除け、ポケットに入れていた小銭から120円を取り出し硬貨入口に入れ、水を一本買おうとすると、ここに来る時に味わった痛みがまた襲ってくる。


痛い、痛い、痛い!あぁ、まただクソ!

痛みに耐え、痛みが引くのを待つ。


痛みが引き始め、耳から歌が聞こえ始める。


……!何も見えない。耳からは爆音で歌が聞こえる。


戻って来たんだ。五年前からタイムスリップして2021年に戻って来たのか。


「星夜。 アイスマスクを外して」


誠が耳につけていたイヤホンを外し、アイマスクを自分の手で取るように指示する。


指示されたままにアイマスクを外すと、パーン!とクラッカーの音が部屋に鳴り響く。


星夜一縷!お誕生日おめでとう!、と書かれた垂れ幕に星のバルーンやハートのバルーンで飾り付けされた、見慣れない部屋に俺はいた。


「ここはどこ……?」


「私の部屋だよ。 いっちゃん」


聞き慣れた声と言われ馴染んだ、いっちゃんというあだ名。


そう俺の横には五年前死んでしまったはずの、秋が立っており息をして生きていた。


「秋なのか……?」


「うん、私だよ」


俺がさっきまでいたのは、本当に五年前で事実を捻じ曲げた未来が今ここにあるってことになるのか?


なんにせよ、秋が生きている。それだけの事実で十分だ。何も望まない。それだけでいいのだ。


「そっか……。 よっしゃ! 誕生日会の始まりだ〜!」


「ちょ、お前がそれ言うか!?」


「アハハ!」


あの時、誠が俺の事を目隠しをさせて電車に乗せたんだろう。

だから俺は、知らず知らずのうちにタイムスリップの条件を満たしたかもしれない。


ありがとうな誠。

お前のおかげで、今の未来がある。


電車に乗って君のもとへ。

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